第2話




「ありがとうございました」と礼儀正しくお辞儀をする安海さんに、先程とのギャップを感じられずにはいられない。そのスカートの最奥に未だ残っているだろう精液を考えるだけで、まだヤれそうだ、なんて思う。そんな俺に対して彼女は酷く冷静で、接し方が解らない。勢いでSEXした仲なのに、俺は彼女の好きな食べ物とか、苦手なタイプとか、何も知らないのだ。

「あの、…ホントに大丈夫? 親御さんに何か言われたら全然俺の所為にして良いから」

 もう日もどっぷりと沈み、女の子一人でこんな夜道を歩かせるにはいかない、と半ば強引に送らせてもらった。勝手な憶測だが、きっと安海さんはそんなに寄り道をするタイプじゃなさそうだし、両親も心配しているだろう。…まぁ俺がそんな彼女の身体を貪り尽くした結果なのだが。安海さんの表情は解りづらく、感情が読めない。もしかしたら両親への言い訳を考えているのかも、と俺は逡巡していたが、彼女は「大丈夫ですよ」と無表情のまま真っ直ぐに俺を見る。

「居ませんから」

「え?」

「私の両親、もう死んでるんで。今は親戚の家にお世話になってます」

「……そっ…か」

 一瞬、謝りそうになったが、すんでのところで飲み込む。謝ることでもないことを、俺は知っているからだ。些か気まずい空気が流れた気がしたがそれは俺だけだったようで、安海さんはもう一度お辞儀をして立ち去ろうとする。その背中が寒そうだった。だから無意識に、彼女の腕を掴んでしまったのだろうか。

「なんでしょう」

「あ、…えっと、」

 どうしよう。何も思いつかない。苦肉の策で「弁当、」と呟く。

「俺、料理好きなんだけど…。こ、今度安海さんの分も、作ってみて良い? いつも学食のパンだろ? 誰かに食ってもらうって考えて作った方が…た、楽しいんだ。あ、いや勿論! 安海さんが迷惑なら作んねぇから!」

 それは本当のことだ。料理は好きだからほぼ毎日弁当を作っているが、やっぱり誰かの為に作る料理は味見をしても心做しが美味く作れた気がする。それに自分と母親の分を作っているから別に一人分増えようが大したことではない。――寒そうな背中を温める案として、それが適切なのかは解らないが、このまま見届けるよりはマシだと思った。これで断られたら仕方ない。相変わらず、安海さんの表情は読みづらい。俺の顔を見て、掴まれた腕を見て、また俺を見る。微笑むこともせず、安海さんは「変わった人ですね、先輩も」と呟いた。それがYESかNOかも、俺には解らず、小首を傾げる。

「メロンパン、美味しかったんで。お弁当も食べてみたいですね」

「! じゃあ明日、持っていく」

「ええ。あ、でも先輩目立つんで…」

 そういうことで、昼休みに三年棟の屋上に集合ということになった。漸く晴々とした気持ちで安海さんを見送り、早速俺はそのままの足で買い出しに行く。


 部屋の中は暗かったが、俺の心はまるで小学生が遠足を楽しみにしている前夜のように浮き足立っていた。好きなもん何か、聞けば良かったなぁ。と考えながら明日の弁当の用意やらは母親の飯の用意を始める。冷蔵庫を開けるとどこかのデパ地下で売ってそうなタルトに「謡ちゃんへ。いつもありがと♡」というメモが貼ってあった。

「…相変わらず、汚ぇ字だなぁ」

 と、詰りながらも嬉しく思う。

 母、響子(きょうこ)は女手一つで俺を育てる為に今はキャバ嬢だった。十代で母親になってしまった女が就ける職は限られている。おまけに祖父母からの援助もない。それについて響子は話したがらないので、俺も聞かなくなった。同時に父親のことも一切聞かない。――だったら俺が、響子を守らなきゃ。と幼い俺はそういう思考に至った。正直、母親としてはどうかと思うことは多々ある。料理洗濯、家事全般がからっきしなのだ。響子に焦がされたフライパンやらシャツがどれ程あることやら。まぁお陰で一生独り身でも困らない程度の家事はできるようになったし、それが高じてこうして好きな女の子の弁当を作れる訳だが。

