「なっ」の回

「伊敷さんは来れたら後から来るって言ってましたよ。今日、モアイがあるみたいです」

 上原君はいつも冷静に情報を教えてくれる。ありがたいけど今じゃない。金城さんは昼から飲んでいたからもう寝ている。という、どうでもいい情報までくれた。これも今じゃない。今欲しいのは、なぜここにこの人たちが突然現れたのか?だ。

 

 沖縄県のほとんどの飲食店は海が見えるわけではない。他県と同じようにどこにでも飲食店はある。たまたま今日は妻と一緒に食事をするために港の近くで食事をしていただけだ。

「遅くなっちゃったけど紹介するね。こちらが大城さん。隣が山城さん・・・」

 妻は動揺なくごく自然に紹介し始めた。本当の意味で無意味な時間が過ぎていく。私は全員してっるが、知らない体で話を聞いていた。滑稽なことに大城さんたちも話を合わせていた。妻だけがこの状況を違和感なく送っていることが不思議でならなかった。

「本当はしっているよ」

 私は意を決して妻に伝えた。妻は顔を真っ赤にさせた。こんな妻を見たのは何年ぶりだろうというくらい久しぶりで新鮮だった。酒のせいもあって面白かった。私たちはビールの次は夢航海という糸満市の酒を飲み続けた。ここでまた、新しい発見があった。酒には強いほうではないのに、今日は全然酔わなかった。それとなく上原君に聞いてみたら、この体になると大概のことでは変化がなくなると教えてくれた。例えば船酔い、車酔いなどは皆無になる。飛行機、シャトルなどは結構なGまで耐えられる。気圧も水圧もある程度(実際に計測してない)なら平気だと教えてくれた。


 十二時を回るくらいでこの謎の会は開きとなった。

「あの人たち、人間じゃないんだよ。私もだけど」

 帰り道、妻からの突然のカミングアウトは何となく気が付いていたことだった。妻が期待するほど驚くことができなかった私は窓の外を眺めていた。妻の話は続いていたが耳に入ってこなかった。セカイ、エイトマン、地震、すでに経験したことだった。

 妻の右手に私の右手を重ねて融合を試みた。簡単に融合できた。私の左手は妻の右手と一つになり、奇妙な状態の手になっていた。

「これって・・・」

 妻は驚いていた。私は融合をやめ、元の体に戻った。

「私も、なぜかこの体になってしまった」


 車内に妻の大きな声が響いた。


 


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