第48話 要注意人物
ルイはこの日、朝から買い出しに出て忙しくしていた。
エドワードに言われた家に招待するという約束だったのだが、クレアも参加すると言い出したのだ。
そうなるとエリスも来たいと言い出し、その結果班であるアランも参加する流れとなった。
エドワードは家族も来るので、総勢六名をもてなさなければならい。
こんなことは転生して以来、ルイにとってはじめてのことだった。
そのせいなのか、ルイは妙に張り切っている。
翌日に備え、前日から動いているのだ。
ニクラモナールには刀の技法があることは銀の鍛冶屋で知っていたので、日本の文化に近い国なのではとルイは考えていた。
その結果、捜して醤油もどきのような調味料を手に入れていた。
いくつか料理の候補をルイは考えていたが、結果としては天ぷら、すきやき、魚の煮付け、そして鶏の唐揚げというメニューになった。
お寿司も考えたのだが、生魚というのと、聖都で手に入るお米がお寿司に合わないのでこれは断念した形だ。
天つゆは、手持ちの調味料ではうまくいかなかったので天ぷらは塩のみ。
魚の煮付けと鶏の下準備を前日にやって当日を迎えた。
「なぁルイ? これ卵生でつけるのか?」
エドワードが、すきやきの卵について確認してくる。
これはエドワードだけでなく、他のメンバーも同じような雰囲気があった。
「心配するな。用意した卵は全部神聖魔法で浄化してある。
お腹を壊すようなことがあったら、パナケイアにでも文句を言えばいい」
「ルイ様! それはパナケイア様に失礼ですよ?」
そう言って初めに手を付けたのはエリスと、エドワードの娘である六歳のカレンだった。
「マジかよ……そんなことに神聖魔法使ったのか」
「パパ! パパも早く食べて! これすごく美味しいよ」
「だろ? お肉死ぬほど用意したから、食べられなくなるまで食っていいぞ。でも野菜もちゃんと食えよ?」
「わかったー」
ルイの言葉に了解の返事をしたカレンは、合金製の鍋に入っているお肉の一/三を持っていった。
鍋には遠征やキャンプで使う魔導具で火を入れていて、こういうスタイルにカレンは少し興奮気味だ。
「ルイさん、夫から聞いていたイメージと違って、お母さんみたいなこと言うんですね」
なにやら楽しそうにして言ってきたのは、エドワードの妻であるニアだ。
「ルイ、もしかして子ども好きだったりするのか?」
「ん? そうだな。子どもはどの世界でも可愛いよな」
「おい、まさかうちのカレンを狙ってるわけじゃないよな?」
突然おかしなことを言い出したエドワードに、ルイは要注意人物を教えることにした。
「それを言うなら、ロリコンのアランに注意しろ」
「――! おい、そのロリなんとかってのはなんだ? なんとなく侮蔑を含んだ言葉に感じるんだが」
アランが慌てて訊いてくるが、それに口を開いたのはクレアだった。
「ロリコンというのは、一部の限られた人に使われる言葉らしいですよ。
なんでも貴族のようなものだとか」
「そ、そうなのか。知らない言葉だったから悪かった」
「いや、気にしなくていいぞ」
慌てていたアランだったが、クレアの見事な説明で落ち着いた。
「ところで、エドワードは俺のなにを話しているんだ?」
家でなにを言われているのか少し気になったルイは、ニアにエドワードのことを訊ねる。
するとニアは楽しそうにエドワードを見て話し始めた。
「この人クレア様の小隊に入ってから、ルイさんのことばっかり話すんですよ?
もうルイさんのことばっかりだから、カレンまでお友だちみたいな感じになってしまっていて」
ニアがカレンの口元についていた卵を拭くと、カレンが喋りだした。
「んっとねぇ、ルイはすごいんだよ」
みんな興味があったらしく、カレンに視線が集まっていた。
「どうすごいんですか?」
エリスがやさしくカレンに問いかけた。
「あのねぇ、パパより強いんだって。それと、あとね、ルイは嘘つきだけどやさしい」
「「「「…………」」」」
「この人、どんなにルイさんがすごいかって話ばっかりするんですよ」
「いや、だってさぁ、ルイはホントすごいぜ。俺はルイならリリスだって倒しちまうんじゃないかって思ってるんだぜ?」
「あんな化け物、倒せるわけないだろ」
「いや、ルイしか無理だろ? むしろ他に誰がって俺は思うぜ? ぶっちゃけ俺は、三騎士よりお前の方が強いと思ってるからな」
食事が終わり、クレアがつれてきた執事のウィリアムが紅茶の用意をした。
「ルイ! 遊ぼうよ!」
「エド? あなたがルイさんのことばかり話すから、カレンがくっついてしょうがないじゃない! なんとかして」
ニアがエドワードに言うが、カレンはそんなことそっちのけでルイのところにいく。
なにか遊ぶものがあればと思い、ルイは席を立って紙を持ってきた。
それを何度か折っていき、みんながなにをしているのか注目している。
「いいか? よく見てろよ?」
「わかった!」
力強く頷くカレンを見て、ルイはそれをスッと投げた。
「ええぇぇえええ! パパ! 魔法? 魔法?」
「おい、風魔法使えるのか?」
アランが訊いてくるが、ルイは魔法など使っていない。
ルイが折ったのは紙ヒコーキだ。
この世界で紙ヒコーキを飛ばしているのを見たことがなかったルイは、試しにカレンに見せてみることにしたのだ。
「魔法なんか使っていない。カレン、あれ取ってきてくれるか? そしたらカレンにも教えてやる」
「――! ホント? ルイ、嘘ついてる? カレンにもできる?」
「大丈夫だ、嘘じゃない。魔法じゃないからカレンにもできるぞ」
居間から玄関の方へ向かって、紙ヒコーキの持ち方と投げ方をルイは教える。
カレンが言われた通りにスッと押し出すように投げると、紙ヒコーキはスゥーーっと玄関の方へ向かって飛んでいった。
「ママ見た?! カレンにもできたぁ!」
「な、なぁ? 俺にもちょっと作ってみてくれよ?」
「お前は子どもか」
エドワードに言われ、ルイはもう一つ別の紙ヒコーキを折った。
今度は羽が広いものを折ってエドワードに渡す。
カレンと二人でエドワードも紙ヒコーキで遊んでいると、ニアがそれを見ながら口を開いた。
「ルイさんは不思議な人ですね。文献に出てくるような魔神も倒してしまった騎士様だと聞いていましたが、カレンと遊んでくれているのを見ると、とてもそんな風には見えません」
「あれはたまたまだ。っていうか、そんなことまで話してるのか?」
「はい。カレンにおとぎ話みたいに話していますよ」
「ママァー、もう帰るの?」
紙ヒコーキで遊んでいたカレンが来て、ニアに問いかける。
食事も終わり、ゆっくりもしたのでいい頃合いではあった。
「そうね。あんまりいると、ご迷惑になっちゃうからね?」
「えぇ~、やだぁ。お泊まりしようよ?」
カレンの言葉に困った顔をするエドワードとニアだったが、え? という顔をしている二人がいた。
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