 だから、今日安海さんに両親のことに触れた時に謝らなかったのだ。幼少期に父親の話題になると皆一様に謝罪してきたのだが、俺にとっては響子が居ればそれで良いし、父親不在で困ったことは一度もない。今時片親は珍しくもないだろう。けれど、両親どちらも不在というのは、多少寂しいだろうな、と思う。――感情の起伏が乏しいのは、その所為なのだろうか? 元々の気質もあるのかも知れないが、それだけではない気がする。

「…ん?……――あッ!!」

 そして俺は今、たった今、自分の失態に気付いてしまった。

「……告んの、忘れた……」

 折角、「好きになっちゃいました」なんて言われたのに! 自分が言わなくてどうすんだよ馬鹿! その場に項垂れながら、告白シミュレーションを一から練り直すことにした。




 ただいま、なんて、もう何年も口にしていない。玄関を使うことは認められていないので勝手口から音を立てないように入る。明かりがついている部屋の前では極力気配を消し、一番奥の物置同然の小さな部屋が私の許された居住空間だった。布団と小さなテーブルだけがあるその部屋を見ても最早何も感じない。――生きることを許されているだけで、私は幸福なのだろう。自分のこの人生に、慣れてしまった。薄暗さで初めは気付かなかったが、テーブルの上には『今月分』と書かれた茶封筒があり、幾らばかりかのお金が入っている。アルバイトでもしようかと考えたこともあったが、それはそれで保護者の承諾だの何だのと手間をかけることになるので止めた。

 両親は駆け落ちだったらしいが、私が生まれたことによって二人の仲は徐々にヒビが入り、呆気なく離婚。母は私を連れて実家に戻ったが、…元々気の多い人だった所為か、突然蒸発。唯一私を〝私〟として扱ってくれていた祖父も私が九歳の時に他界してしまい、世間体を気にした叔父が私を引き取ってくれた。引き取ってくれただけ、ありがたいと思わなければ。叔父は酷く気の弱い人で、叔母の言うことには逆らえないらしい。

〝あんなコト〟をした後なので、流石にシャワーだけでも浴びたい。そろりと相変わらず気配を消し、様子を伺いながら浴室に行く途中で、叔母と遭遇してしまった。叔母の顔色はここ数年険しいもので、それが私と対峙すると更に酷くなる。

「五分で上がってちょうだい」

「はい」

 叔母も中々無茶を言うが、そう言われたならそうしなければ。言われた通り五分でシャワーは済ませたが、たった五分で家の空気は更に悪化していた。二階から怒声が聞こえ、叔母の啜り泣く声も聞こえる。この家の長男は数年前から所謂引き籠もりというやつで、私はもう既に彼の顔を忘れそうになってしまっていた。…八つ当たりされる前に部屋に戻ろう。

 寒々しい部屋で布団に被りながら考えるのは、今日の出来事だった。ああ私もう処女じゃないんだ、とか、そんなに私の声が良いのか、とか。けれど一番考えるのは――、

「…何年振りだろう」

 誰かに、あんなに優しくされたのは。祖父の手と少し似ているようで、違う。同じように温かいけれど。その微妙な違いというのが恐らく恋愛感情の有無なのだろう。――これが私の初恋になろうとは。正直自分はそういった感情と縁遠い人生なのだろうと思っていた。恋や愛を理解するのが難しい人間だと。そうではなかったのだなぁ、と思うと、存外自分にも人間味があったらしい。頬や耳が僅かに温かくなっているのが自分でも解って、…初体験を思い出させた。下腹部の奥から熱が広がっていく感覚を反芻しながら、目を閉じる。小森先輩が持ってきてくれるだろうお弁当のおかずを想像してみたが、あまり具体的な物は浮かばなかった。


 私は携帯電話を持っていない。河野さんとは学食にある自販機の前でどちらともなく待ち合わせている感じだった。私が携帯電話を持っていれば「今日は一緒に食べられない」と伝えられるのだが、致し方ない。いつもの自販機の前で河野さんがスマホを眺めていた。申し訳ないな、と思いながら近付くと河野さんが私に気付き遠慮がちに手を振ってくる。

「河野さん、あの…」

 私の歯切れの悪い口振りに小首を傾げる河野さんだったが、私の背後に目を向け、身体を強ばらせていた。

「あ、ご、ごめん。私っ、用事思い出しちゃった!」

「へ? あ…、」

 パタパタと足早に去る河野さんの後ろ姿を呆然と見つめながら、わざわざ向こうから断ってくれたことに安堵を覚える。彼女の様子から、――恐らく私の背後に小森先輩が居ることは容易に想像できた。

