1月2日 07:00

「う……うるさ……」


 また、着信音で目が覚めた。

 目もろくに開かずに、近くのスマホに手を伸ばす。

 画面の光をまぶしく思いながらも少し目を開いて見ると『刈田日々姫』の文字。


「……もしもし」

『あ、もしもし~。起きた~?』


 昨日と全く同じテンションで話してくる。


「またか……」

『今日はルナ1号っていう、2日後に世界で初めての人工惑星が打ち上げられた日みたいだよ! 人工衛星じゃなくて人工惑星ね!』

「なんだそれ」

『なんか、ソ連のロケットで~、最初は月にぶつける予定だったみたいだね』

「それについて説明をしてほしかったわけじゃなくて、いきなりなんでそんなことを話し始めたかってことだ」

『え~、だって結人は勉強が好きなんでしょ~? 好きなことさせてあげれば起きるかなって』

「そうですか」


 寝起きに好きなことをしたら目が覚めるって言うのはよくわからないけど。

 そもそも勉強が好きなわけじゃないし。


『ちなみに、月にぶつけられたのは、それから9か月くらいかかったみたい。あ、えっとね~、ルナ1号は1959年に打ち上げられたから、今から……62年前? すごいよね~』

「そんなに前なのか。まぁ、ソ連のって言ってたもんな」

『それが今じゃ、小惑星から砂持って帰ってこれるようになるんだからすごいよね』

「はやぶさ2はニュースになってたよな。目標よりかなり多く持って帰ってこれたとかで」

『そう! なんかね、0.1g以上が目標だったのに、5.4gも持ってきたんだって! すごいよね~、目標の50倍って。逆に過小評価しすぎだよ~』

「前回は何かミスというか、不具合で想定より少ししか持ち帰れなかったとも言ってたから、低く見積もったとかもあるかもしれないな」

『そっか~……でも、何の役に立つんだろ?』

「何の役に立つのかを専門家が研究するんじゃないか?」

『そうだね~。それで、どう?』

「なにが?」

『目は覚めた?』

「……覚めました」


 そういえば起こすための通話だった。


『ならよかった。じゃあ、そろそろ迎えに行くね~』

「え、迎えって?」

『え、だって、今日もこれからランニングするでしょ~?』

「嫌だよ。筋肉痛だし」


 目が覚めてきて、少し体の向きを変えただけで、太ももらへんに少し痛みを感じた。


『筋肉痛は動けば治るよ?』

「筋肉痛は筋肉が回復してる証拠だから休まないといけないんだよ。昨日も言ったかもしれないけど、正月なんだから休ませてくれ」

『じゃ、用意しといてね~』

「話聞けよ」


 通話が切れてた。


「……今日はもっと厚着するか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る