第32話 バケツの縁に

 朝からすっきりと晴れました。天気予報では午後から崩れるそうです。その前にすることがあります。

 縁側の隅に置いた三個のバケツの確認です。ホテイアオイの根にメダカの卵が残っていれば、また新しい命が生まれて元気よく泳いでいることでしょう。


 わくわくしながら縁側に出て、一番、大きなバケツから見ていきます。水面に当たる朝陽を手で遮って中腰になりました。動いているものに目を向けるとボウフラでした。意図しないものがすくすくと育っていました。

 中くらいのバケツはホテイアオイの量が少なく、すぐに見終わりました。期待したメダカの子供はいませんでした。

 最後のバケツに目を向けます。縁に何かいました。コガネムシのようです。歩きながら内側に寄って水面に触れる前に、また縁に戻ります。同じような行為を続けながら一周しました。

 そして二周目に入りました。同じような行為が続きます。水を飲みたいという強い意志が伝わってきました。コガネムシの感覚では水面が遠く感じられるのでしょう。滑り易い足場にも苦労をしているようでした。

 私はその様子を歯痒い気持ちで見ていました。二周目も降りられず、三周目に入りました。静かな動作に秘められた熱意を感じます。

 ですが、途中で見るのをやめました。さすがに容易に想像できます。


 とか言いながら、またバケツを見ることになりますが。

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