第12話 泣きそうな顔

*この回だけは残虐なシーンになるので、苦手な方は一番最後まで読み飛ばしてください。




「あ、あ――」


「っ――」


「う、腕がぁーー、俺の腕がぁ!」



 さっきまで右腕にあった落ちた腕を見て、リーダー格の男が取り乱す。

 それを見て慌てて上から剣を振り下ろす左側の男。

 ルイの左寄りから振り下ろされる剣を右側へと剣をあてて逸らし、ルイは身体が流れた男の太ももに剣を突き刺した。



「がぁあーーーー」



 腕を抑えてうずくまっているリーダー格の向こうの男が、逃げようと背中を見せた瞬間ルイの剣が脚を貫いた。

 ルイが投げて刺さった剣を引き抜き、倒れている男を蹴り飛ばして三人を一箇所に集める。

 ルイが今やったことは、まぎれもなく人を傷つける行為。

 顔色一つ変えずに腕を斬り落とし、躊躇なく脚に剣を突き刺す。

 クレアたちは突然のことに、黙って距離を取っている。

 いや、黙っているというより、なにをするべきなのかとか、思考が停止しているという感じだった。



「おい、お前このままなら出血で死ぬぞ?」



 ルイが見下すようにリーダー格の男を見て言う。



「神聖魔法で腕をつけてやってもいい。そのかわり答えろ。俺を殺れと依頼されたのか?」



 ガタガタと身体を震わせながら、リーダー格の男が答えた。

 それを確認したルイは、落ちている右手から剣を取り上げて男の傷口へと持っていく。

 浄化の魔法で清潔にし、そのあと治癒の魔法クーアを施して腕を繋げた。

 なくなったものを再生することはできないが、あるものを治癒することはできるのだ。

 そして腕が繋がったことを確認したルイは、他の二人と同じように脚に剣を突き刺した。



「あぁぁああぁぁーー」



 剣を引き抜いたルイが一瞬目を閉じると、突然その場から離れた。

 ルイが向かった先は、五〇メートルほど離れたところにいた学生たちのところ。

 四人のうち二人が、見るからに貴族であることがわかる剣を持っている。

 突然現れたルイに驚いている間に二人の胸ぐらを掴み、引きずって傭兵たちの下に戻った。



「お、おい、いきなりなにをする!」


「貴族にこんな扱いして、ただで済むと思っているのか!」



 突然さらわれるような形で連れてこられた学生が声を張り上げるが、それを無視してルイは傭兵たちに問い詰めた。

 なんの感情もない冷たい目で、すぐに傭兵の首を落としてもおかしくない雰囲気。



「依頼したのはどっちだ?」



 ルイは問いかけて、傭兵たちの仮面を順番に外していく。

 だが依頼主を言うわけにはいかないのか、痛みに耐えながら下を傭兵たちは向いている。

 そしてルイは、リーダー格の男の脚をもう一度剣で突き刺した。



「どっちだ?」



 残りの二人の傭兵にルイが目をやると、二人が同じ貴族の学生に視線を移した。



「なぁ! どういうことなんだよ?」



 ルイがつれてきた貴族のパーティーメンバーが来て訊ねてきたが、傭兵たちの姿を見て顔がひきつった。

 それを無視してルイが貴族の方へと視線を移す。



「私は知らない! なにを言っている。証拠でもあるのか!」


「ふざけんな! なにが軽い仕事だ! こんなの五万リルじゃ割に合わねーんだよ!」


「「「「「「――!」」」」」」



 傭兵の言葉に、他の学生たちも察しがついたようだった。



「ルイさん? これは、暗殺の依頼ということですか?」



 ルイはクレアのことを無視して依頼主だと思われる学生に寄ると、有無を言わさずに脚に剣を突き刺す。



「おい。お前が依頼主だってアイツらは言っているんだが、違うのか?」



 地面で刺された脚を押さえて、涙ぐみながらその貴族はルイを睨みつけた。



「ふざけるな! 証拠もないのに、黒髪がなんの権限があってこんなことをしている!

 私はそんなヤツラは知らん!」



 そう言うと、その貴族は手の平をルイに向ける動きをしたところをまたも剣で貫かれる。



「がぁあー、ぎざまーー」


「ルイさん! もうやめてください!」



 クレアがルイの右腕に抱きついて、必死に懇願した。



「あとは軍に任せましょう。これ以上はやり過ぎです」


「コイツを軍に渡したら、この件が片付くと思うか?」



 ルイの言葉にクレアの表情が固まる。



「この世界で証拠なんて、自白か怪しい金の流れしかない。

 金は間違いなく裏の金だろうから、そうなると証拠が出ることなんて稀だ。

 そして貴族のコイツは、すぐ釈放の流れになるんじゃないか?

 そうなるとまたコイツらは俺を殺りにくる可能性だってある。

 もうすでに、コイツらは行動を起こしたんだ」


 ここまで感情がないような冷たい目をしていたルイだったが、今はなぜか泣きそうな顔をしていた。



「クレアがどう思っているかはわからないが、平民が一人死ぬことなんてこの世界では大したことじゃない」



 そしてルイは、クレアを押し退けて泣きながら痛みに耐えている貴族の腕を斬り落とした。

 その場にいる何人かの学生は気分が悪くなってしまい、脇で地面に向かってもどしている。

 傭兵たちはいとも簡単に自分たちを痛めつけるルイに、恐怖以外の感情がなくなってしまっているようだった。



「吐かないなら別にいい。このままお前の腕を繋げずに治癒して、一生片腕にしてやる。

 そうすれば、今後お前が俺のところに来るのは防げるだろうからな」



 このルイの言葉に、のたうち回っていた学生が悲壮な表情を向ける。

 そしてルイが斬り落とした肩口へと手を伸ばすと……。



「わ、わるかった! 許してください! そ、それだけは許してください!」


「認めるんだな?」


「は、はい。だから、許してください」



 その言葉を聞いたルイは、救援要請の魔石を使った。

 そして主犯であった学生と、傭兵たちの傷を神聖魔法で治癒を施した。

 上空に待機していた騎士団員四人が来て、今回のことをルイが報告する。

 当然証言は全員一致し、傭兵と主犯であった学生は連行されることになった。

 その場にいた二つの班に関しては、すでに条件である討伐数をクリアしていたこともあり、そこで訓練は終了となる。


 依頼主であった貴族の班は深夜に面白いものが見られると言われ、早い段階で討伐をしていたようだ。

 深夜になると傭兵の一人が接触し、依頼主となにかを話していた。

 その後依頼主の班は移動し、二人の貴族がなにかを見ていたと平民の騎士が証言。

 平民の騎士は周囲の警戒をさせられていたので、現場に行くまではよくわかっていなかったらしい。

 騎士団員からルイたちへの聞き取りはあったが、ルイは正当防衛ということで落ち着いた。


 卒業試験のあと特になにかがあるわけでもなかったので、ルイとクレアが一緒に行動するようなことはなかった。

 そして十二月下旬、クレアは魔法聖騎士学院を卒業した。




 物語は進み始めた。

 ルイとクレアという二人の騎士が接点を持ったことで、否応なく歯車は回り始める。

 それぞれが運命へと繋がる選択に迫られ、それゆえに至る結末へと…………。

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