「えっ」の回

 髪の色以外は何の変化も起きなかった。話を聞くと、初めての時はみんな金髪になるらしい。髪の毛の色が収まると、それぞれ違う能力みたいなものが得られるという話だった。

 私は髪の毛が色が元に戻ったが、何も目覚めなかった。特殊な能力など得られなかったみたいだ。当然がっかりした。


 私は、大城さんとまた会えたうれしさよりも何も起きなかったガッカリ感のほうが勝ってしまい何とも言えない気持ちで地上に戻った。

 今の私は、寝なくていい。老けない。食事はいらないが食べることはできる。本当はこれだけでも十分すごいことなのだけど。

「なぜだー」

「なにー?」

 もやもやした気分を大声で発散した。ベランダにいた妻に聞かれてしまって、なんか恥ずかしくなった。

「工事終わったよー。パソコン使えるよ。Wi-Fiのやつ買いに行こうよー」

「わかったー」

 大声で話すとなぜかお互い語尾がのびてしまう。

 大城さんのことは適当に話して、そのまま買い物に出かけた。ルーターと中継器と子機と訳の分からない配線と諸々買ってたら、意外と時間が過ぎた。店から出ると夕日がきれいだった。海面に沈んでいく太陽をしばらく見つめていたら、遠くに歪みが見えた。

「今のみえた?」

 急に妻が言った。私は嫁を見た。嫁と目が合った。


 

 

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