第14話 つらい食事
クレアの小隊が活動を始めて、最初の数週間は任務が降りてくることはなかった。
デューンが気を使っていたこともあり、連携などの訓練に時間を費やすことができたのだ。
だがこの期間、ルイが小隊に現れることはなかった。
ルイはこの期間の間に、単独で魔物を狩りに行ってしまっていたのだ。
「訓練に少しは出るように言っておいたのに!」
クレアは連絡がつかないルイに憤慨していたのだが、任務が降りてきたことでルイに絶対参加するように言った。
クレアの任務に随行することは決まっているため、ルイがそれを反故にすることはないとクレアは思ってはいただろうが文句を言いたかったということなのだろう。
初任務の場所は、聖都から南にある街道付近。
人型の巨人であるCランクのオーガが三体目撃されていて、これを討伐する任務だった。
クレアが今回の任務で編成したのは二〇名。
通常魔物一体に三~四人での班編成で戦闘に挑む。
だが目撃がオーガ三体というだけで、それ以上いるかもしれないことを考慮しての人数だった。
残りの騎士団員は、もう一人の副団長であるゴードンに預けていく。
彼は平民の叩き上げで小隊の副隊長にまでなっている人物で、少なくない尊敬を集めている。
魔法聖騎士学院も入らず、戦場の功績だけで上がった彼は貴族の騎士からも慕われていた。
目的の街道は聖都から六時間ほどの距離で、今回はほとんど荷物らしい荷物はない。
馬車の用意もなくルイは食事が気になっていたのだが、初任務ということもあってそのまま出発することとなった。
全員が馬での移動は問題なく進み、目的地手前でクレアが休憩を指示した。
ここで食事を済ませ、一班馬の見張りを残して出発することを伝える。
ここから先は身体強化だけで移動し、魔物との遭遇に備えるということだった。
そして昼食が始まったのだが、用意されていたのは干し肉が二切れとパン一つ。
とても食事と言えるようなものではないとルイは思ったが、とりあえず今はそれを食べることにした。
「よぉ! 俺はエドワード・チェスター。同じ班だから、これからよろしくな!」
ルイが視線を向けると、ドカッっと隣に腰を下ろした騎士がいた。
歳は二〇代後半で、オレンジ色っぽい短髪。
話し方はサバサバしていて、たぶん嫌味っぽいことを言ったとしても嫌味に聞こえないようなタイプだ。
「訓練中ルイが来ねえから、隊長と副隊長の三人でキツかったんだぞ!」
「そうなのか?」
ルイの班員はクレアとアラン。そして今隣りに座っているエドワードだった。
本当はアランに他の班を任せようとクレアは考えていたらしいが、ルイの戦闘を見たことがあるのがクレアとアランだけであった。
その結果、アランも班員に加えて先陣を切っていくスタイルになったらしい。
「随分気さくな感じだが、エドワードは貴族でいいのか?」
「あぁ! 貴族っていっても、チェスター家は男爵だから平民とあんまり大差ない。だから気にすんな!」
「わかった」
「でもルイは、俺が言わなくても気にしてないよな? 三騎士のライルが来たときだって、全然おかまいなしって感じだったからな」
「まぁ、そうかもな。ところで、今日のこの食事はどうなんだ?」
「ん? 今日は日帰りだからよかったよな。もっと日数かかる場合だと、これを何度も食うことになるからキツイんだよ。
まぁでも、遠征中はこんなもんだから、早く慣れちまえよ。
この食事も仕事のうちみたいなもんだ」
「…………」
ルイがクレアを見ると目が合ったが、クレアはすぐに視線を逸らしてパンをかじっていた。
周囲を見回しても、みんな両手にパンと干し肉という状態。
どう見ても食事をしている、というような雰囲気ではなかった。
食事が終わり、各班で集まってそれぞれの役割を確認する。
まだできたばかりの小隊ということもあり、クレアが指示したことだった。
「適性からですが、ルイさんにはガードを務めてもらいます。
もし私が魔法で後衛に回るようなことがあってもそれは同じです。
基本はガードのポジションで注意を引いて、アタッカーのサポートでお願いします」
「わかった」
「やっとルイの実力が見れるのか! たぶんみんな注目してるぜ?」
「自分の仕事に注目しろ」
「ルイ、訓練に出てこなかったが大丈夫なんだろうな?」
「心配するな」
班での確認が終わり、討伐組の四班、一六名がクレアを先頭に身体強化をして駆ける。
「…………」
「ルイ、どうした? 腹痛いのか?」
エドワードがまた軽口を叩き、なにかとちょっかいをルイにかけてくる。
「いや、なんでもない」
「それにしてもクレア隊長の身体強化もさすがだが、ルイも余裕でついてきてるな」
「ここで遅れたら、アンタにあとでどんなことを言いふらされるか、わかったもんじゃないからな」
「それが嫌ならしっかり頼むぜ?」
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