「私も」の回
「おーい、高橋君お茶でも飲みにいかないかい」
大城さんは、初めて会った時のように、ふいに現れて、勝手に話しかけてきた。私は「少し待ってください。妻に話してきますから」大きな声でつたえ、リビングに行った。妻に知り合いと出かけてくると伝え家を出た。
大城さんのいる空き地に行くと地下への入り口があった。大城さんはそのまま地下に行った。私も続いて行った。
地下にはいつも通りのメンバーがお茶を飲んでいた。
「最近、地震少なくなりましたね」
「そうなのよねー。不思議とあの日以来、なかなかに暇になったのよ。年金だけだとあれでしょう。山城さんの畑手伝ったところで疲れるだけだから、ここにいるのよ」
「本人がいるのにそんな言い方、しなくてもいいんじゃないか。うちはアルバイトを使っているから、いいんだよ。高橋君もうちで働くかい。月20万円だよ。これくらい出さないと最近の子は続けてくれないからね」
「はぁ」
「照屋さん、山城さん、高橋さんが困ってますよ。高橋さんそのへんに座ってください。ユンタクはそれくらいにして、本題に行ってもいいんじゃないインじゃないですか」
「上原君も慌てないで。時間ならたっぷりあるんだから」
私も、大城さんの末裔のため、ある日突然変な能力が開花してしまい、寝なくてもいい体になり、なかなか死ねない体になった。大城さんのいうように時間は悲しいくらいたっぷりとある。
「ナチョスはどうしたんですか」
そこにいるよとジェスチャーで、大城さんが指をさした先には大きめの水槽に入っているナチョスがいた。
「あの日以来一言も話さなくなってね、体もとどめておけないみたいだから、水槽の中に入れてみているんだけどね」
「そういえば、食べるものもたべてないねぇ」
「あれも・・・」「そりゃ、そうだ」「・・・・漬物は」「なーべらーは・・」
誰が話しているのかわからないくらい各々が早口で話し始めた。私はナチョスに話しかけた。多少の動きみたいなものはあるけどナチョスからの返事はない。
右手を水槽の中に入れた。直接ナチョスに触れたかった。ゆっくりと慎重に水槽に人差し指から入れた。少し入れてそのまま眺めていたが何も起こらなかったので、右手水槽のから腕にかけて全部水槽の中に入れた。
ほんの少しだけ右手にナチョスの感覚があった。ナチョスはとても弱っているような感じがした。私は思い切ってナチョスを食べることにした。
融合を試みようと思った。一度ナチョスも私を食べているから、私もできると思った。後ろを振り返りナチョスと融合してみると全員に話した。やり方が解らなかったから聞いてみたら、そのままでいいといわれた。
言われた直後から、私の手が徐々に液体に変化していき、形のないナチョスが右手によって来る。ポンプに吸い上げられる水みたいに少しづつ水面が下がっていく。
水槽のナチョスが完全になくなった。私の体は何ともなかった。心の中でほんの少しだけ期待していたテレパシー的な、直接相手の脳に話しかけられる『あれ』を山城さんに試してみているけどダメだった。
私は振り返り、全員の顔を見た。
「初めての食事はどんな感じだ?」
大城さんが聞いてきた。
「はぁ。特にです」
なぜか全員が笑っている。
鏡の前の私は、金髪になっていた。
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