五,赤いサンタの活躍


 結果はあっさり起こった。

 空飛ぶ赤いサンタは

『サンタさん、助けて!』

 という女の子たちの心の声を聞き、高層マンションの一室に飛び込んだ。

 窓ガラスをガッシャーン!と割って飛び込んだ……つもりだったが、お化けの体はガラスを通り抜けた。しかし厚いガラスがブルンと震え、

「うん? 風か?」

 と、住人の男は苛立った顔を向けた。

 こいつが誘拐犯人か!と絨毯に降り立ったサンタ刑事は睨み付けた。男はギョッとしたようにサンタ刑事の方を向いた。となりの部屋からもう一人、女が入ってきた。

「なあに? お金まだあ?」

 美人と言えば美人だが、キャバクラの元ナンバー1といった感じの、きつい化粧で美貌の衰えを隠しているような、疲れた感じの女だ。彼女も相当苛立っているようだ。

「簡単に大金が手に入るなんて、頭のいいのを自慢して、いったいいつになったらお金は届くのよ? わたしもうガキの世話なんて嫌よ? どこか誰も来ない山奥の山小屋にでも閉じこめてきてよ?」

「そんな場所、ガキ連れて行けるかよ? チッ、お世話なんてしなくていいから放っておけよ」

 男はうんざりしたように言い、女はカアッと怒った。

「わたし死刑なんて絶対嫌だからね! 警察に捕まって刑務所入れられるのもねっ! じゃあわたし知らないから、ガキどもはあんたがなんとかしてよね? どうするか、わたし絶対聞かないから。いいわね!?」

「ああ、分かった。俺が全部上手く始末してやるから、おまえはあっちでテレビでも見てろよ」

「そうする」

 女がとなりに戻っていき、見送った男はこっそり、

「ババアになりやがって。金が手に入ったらいっしょに穴に埋めて現役の若い女に乗り換えてやるさ」

 と嫌な笑いを浮かべた。


 天誅!


 と、サンタ刑事は怒りに燃えた。男がまたギョッとしたようにこちらを向き、不思議そうに顔をしかめた。

 ええい、こうしてくれる!と拳を握りしめたサンタ刑事だったが、背中のまた別の部屋から助けを求めるテレパシーを感じ、壁を透視……頭を突っ込んで突き抜けた。

 窓のない薄暗い小部屋に、衣装箱なんかを積み重ねた間に、二人の女の子が両手両足をロープで縛られ、猿ぐつわを噛まされて、座っていた。

 二人は突然壁からぬっと現れた赤い顔にびっくりして目を見張った。

 しーっとサンタ刑事は口に指を立てた。

「正義のサンタ刑事が助けに来たぞ。今悪党どもをやっつけてくるから、もうしばらく辛抱してくれ」

 かっこよくウインクして顔を引っ込め、さて、ボキボキ両拳の骨を鳴らし、極悪な男犯人に襲いかかった。




 ドタンバタンと暴れて物を派手にひっくり返す音が響いて、

 バタンとドアを開けて、男女がまとまって通路に飛び出してきた。

「こ、降参だ、もう、か、勘弁してくれ!!」

「お願い、殺さないでえーっ!!」

 マンションの他の住人が何ごとかとドアから顔を覗かせて、バタバタ変なかっこうで騒いでいる男女を見て顔をしかめた。二人は、紐で縛られているわけでもないのに、背中合わせにくっついて、上半身の自由が利かないで脚だけでバタバタ騒いで、まるで見えない袋でも頭からすっぽり被せられているような感じだった。

 悲鳴を上げて助けを求めながら、

「うっ、い、息が……」

「苦しい……、し、死にたくない……」

 二人とも口をパクパク、顔を赤黒く変色させて、白目をむくといっしょにばったり倒れて、気絶してしまった。

 いったいなんなんだと眺めていた住人たちは、赤い顔でサンタのかっこうをした男が、ビシッと親指を立ててニッと笑い、開け放ったドアの奥へ入っていくのを見た。


 物置部屋に戻ったサンタ刑事は、

「ハッ」

 と、気合いを発し、イリュージョンのように女の子二人のロープと猿ぐつわを解いた。

 自由になった二人はずっと同じ体勢で狭いところに押し込められて、すっかり痛くなってしまった体を二人で支え合って立ち上がり、

「ありがとう、サンタのおじさん!」

 とニコニコ笑顔でお礼を言った。

「うん」

 と力強くうなずいたサンタ刑事は、

「間に合ってよかった。無事で本当によかった」

 と微笑んだ顔を、急に、呆然と、寂しい表情に変えた。

 不思議そうに覗き込む少女たちに、再び優しく微笑み、

「さ、外へ。他の部屋の人たちに警察へ電話してもらいなさい。お父さんお母さんが心配して待ってるよ」

 と、部屋のドアへ促した。

「はい。ありがとうございました」

 女の子はお辞儀して、二人手をつないで部屋から出ていった。


 部屋から出た二人は、外から玄関を覗いている住人たちを見て、急に心細さが溢れてきて、わあーっと泣き出し、驚いた住人たちに訳を訊かれ、誘拐されたことを告げると、住人たちはびっくりして警察に一一〇番した。

 緊急のサイレンを鳴らしてパトカーが駆けつけ、女の子二人は無事に保護された。犯人の男女二人は、お巡りさんが呼びかけて肩を揺すってもまだ口からよだれを垂らして気絶したままだった。


 こうして小学二年生女児たち誘拐事件は解決され、

 物置部屋にたたずみ外の無事女の子たちが保護されたのを聞くと、サンタ男はスーッと姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る