「…俺、あの子に何かしたかなぁ」

「三年にはあまり関わらないように言われてますから」

 やっぱり先輩だ。振り返れば先輩は苦笑しながら溜息を零している。わざわざ学食まで来てくれたらしい。先輩の手には二つの包みがある。些か周りの生徒がザワついているように感じ、先輩は居心地が悪そうだ。三年生の殆どはこの学食をあまり使わないからかも知れない。特に禁止されている訳ではないが、三年生全体が〝負〟の象徴とされているこの学校では、三年生自体も全校生徒が唯一集まる学食を避けている傾向がある。勿論数名はそんなことを気にせず使っているが、やっぱりその周辺の椅子は埋まりにくい。小森先輩も学食が使いにくいのか、単に必要がないのかは知らないが。

 学食を使うのは基本的に購買のパンや定食をそこで食べる生徒なので、必然的に私達は学食を後にする。先輩の後を着いていくと三年棟の屋上に辿り着いた。一年棟と二年棟の屋上は閉鎖されているのに、何故三年棟だけ開放されているのか、未だに理由が解らない。けれど折角開放されているのに、屋上には誰も居なかった。

「結構教室で食ってる奴のが多いんだよ」

「そうなんですか。勿体ないですね」

「いやぁ。皆最初の頃だけだぜ? 屋上で昼食うなんてさ。風とかで色んなもん飛んでいったり、変なもんが弁当の中入ったりするから」

 成程。そう聞くと学食が使いにくいなら消去法で教室になるのだろう。「まぁ俺は屋上好きだから晴れてたらここで食うけど」と笑いながら柵を背もたれにして先輩が座り込んだ。私はどこに座れば良いか解らず、結局先輩に促されるまま隣に座る。

「はい。安海さんの分」

「ありがとう、ございます。すいません」

「…ちょっと、張り切っちゃったけどあんまり気にしねぇでな?」

 先輩の頬がほんのり染まっていて、その顔をじっと眺めてしまう。

「な、なに?」

「ああ、いえ」

 可愛いなと思って、とは言わない方が良い気がした。

 丁寧に包まれていたお弁当を開く。上の段にはこれでもかと言う程多彩なおかずが並べられていて、下の段には炊き込みご飯があった。まるでデパ地下で売っているような、少し高価なお弁当のようで、先程先輩の染まった頬を眺めていた時のように、じっと見つめる。

「もしかして…、嫌いなもんとかあった?」

 不安が声色から感じ取れる。基本的に私は好き嫌いをしないので食べられない物はない。随分彼は私に気を遣ってくれている。そんな風に顔色を伺われたことがなくて、少し戸惑った。

 一番最初に目についた玉子焼きを一口かじると、口いっぱいに甘さが広がる。先輩の家庭では甘い玉子焼きなんだ、と逡巡しながら祖父を思い出した。祖父も玉子焼きは甘い方が好きだったなぁ。

「美味しい」

 独白のように吐露すれば、先輩は安堵する。他のおかずも、炊き込みご飯も、美味しかった。――こんな食事をしたのは何年振りだろう。胸の奥に温かい何かが広がっていき、私の心を踊らせる。先輩は相変わらず私の顔色を伺いながらも自分のお弁当を食べ進めていた。

 大した会話はないのに、気まずい空気は流れないのが不思議だった。河野さんと一緒に居る時ですら時折そんな空気が流れるというのに(それでも私とお昼を一緒に食べてくれる河野さんは、存外強固な心の持ち主なのかも知れない)。

 お米の一粒も残さずお弁当を平らげ、手を合わせる。こんなに満足感のある食事は本当に久しぶりで、また強請ってしまいそうである。いつの間にか先輩も食べ終わっていたようで「ご馳走様でした」と私が言った頃には既にお弁当箱を片付けていた。

 無意識に先輩の顔を見上げると口元にご飯粒がついていた。そしてまた無意識に無言で、指先をその口元に伸ばすと、ブロンズの瞳が存外近いことに気付く。ほんの一瞬、胸の奥でキーの高い音がしたが、それには気付かない振りをして、先輩の口元についていたご飯粒を自分の口に含んだ。

