第43話 熊の話
餌を求めてくるのでしょうか。たまに熊が近所に出没します。山際の家ではそれはもう大変な騒ぎになりました。外出を控えたり、窓や雨戸を閉めて対抗するそうです。天災と同じで通り過ぎるのをじっと待つことになるのでしょう。
私の家は山から少し離れたところにあるので、そこまで熊に警戒したことはありません。実際に目で見たことがなく、半信半疑でした。今年も市から熊の情報がメールで送られてきました。
私のお散歩コースでした。そこでピンときました。実際に目にすれば小説のネタになるのではと。凶暴な
メールの情報で得た出没箇所を近い順に巡ります。それらしい姿は見当たりません。クロアゲハが飛んでいました。名を知らない草花が可憐な花を咲かせています。
樹液の匂いでしょうか。見つけたクヌギの周りを見ると、濡れた個所がありました。金属的な光沢のカナブンとスズメバチが争うように吸い付いていました。カブトムシやクワガタはまだで夏は少し遠いと感じました。
出会いたい時には遭遇しないもので、ただの散歩に終わりました。額に滲む汗を持参したタオルで拭き取り、家の縁側でぼんやりと過ごします。その時、プーンという羽音が耳を掠めます。パチンと上腕を叩きましたが逃げられました。
蚊は夏らしい生き物ですが、あまり嬉しい存在ではありません。仕舞い込んだ蚊取線香を取り出して豚の瀬戸物に入れました。ぷかーと丸い口から白い煙を吐き出してのんびりと蚊を撃退します。
ポケットの中のスマートフォンが鳴りました。メールです。内容に目を通すと、また熊の情報でした。私が探したところとは別の場所で発見されたそうです。おそらく今からいっても見つけることは出来ないでしょう。
熊は時速五十キロで走ることが可能と専門サイトに書かれていました。身近なツキノワグマを更に調べますと犬並みに嗅覚が良いとありました。知能も高いと。
私は頭の中であれこれ想像しました。空想も混ざって何やら話の原型のような物が形になろうとしています。短編で書けるのではと思い立ち、急いで部屋に駆け込みました。
間もなくして完成しました。タイトルは「運のツキノワグマ」です。5分で読書短編小説コンテストの参加作品になります。
実際の熊を見れなかったことが幸い(?)して、不思議なお話に仕上がりました。
お時間がある時にどうぞ、と宣伝して終わります。
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