第31話 メダカの話ですが

 火鉢を庭に出して水を注ぎ、その中にメダカを入れて飼っていました。見た目の寂しさからホテイアオイを購入しました。明るい緑の中を縫うように泳ぐメダカは私の目を、日々、楽しませてくれました。

 梅雨の時期に入りました。火鉢を見ることもなくなり、気付いた時には繁茂したホテイアオイに蓋をされて、メダカは酸欠状態に陥りました。

 助かったのは一匹だけ。ですが、すぐに斜めに泳ぐようになって仲間の後を追いました。何も泳いでいない火鉢を見るのが辛くて、今まで見ないようにしていました。

増えたホテイアオイは三個のバケツに保管しています。捨てる気分になれなくて、薄紫の花が咲くまで置いておこうと決めました。


 今日はとても暑い一日になりそうです。仕事に関連したことで家から出られない状態になっています。

 窓の外を見ていると、どうにも気になって仕方がありません。バケツに移したホテイアオイの中の水が湯のような状態になって、枯らしてしまうのではないかと。全滅の文字が頭に浮かび、じっとしていられなくなりました。

 私は急いで縁側に出ました。日陰に置いたバケツを覗くと、何かが動いています。ホテイアオイの間の水面に顔を近づけると、それは半透明のメダカでした。二ミリくらいの大きさで、緑の中をゆっくりと泳いでいます。他にもいて思わず、拳を握りました。


「それなら」


 全てのバケツに熱い視線を向けました。個々に多くの子供のメダカを見つけました。柄杓ひしゃくを使ってすくっては火鉢の中に優しく入れました。全部を合わせますと十八匹になります。大人になれる数は更に少なくなるとは思いますが、辛うじて命を繋ぐことができました。

 心の中の黒雲は瞬く間に霧散して爽快な気分になりました。それとホテイアオイの入ったバケツを見るのが、今後の日課になるかもしれません。子供のメダカの誕生に期待大です。

 この勢いで午後の仕事、頑張ります。

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