「ッ…、」

 先輩の喉仏が上下する。男性特有のその気管に、目が離せなくなった。

「――せんぱい?」

 わざとらしく、先輩を呼んだのは、先日の熱がまだ私のなかに残留しているからなのだろうか。




 安海さんに呼ばれると、途端に鼓膜が熱を持つ。そこから脳へ心臓へ伝わり、愚息に集中した。だめだ、と脳内では僅かばかりの俺の理性が叫ぶのに、それを聞き入れる奴は居ない。

「ん…、」

 安海さんも、嫌がる素振りはない。舌が絡まるようなキスは断続的に彼女の甘い声を出させる。その声を聞く度に、俺の舌はもっともっとと、深くなっていった。

 コロ…、と俺と安海さんの膝の上にあった弁当箱はどこかに転がっていき、遠くの方で始業チャイムが鳴っているが、止まれない。俺はともかくとして、安海さんは気にすると思ったのに、彼女は正気に戻らないまま俺の首に腕を回す。

「は…ぁ……♡」

「っ…!」

 以前も感じたことだが、存外彼女は快楽に弱いのかも知れない。それだって俺の勝手な印象に過ぎないが、一般常識として、屋外でSEXすることに抵抗がなさすぎる気がする。

 そんなことを考える余裕は、安海さんの細い手が俺の愚息を撫でたことによって綺麗に霧散した。既に熱を帯び、硬くなった愚息を、まるで我が子のように撫でるその仕草は、安海さんの印象からかけ離れている。

 絡めていた舌を強めに吸い上げ、ちゅぽ、とわざと音を立てながら離す。青銅色の瞳は蕩け、その奥にはハートマークさえ見えた。

「可愛い…」

「は…ッ♡」

 片手を安海さんの頬に伸ばし、青銅色を見つめる。安海さんがまた俺を呼ぶと、鼓膜が焼けるように熱くなった。もっと、もっと、その声出して。俺の鼓膜を焼き尽くして。そう懇願するように太腿を撫でながら身体を密着させる。俺の耳元に彼女の唇が近付き、更に声を甘くして、俺を呼んでくれた。

 制服の裾から手を差し込み、下着越しに揉みしだく。柔らかく形の良い膨らみの中心は既に硬くなっていた。

「触ってもなかったのに、乳首、勃ってるよ?」

「ぁ♡ …う、そぉ…♡」

「嘘じゃねぇって。――安海さんのえっち」

「ふ…~~ッ゛♡♡」

 安海さんの身体が俺の言葉に反応する。そのことが更に俺の性欲を刺激した。

 制服をたくし上げ、質素な下着を目に焼き付ける。…なんか、中学生みたいなブラだなぁ。俺が言うことでもないのでわざわざ口には出さないが、俺の知っている女子高生の下着は、やたらと柄が多くて派手な物とか、キャラクターが連綿と並んでいたりとか。そんなイメージだった。けれど安海さんの下着は量販店で安売りされているような、…失礼だが年齢とそぐわない地味なものだ。

 まぁそんなことよりも、その柔らかな膨らみを味わいたい。相変わらず薄いウエストや浮き立った肋は目につく。それはこれから少しずつ、俺の弁当で補えば良い。

 背中に片手を回しながらまたキスをする。柔らかな唇の端から唾液が零れても、構わずそのまま口内を舌で犯し続けた。ホックを外すと僅かに揺れる膨らみから下着を浮かせ、漸く直接突起に触れる。

「んぁッ♡ ――んんっ♡」

 まだ慣れない刺激に戸惑っているような嬌声を俺は飲み込み、咀嚼するように口内で味わう。――安海さんの声は、やっぱり俺にとっては麻薬に等しい。溺れてしまったら最後、やめられない。

 指先で突起を弄び、反対の手をそろそろと下半身へ伸ばした。内腿を指先でなぞるように撫でれば、恐らく無意識に安海さんは脚を閉じようとする。そうはさせまいと、俺は些か強引に中心へ向けて手を差し込んだ。ショーツは汗だけではない体液で濡れそぼっている。布越しに花芯を押し込むと大袈裟な程に身体が飛び跳ねた。

「濡れ過ぎだろ」

「やぁ…♡」

 絶対嫌じゃない癖に。と言葉にはせず、代わりににんまりと笑う。びしょ濡れになったショーツをぞんざいにまとめるように掴み、持ち上げてみると、それだけで俺の手の中に愛液が溢れた。

