第15話 オーガ討伐任務
走ること一五分、右側に小さな丘が見えてくる。
晴れた青い空、緑の草原に踏み鳴らされた茶色い轍が伸びていた。
そんな穏やかな景観と言えるような場所に、異物と言えるような色が混じる。
「散開」
クレアが剣を抜き、腕を広げて即座に指示を飛ばす。
初任務ではあるが、クレアが指示を戸惑うようなことはなかった。
しっかり命令系統も統制され、即座に動く騎士たちを見ても浮足立っている様子はない。
一班は後ろに位置を取り、他の魔物に警戒している。
うまく班を編成できていると、ルイは隊の評価をした。
右側の丘から大きな歩幅で迫ってくる三体のオーガ。
体長は四~五メートルで、景観にそぐわない赤茶色の肌でアンバランスな筋肉質。
スピードはないが、力任せに攻撃してくる魔物だ。
クレア班の左右に展開した班が大きく距離を取り、二体のオーガを釣る。
ルイたちに向かってきた中央のオーガが、拳を振り上げて打ち下ろしてきた。
それをクレア、アラン、エドワードは回避してそのまま突っ込む。
ルイは注意を引くために正面の位置を保ち、バックステップでオーガの拳を回避した。
クレアはオーガの膝裏を斬りつけ、アランとエドワードが後ろ足首を斬りつけてそのままオーガの背後へと回る。
たまらず膝をついたオーガは腰の辺りに向かって手を振るが、そのときにはすでにクレアたちは距離を取っていた。
ルイは最初に振り下ろされた拳が未だに手をつく形になっていたので、大きく踏み込んでオーガの手首を斬り裂く。
振り切った剣を返し、切断しきれていない部分を二撃目で斬り落とした。
オーガは唸り、目の前にいるほとんど棒立ちのルイに向かって逆の腕を振り下ろしてくる。
「スヴェル」
だがルイの目の前に迫っていたオーガの拳は、神聖魔法の盾に阻まれてそこで止まってしまっていた。
「ジャベリン」
オーガの後ろに氷が現れると、それは瞬く間にパキパキと音を鳴らしながら大きくなる。
一瞬で大きくなると、今度は割れて鋭利な二〇ほどの
クレアが剣を持つ腕とは逆の左手を掲げ、上空に発現した魔法。
それはオーガに合わせた大きさと薄さを兼ねた魔法で、敵を分析しながら戦闘を行っている証明でもある。
左手が振り下ろされるとジャベリンは一斉に発射され、オーガの膝裏をズタズタにした。
ルイが左手を左にいるオーガに向け、視線は右側のオーガへと向ける。
同時に左右に釣られたオーガに対して神聖魔法の盾が発現し、オーガたちが振り下ろそうとしていた腕を止めた。
途中でつっかえたようになったオーガに隙ができ、左右に展開した騎士たちが攻撃を仕掛ける。
ルイの目の前にいたオーガは膝立ちすらできない状態になっていて、倒れているところをアランとエドワードが背中から心臓部分を串刺しにして絶命させた。
「アランとエドワードはあっちに! ルイさんは私と向こうのオーガです!」
「「了解!」」
「――」
ルイとクレアが向かった方のオーガはすでに右腕が落とされていて、左足も立てない状態だった。
だが時間の問題というところで、そのオーガは突然寝転がって転がり始める。
「おい、マジか! なんだコイツ!」
「うわっ! あぶね!」
傍からみるとふざけた行動にしか見えないが、転がることでオーガは回転している。
巨体でそれをされれば、下手に接触すると巻き添えも考えられた。
魔法で遠距離攻撃をしているが、かすり傷くらいにしかならないのかオーガは転がり続ける。
「面倒なヤツだな……」
「ルイさん、スヴェルで進行方向の動きを止められますか?」
「ああ」
「なら私がそのタイミングで後ろを壁で塞ぎます。少し範囲が広いので、魔力を練らせてください」
三〇秒くらいして、クレアが目配せをしてきた。
ルイは壁をイメージして、神聖魔法の盾を発現する。
オーガの巨体はスヴェルに止められ、すかさずクレアが魔法を発動した。
「ワールキャステル」
クレアが使った魔法は、魔導士などが使う氷の上級魔法。
上級魔法は、属性のコントロールが高いレベルで行えなければ発動できない。
魔導士が使うことはあっても、魔法騎士が簡単に使えるような魔法ではなかった。
そのうえ氷属性は水と風の属性を扱うため、より難易度は高い。
これだけでも、魔法に関してクレアの才能は魔導士と遜色ないことが伺えた。
城の壁のような精錬された魔法が発現し、オーガの動きを封じる。
「今です!」
クレアの合図で、背中部分に空いている空間から騎士たちが心臓目掛けて剣を突き刺す。
身動きできないオーガはすぐに絶命し、ほぼ同じくらいのタイミングでアランたちの方も終わっていた。
「おいルイっ! お前俺より魔力コントロール上手いんじゃないか?」
エドワードが無駄に身体強化のままルイの下に来て言う。
若干興奮気味なようで、ルイは露骨に面倒そうな顔をしていた。
「それとも魔力量が多いのか? しかし神聖魔法を実際に使うところを見て驚いたぜ。
意外とルイは信心深かったりするのか?」
「……おい」
ルイの視線の先には、エドワードの後ろで耐えるようにしているクレアがいる。
どう見ても、エドワードの言葉で笑ってしまうのを我慢していた。
「エドワードさんの言葉は、私もわかりますよ」
「ですよね? ルイが一人でパナケイア様に祈ってるところとか想像できないし!」
「そんなこと一度もしたことないが、エドワードが怪我しても治癒はしてやらないからな?」
クレア小隊の初討伐任務はCランクということもあったが、怪我人が出ることもなく無事に聖都へと帰還することができた。
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