第13話 魔法騎士団
年度がかわった一月初旬朝、アランがメディアス邸に訪れていた。
クレアの小隊が正式に編成され、副隊長のアランが案内役となっていたからだ。
「クレア隊長、お迎えにあがりました」
「お待たせしました。案内、よろしくお願いします」
クレアが軍の制服で現れると、フレイアが目を輝かせてうれしそうにする。
「クレアお姉さま! とても似合っていて、凛々しいです」
「ふふ、どうもありがとう」
クレアがフレイアの頭を撫でて、二人はメディアス邸を出た。
「ルイは来ていないのですか?」
「ルイさんは直接向かうと言っていたようです。たぶん入り口の辺りで待っているのではないかと」
ルイが王城の前で待っていると、クレアとアランが向こうから歩いてくる。
制服に身を包んだクレアは
魔法騎士学院ではスカートだったが、軍ではホットパンツも制服にあるようだ。
そんなことを考えていたら、クレアとアランが目の前にまで来ていた。
「お前はクレア様の専属なのだろう? 迎えに来るくらいしたらどうだ?」
「遠慮しておく」
「……ちゃんと軍の制服は着ているみたいでよかったです。
もう少し愛想がよければ、騎士っぽく見える気がするんですけどね」
クレアたちと合流したルイは、アランの案内で会議室へと向かう。
小隊長であるクレアには、部屋の割当などない。
会議室で話すか、訓練施設でしか話せるような場所がないのだ。
王城の敷地に建てられた石造りの軍の建物は、地下に一〇〇〇人規模の訓練施設があり、一階部分は外部との対応をする場所だった。
アランが二階にある会議室の扉を開けて入ると、世間話をしていたであろう騎士たちが直立不動になる。
クレアのあとに続いて入ったルイの姿を見てもそれは変わらない。
だがルイの黒髪に視線が一瞬向くのは、ここでも変わらなかった。
席は学院と同じような感じで前に長テーブルが二つ。
その前に三列で隊員用のテーブルが並んでいる形だ。
クレアは前にある中央の席に座り、アランはその隣りのテーブルについた。
アランと一緒に年配の騎士がいて、もう一人の副隊長だということがわかる。
最前列には誰も座っていなかったので、ルイは窓際の最前列に腰を下ろした。
それは魔法聖騎士学院と奇しくも同じで、ルイが苦笑いしたのをクレアは見逃さなかった。
「最初に言っておくことがあります!」
騎士たちが座ったと同時に、クレアが立ち上がった。
「私たちは王国を守る騎士です。それは言い換えれば、領民たちを守ることでもあります。
私の小隊では、領民たちのために命を懸けてもらいます!
私もそのための方針、選択をしてみなに応えていきます」
クレアが話し終わると、そこにいた騎士たちが声を上げて立ち上がる。
それを見たクレアは、驚いてキョトンとしてしまっていた。
そんな反応があるとは思っていなかったのだろう。
クレアのような考えを持った騎士は、平民出身の騎士には多い。
だが貴族出身の騎士は、そういう者は少なかった。
家督を継げずに軍に入る者や、私兵を持てないような貴族が軍に籍を置くことが多い。
そしてそういう者たちが隊を率いることが多いのも実情だった。
今回新たに編成されたクレアの小隊は、領民のために戦える騎士たちをデューンが直々に編成した小隊だ。
そういう隊長を求めていたというのと、噂になっている白いステータスカードのこともあって、騎士たちはクレアに期待しているようだった。
そのあとすぐ、まずはクレアが持っているリストから自己紹介をしてもらうという流れになった。
主に魔法属性などの周知が目的だというのはわかる。
隊長であるクレアから始まり、順番に紹介を終えていく。
そして最後にルイが自己紹介をすることになった。
「魔法聖騎士学院、二年に在籍しているルイだ。魔法は神聖魔法。
討伐任務以外では、学院とこっちで行き来することになる」
ルイが話し終わると、和やかだったはずの雰囲気がなんとなく冷めた空気に変わっていた。
そして一人の騎士が立ち上がって発言した。
「隊長! ソイツは隊長がつれてきたっていうのは知ってますが、使えるんですか?
隊長はすでに俺たちと同等レベルの力があるというのは噂で知ってますが、ソイツはついこの間まで学院の一年坊だ。
聖騎士を下に見るわけじゃないが、ヒヨッコの聖騎士なんてお荷物だと思いますが?」
ここで罵倒なんてことにはならないが、それでも騎士たちの視線がルイに集まっていた。
アランはそれを見てため息をつき、クレアはどうしたものかと思案する。
そんなタイミングで会議室の扉が開き、一人の騎士が入ってきた。
「ライルさん?!」
クレアが驚いて入ってきた騎士を見るが、驚いていたのはクレアだけではなかった。
「「「「「三騎士のライル・ザドック」」」」」」
セイサクリッドには一人を除いたトップ三の騎士がいる。
彼らは国から三騎士と呼ばれ、隊を持たずに臨機応変に派遣されるセイサクリッドの戦力だった。
階級も隊は持っていないが師団長級の階級で、軍で彼らを知らない者はいない存在となっている。
「部外者が申し訳ない。婚約者の小隊長就任だから、挨拶だけでもしておこうと思ってね」
「ライルさん。そういうのはあとにしてもらえると助かるんですが?」
アランが言うと、ライルはにこやかに謝罪した。
「本当に申し訳ない。ただね、メディアス家で迎えた騎士がいるって聞いていたから、一目見ておきたかったんだ」
そういうと、ライルがルイへと視線を向けた。
ライルの身長は一七〇センチ中盤くらい。赤茶っぽい長めの髪で、赤い瞳がルイを捉える。
鎧は自前の物にセイサクリッドの紋章が彫られていて、貴族の騎士にはよくあることだった。
逆に平民の騎士は、大抵支給品を身につけている。
「さっき彼の話をしていたようだけど、地下で模擬戦でもしたらいいんじゃないかな?
そしたら隊員も彼の実力はわかるだろうし」
騎士たちの視線がクレアに向いていた。クレアもそれに気づいていて、どうしたものかと思案しているようだったが、ルイがクレアに声をかけたことで騎士たちの意識がルイへと向かう。
「もう顔合わせは済んだろ?」
「それは……そうですね」
「なら俺は帰らせてもらう」
ルイの言葉に、その場にいた全員が呆気にとられる。
まったく話の流れとは異なる言葉に、言葉を失うという状態だった。
一瞬静まり返ったところで、ライルがルイを止めに入る。
「いや、ちょっと待とうよ。キミ、今の話の流れわからない?
私も婚約者の側にいるキミの力は見ておきたい。
キミの実力がわかれば、私も安心できるし」
「なんで俺がお前の話に付き合わなきゃならない? そういう面倒はごめんだ」
ルイはあっさり三騎士であるライルの言葉を切って捨て、またもや呆気にとられている騎士たちを置いて会議室を出ていってしまった。
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