「や゛ッ♡ ひっぱっちゃ、あぁ♡♡ せんぱ…やだぁ♡」

 俺の手が股の間にある為、安海さんははしたなく開脚するしかない。その絵面は、どんなAVよりも抜けた。ぷしゅ、と少量の潮が溢れ、それも俺の興奮材料になる。エロ過ぎて、マジちんこ痛い。

 快楽の海に身を投げそうな安海さんの腕を引き「ちょっと立てる?」と聞いてみる。安海さんは素直に俺の言葉通り、よろめきながらもその場に立ち上がった。

「パンツ脱いで、…俺に安海さんのびしょ濡れまんこ、見せて?」

「っ…ハッ…♡」

 安海さんに意識させるように、淫語を使う。基本的に安海さんは素直なのだろう。俺の言葉に何の躊躇もなく、下着を下ろした。そうしてゆっくり、俺に見せつけるように、スカートの裾を上げる。淫靡な色に染まった陰部からは愛液が湯水のように滴り、脹ら脛にまで垂れていた。その様に俺はまた生唾を飲み込む。羞恥と興奮と快感で震えている膝を掴み、――陰裂に舌を這わせた。

「へぁっ!?♡♡ まッ…♡ そんなとこ、なめちゃ…!♡♡」

 口内に甘酸っぱい愛液の味が広がる。溢れて止まらない為に口の端から零れてしまうのが非常に残念だ。花芯を舌で突きながら指を挿入する。その膣内の熱さと狭さに、目眩すら覚えた。…そういや、昨日まで処女だったんだもんな。そりゃあ狭いわ。本当はすぐにでも陰茎を突き刺してやりたい。しかし、先日は知らなかったとは殆ど慣らさずに挿入してしまった。それを考えると、せめて指二本程度が馴染むくらいには慣らしてあげたい。

 安海さんは快感で立ってられないのか、両足を震えさせながら前屈みになっている。それを支えるように安海さんの丸みのある尻に片腕を回してやった。

「あっあッあッ♡♡ せんぱい♡ らめ♡ べろ、きもちぃ♡♡ ――イっちゃう♡ しょれ、イっちゃう、からぁ♡」

 イって良いよ。という意思表示の為に花芯を思い切り吸い上げ、指をもう一本増やしてやる。ざらついた箇所を擦り上げれば、

「イ゛…ッ♡♡ あぁ゛ぁ゛~~ッ!!♡♡♡」

「――ッは…!」

 ――安海さんは、絶頂した。身体を痙攣させ、雪崩のように倒れ込む安海さんを受け止める。愛液と唾液で濡れた口元を拭い、抱えた安海さんの頬に稚拙なキスを贈った。

「気持ちかった?」

「ふぁぁい…♡♡」

 絶頂の余韻で、普段のクールな表情からは予想もできない程甘く蕩けた青銅色を知っているのは、きっと俺だけだ。そのことが俺の腹の奥にある情欲を加速させる。小さな唇を小鳥のように啄みながら、性急にベルトを外し、先走りで濡れた陰茎を外気に晒した。我慢し過ぎた所為か、バキバキに勃起した愚息は勢い良く安海さんの下腹部に、ばちんっと叩きつけられる。安海さんの青銅色が愚息に向いていて、それが何を訴えているかは何となく想像はついたが、…もう俺だって限界だ。

「…今度、な? もう限界なんだ。挿入れさせて? な?」

「……前も、そう言った」

「うん。だから、今度。…次やって?」

 そんなにフェラをしたがる女の子も珍しい。大抵はこっちが頼めば仕方なくやってくれることの方が多いのに。俺としちゃ、フェラ自体が嫌いな訳ではないが、――安海さんが例外なのだ。咥えられるとその声が聞けなくなるから。毎分毎秒、彼女の声を聞いていたいくらいなのに。

 安海さんは不服そうにしながらも、一度知ってしまった快楽を前に、腰を揺らす。……だからさぁ。エロ過ぎるから。奥歯をギリリと噛み締めながら、凶暴な自分の中の獣を落ち着かせる。できることなら、好きな子には優しくしたい。まぁこんなところで致してしまっている時点で優しさの欠片もないのだが。

