「ですよねぇ」の回
沖縄の料理はなじめないものが多い。なじみのない食材を使うものが多かったり、ネーミングが特徴的だったりするものが多い。言語が違うからしょうがないかもしれないけど、なかなかなじめない。「人参しりしり」はその最たるもので、「にんじん」は知っていても「しりしり」は知らないから、繋げると全く違うものになってしまう。この辺が気持ち悪いし、なじめなくなる。こんな理由から沖縄の人が行く地元の食堂みたいなところにはいかないことにしている。沖縄県内でもチェーン展開しているところをチョイスしている。
そして、味付けが濃いのもなじめない理由の一つになっている。確かに亜熱帯で暑いから発汗もおおく体中のいろいろな栄養分も持っていかれるため、濃い味付けじゃないと補えないのもわかるけど、私の体は、まだ濃い味付けを求めていない。
あの時見えたものはなんだったんだろう?歪みのように見えたけど、見間違いかもしれない。ここ何年かpcを使いすぎていて視力が落ちている。卓上カレンダーの細かい文字なんかも読めない。遠くのほうはぼんやりとしか見えない。
見間違いや勘違いもある。それでも何か知りたかったから私より視力のいい嫁のほうを見た。
妻と目が合いお互いに確認しあった。
歪みは確実にあった。
港に泊まっている何台ものクルーザーのような漁船のような船を眺めながら、歪みのことを考えていた。目の前に運ばれてきた料理にはほとんど手を付けず、コーヒーだけを飲んでいた。
「昔、あんなことがあったら白銀堂にいったの。白銀堂は海の神様が祭ってあるだって、おばあが言ってたよ」
コーヒーを運ぶ手が止まった。白銀堂?ハクギンドウ?
「それで、ハクギンドウに行ったことはあるの」
妻は答えなかった。
「沖縄の、糸満市の地震のほとんどの原因は、地殻変動とかじゃなくて、生き物の移動が原因らしいよ」
私は、妻からハクギンドウのことを聞き出したくて核心をつくくらいのデリケートな話をした。
「セカイっていう別世界の生き物が、こっちの世界にいる同種を追いかけてくるときにできる空間の歪みたいなものが地震の原因なんだって聞いたことがあるよ」
窓に映る妻は、口元だけ笑っているように見えた。
「それに・・・」
「もういいよ」
妻は笑いながらこっちを見ていた。
「本当は知っているんでしょ。ハクギンドウのことも、セカイのことも、私のことも。上原なんて苗字は、沖縄だったらどこにでもいるからばれないと思っていたけど」
私は、妻の話の趣旨がつかめなかった。私の知りたいのは、ハクギンドウの歴史的なことと、地元の言い伝え的なことなのに、妻の反応はそれとは違った。私は妻をそのまま見つめた。
「ハクギンドウは、秘密組織の基地なの。地震は外部からの攻撃なの。私は、その秘密基地の隊員なの!!いつから、知ってたの?」
妻は、一気に話した。私はものすごい速さで瞬きしていたと思う。秘密基地の隊員というところが子供みたいで面白かったけど、表情はまじめすぎて茶化すことができない。妻は勢いでビールを注文していた。私は、あっけにとられていた。
「かんぱーい」
何人かのグラスが視界に入ってきた。妻のグラスも乾杯の輪の中に入っていた。真横に上原君がいた。正面に山城さんと大城さん、照屋さんと喜納さんが妻を挟むように座っていた。
「高橋君は何か飲まないの?」
山城さんが陽気に聞いてきた。
「ですよねぇ。今、注文しようと思ってたんですよ」
なんとなくで、話を合わせながら、必死にこの状況を理解しようと努めた。
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