第38話 節分

 昨日は二月三日で節分でした。過ぎてから気づきました。私が子供の頃、家で豆まきをしていたことを懐かしく思い出します。

 使う豆は大豆でした。母親がフライパンで転がすようにして炒っていました。部屋中に香ばしい匂いが立ち込めると、子供の私はワクワクで落ち着かなくなります。

「できたよ」

 母親の声を聞いて真っ先に駆け付けます。ほんのりと温かい豆を受け取ると豆まきの始まりです。

「福は内!」

 掛け声と共に部屋の中で豆を投げます。次も「福は内」になります。更に続いて「福は内」でした。我が家の豆まきに「鬼は外」はありません。

「外にいたら食べられないじゃない」

 母親の一言で決まりました。実に合理的な考えで、当時の私はすんなりと納得しました。

 豆まきが終わると楽しい時間の始まりです。部屋中に転がる豆を笑顔で拾い、夢中になって食べました。ここでも我が家の変則ルールが適用されます。「歳の数だけ食べる」ではなくて「欲しいだけ食べる」でした。

 子供の私は食い意地が張っていて冬ごもりのリスのように豆を頬張りました。拾う様は子ザルのようだと、父親に呆れ顔で言われました。

 最近の豆まき用の物は小袋に入っていることもあって、外に撒いても問題なく食べられます。衛生的には良いとは思うのですが、情緒的にはどうなのかな、と考えてしまいます。

 来年は外に撒く豆まきをしようと思いました。

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