 薄いウエストを両手で掴み、腰を浮かせる。亀頭を陰裂へ押し付けると、――ザワ…ッ、と抑え込んでいた獣がいきなり雄叫びを上げた。あ、これ、ヤバイ。

「はきゅ……ッ゛!?♡♡♡ ぁ゛…ッ、かは……!♡」

「ご、め、――ッ゛!」

 体位の問題もあったかも知れない。だとしても、こんな薄い身体をいきなり突き上げることはないだろう。しかもまだ処女を散らしてから二回目だと言うのに。――なのに、その苦しげで掠れた安海さんの声は、俺の聴覚と精巣を狂わせた。

「やべッ、で、――あ゛ぁ゛…ッ!」

「へぁぁ゛ァ゛…!?♡♡」

 ……おい嘘だろ俺。我慢してたっつったってよ。ここまで早漏なのは流石に色々とまずいぞ。と、予期せぬ射精感に俺自身、戸惑っていたが――、

「ん゛ん゛~~ッ゛!!♡♡」

「ぅお゛…ッ、」

 安海さんはまたしても絶頂を迎える。膣内の締まりがあまりにもキツくて、痛い程だった。痙攣を続ける身体から力が抜け、彼女の全体重は俺に預けられる。そうすると必然的に俺の耳元には安海さんの唇が近付く形になった。

「――せん、ぱぁい♡♡」

「ッ゛!!」

「もっと…♡ もっと、せーし…♡ ざーめん♡ くだしゃ…、――お゛ぁ゛……っ!?♡♡」

 プツン――、と頭の中で何かが切れた音がした。

「もっと…! ねぇ、安海さん。もっとえっろいこといって。俺の耳、安海さんの声で犯して」

 俺の脳内に霞が生まれ、理性というものは一切消えてしまった。細い腰を力いっぱい掴み、子宮口を突き破る。きっと痛いだろうなぁ、とどこかで思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。ぢゅぶ、と下品な水音が更に俺達の衝動を駆り立てる。

「ハーっ…! ハッ! あずみ、さ…! もう俺、イく、イくから…! また、中出ししちゃって良い? 良いよな? ッおれの、ザーメン、欲しいんだよなぁ!?」

「はひ♡ ほしぃッ♡ しぇんぱいの、ザーメン♡ せぇし♡ なかだし♡ ――ア゛…ッ!♡♡ イくイくイく……ッ゛!!♡♡♡」

 ドプッ――! とものすごい勢いで射精され、それと同時に安海さんの膣内は凶悪な程、俺の陰茎を締め上げる。俺にしがみつく安海さんの頭を撫でれば「ふぁぁ……♡」と甘い嘆息を吐き出した。唾液で塗れたその唇があまりにも美味そうに見え、噛み付く。予想以上の甘さに、未だ膣内に挿入されたままの陰茎が再び硬さを取り戻してしまった。

「あ♡ まだ、おっきぃ…です、ね…?♡♡」

 終礼のチャイムはまだ鳴っていない。




 どろり、と内腿に滴るそれに、思わず眉を顰めた。初めて授業をサボったことに若干の後悔もあったからかも知れない。先輩は頻りに「いや、ホントにごめん」と謝罪を繰り返すが、多少授業をサボった程度で揺らぐ程、私は不真面目でもなかった。もし教師に聞かれたとしてもどうとでも言い訳は思いつく。けれど、保護者に連絡されてしまうのは非常に面倒なので、このまま保健室に向かうことにしよう。そうなると早めに行って養護教諭に印象付けなければ。

「あず、」

「すいません。早めに保健室に行きたいので。失礼します。お弁当、ありがとうございました」

「え、あ、……えぇ?」

 先輩が何か言いかけていたが、気が焦ってしまい、ろくに話もしないまま私はその場を立ち去った。先輩は何を言いたかったのだろうか。

 保健室に養護教諭は居なかったが、丁度良い。勝手にベッドを使うことに抵抗はあるものの、どうしようもない脱力感のお陰で深く考えずに潜り込む。来る途中に寄ったトイレである程度は掻き出したつもりだったのに、まだ少し残っているようだ。それでも不快感はそれ程でもない。不思議だ。……先輩の、だからだろうか。

「……先輩、」

 思わず、口を手で塞ぐ。これは、重症だ。

 確かに私は彼に好意がある。けれど、それだけだ。彼は、小森先輩は、私の〝声〟に惹かれただけなのだ。私〝自身〟に好意がある訳じゃない。私は自分の立場をちゃんと弁えなければならないのだ。家庭でも、学校でも。

 扉の開いた音で目が覚める。養護教諭が帰ってきたらしい。カーテンを開けると養護教諭に「わっ」と驚かれた。

「すいません。いらっしゃらなかったので」

 勝手にベッドを借りたことを詫び、軽く布団を整えていると養護教諭に「三年かと思った」と声をかけられた。何故三年生だと思ったのだろうか。私が声に出している訳でもないのに、養護教諭は扉を指差しながら「お迎えっぽいのが居るから」と答える。…お迎え? 私にそんな友人は居ない。河野さんとはお昼を一緒に食べるだけの間柄で、今まで一度も下校を共にしたことはない。養護教諭に頭を下げ、扉を開けると、

「……何、してるんですか?」

 小森先輩が、そこに居る。しかも私の荷物を持って。

「いやー。安海さんから聞いてたけど、俺らってすんげービビられてんのね? 教室行ったらめちゃくちゃ避けられたよ。あ、具合大丈夫?」

 待って。まさか私の荷物を取りにわざわざ教室まで行ったの? …きっと明日から更に私は避けられるだろう。元々クラスメイト達と交流を持っていた訳じゃないので困ることではないけど。ところで、彼は私の質問に答えていない。

「何をしてるんですか。小森先輩」

 今度は疑問符をつけずに、語気を強めて。先輩は「余計なお世話だった?」と苦笑した。余計なお世話ではないが、何故彼が私の荷物をわざわざ持ってきてくれるのかが解らない。……もしや、あれでは足りなかったのだろうか? だとしても、今日はもう私も体力が限界だった。正直腰が重い。心情ではなく、文字通りの意味で。先輩は当たり前のように私の荷物を持ったまま「まぁ取り敢えず帰ろ?」と歩き出す。荷物を持たれたままなので、私は彼についていくしかない。

 またSEXするのかと内心ビクビクしていたのに、先輩は私の家に向かって歩いていた。歩調が合わないのか、時折距離ができては後ろを振り向き、私が隣に来て漸く歩き出す。その間、先輩は何か言いたげだった。口を開きかけては私を見て、また前を向く。やっぱりSEXしたいのだろうか。もしそう言われたら、きっと私は受け入れてしまう気がする。体力はもう殆ど残っていないけど、求められている内は、できるだけ応じたい。

「あ、安海、さん…ッ」

「はい」

 彼が漸く意を決したのは、この角を曲がれば私の家というところだった。ここまで来ると、流石に人目も気になる。この辺りには公園らしきものもない。私の家なんて、絶対に無理だし、そもそもあの家は私の家ではない。

「あ、あの、えっと…」

 ジッと先輩を見上げる。先輩の頬は夕暮れの所為で赤く染まっているように見えた。

「俺っ、君のことが――」

「――何してるのかしら」

 後ろから、女性の声が聞こえる。叔母の声だ。先輩が怪訝そうに叔母を見ているのは解ったが、私はそれどころじゃない。恐らく先輩も「まずい」とは思っている筈だ。いきなり背筋を伸ばし「あ、あああの…っ、俺、じゃなくて、僕…ッ」と何かを言いかける。だが、叔母がそんなことで気を許す筈もない。

「良いご身分よねぇ? 居候の分際で、恋愛ごっこ?」

「――は?」

「……」

 先輩、喋らないで。どうかそのまま、何事もなかったかのように、立ち去って。…そして、私のことなんて気の迷いだったのだと、忘れてくれれば良い。叔母は尚も続ける。恐らく、自分の愛息子が引きこもりという劣等感があるのだろう。彼女は私にきつく当たると気が紛れるのだ。

「まぁこんな不良にしか相手にされてないなら、あなたの価値もその程度なんでしょうけど。本当、母親にそっくりで、尻軽で…。私のたっくんも、あんたが来てからおかしくなったのよ!」

 息子のことを〝私の〟と表現する辺り、彼女も随分歪んでいる。だがそれよりも、先輩を只の不良だとレッテルを貼る彼女に、激しい憤りを感じた。――お腹の奥から、熱いマグマのような感情が一気に全身を巡る。こんな感情を持ったのも、拳を痛い程握り締めることも。だが一番は、他者にこれ程までの激情を向けられる自分に、戸惑っている。

「――うっせぇババアだなぁ」

「なっ!?」

「……――ふっ、」

 これは不可抗力だ。こんな状況で笑ってしまったのは、あんな礼儀正しく挨拶をしようとした先輩がいきなり叔母のことをババア呼ばわりした所為だ。先輩は私の腕を引き、抱き寄せる。その行為は叔母の神経を更に逆撫でするものだ。

「バ…ババア…ですって!?」

 そこで漸く叔母の顔を見る。今まで見たこともないような、酷い顔で、…更に笑いそうになった。普段の私は表情が乏しいらしいが、あの家に引き取られて初めて笑ったかも知れない。

「いやババアだろ。うちの響子のが余っ程美人だけど? あ、響子ってうちの母ちゃんね。いや一番可愛いのは安海さんだけど。――てか、やっと解ったわ。安海さんがこんな感じの理由。どう見てもお前の所為じゃん。別に他人様の家に口出すつもりねぇけど、お前は無理。女じゃなかったら普通に殴るわ。…あと加齢臭すっげぇんだけど。ケアした方が良くね?」

 先輩がこんなにも饒舌だとは。…どさくさに紛れに〝可愛い〟と言われたことに、また胸の奥からキーの高い音がした。私の知っている彼は(と言っても知り合って日は浅いが)、良く頬を赤く染め、視線を泳がし、吃っている印象が強い。――ああでも、SEXの時は非常に饒舌だ。そんなことを考えると、また笑いそうになってしまい、グッと堪える。こんな状況でそんなことを逡巡できる自分にも驚く。

「ねぇ安海さん。――俺ん家に嫁いで来ない? 母ちゃん居るけど、こんなババアが居る家より一億倍は居心地良いよ? ね? おいでよ」

 甘えた声なのに、有無を言わせない言葉だった。疑問符の意味はまるでない。叔母の存在を一瞬忘れそうになる程だ。

「――その前に、私達、付き合ってもないんですが」

「……いやだから、それをね、ちゃんと言おうとしたのに、このババアが邪魔したの! 人生初の告白だったのに!」

「はぁ。そうなんですか。…モテるんですね、先輩」

「え、やきもち? わー。可愛過ぎんだけど」

「あああ、あなた達!!!」

 叔母の怒声は人通りの少ないこの道ではやけに響く。戦慄く叔母に向き直り、私は姿勢を正した。

「嫁ぎ先が見つかったので、出て行きます。長い間、お世話になりました。本当に、ありがとうございました」

 にっこりと、今までにない朗らかな笑顔で叔母にお辞儀をする。叔母は先程までの激情をどこかへ落としていったかのように、きょとんとした顔をしていた。振り返ると、先輩も叔母と同様の表情をしている。

「……安海さん、俺以外に笑わないで」

「なんでですか」

「何でも!」

 先輩は私の手を取り、指先を絡める。叔母の横を通り過ぎるように、来た道を戻る方向に歩き出すと、冷静な私が「ああ、荷物、」と呟いたが、どうしてか酷く柔らかな声だった。胸の奥からずっとあの音がしていて、忙しないのに心地良い。

「あ、そうだ」と先輩が何かを思い出したように立ち止まり、私が見上げた瞬間、――視界は先輩でいっぱいになった。

「好きだよ。律」

 先輩の唇は少しかさついているのに、温かい。私の身体を抱き締めると、先輩の心音が私にも響いた。どくどく、どくどく、と落ち着いているとは言えない速度なのに、先輩は素知らぬ振りで「あー、やっと言えたぁ」と笑っている。……緊張してるの、バレバレですよ。

「私も、好きです。謡介さん」

 わざと耳元で囁くと、……下腹部に硬くなりかけた何かが当たった。

「……わざとだろ…」

「ええ。わざとです」

 謡介さんは「…俺が言うのも何だけど、意外に節操ないよなー」と苦笑する。あの胸の奥からする音が、今度は子宮から聞こえた。これが所謂〝ときめき〟というものなのじゃないだろうか。だったら私は、彼に何度も何度も、恋をしているということだ。



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声フェチヤンキーがクールな後輩女子の声に惚れちゃう話 元倉深吾 @riarin17

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