第17話 山の思い出
旧暦では夏になります。最近の天候不順の寒さもあって、そのような気分には中々なれません。思い出した話は夏に相応しいので、頑張って思い込むことにします。
七月の上旬、その日はすっきりと晴れました。一仕事を終えた私は山登りに出かけることにしました。向かう山の標高は六百弱、初心者向けと言えます。
通気性の良いウインドブレーカーにカーゴパンツを合わせました。脚部の左右にある大きなポケットには飲み物とタオル、ビニール袋を入れて出発です。
電車で二駅、終点で降りて緩い上り坂を歩きます。土産物屋の前を通り過ぎ、横手の小川を見ていますと沢蟹がいました。自然に顔が綻びます。素揚げにして塩を付けて食べるとビールが進みます。
国道に出ました。左右を見てから渡り、登山道に足を踏み入れました。左右の木々が強い日差しから身体を守ってくれて気分が上向きます。
その時、道端にゴミを見つけました。ガムの包装紙でした。カーゴパンツのポケットに入れたビニール袋が早々と役立ちます。
気を取り直して元気よく登山道を進みます。間伐材を利用したような階段のところでは、一度、足を止めて休みました。
またしてもゴミを見つけてしまいました。今度は茂みの中にありました。ですが、私はどうしても拾う気分になれません。光沢は失われていますが革靴のようです。一個ではなくて一足がきちんと揃えて置かれていました。
私は思わず、近くの木の枝を見上げました。何もぶら下がっていないことにほっとしました。
あまり長くとどまりたくなかったので足を速めます。すると、またです。今度は白い小さな紙が五つ、道端に見えました。大股で近づいて、ギョッとしました。
素材は半紙に思えます。頭と手足があり、人の形をしていました。誰かの身代わりを意味する
背中に寒気を感じました。来た道を急いで戻ります。揃えた革靴は見ないようにしました。電車に乗る前に土産物屋でワンカップを買いました。一気に飲み干し、少し落ち着きました。
今日も曇天で少し肌寒く、早々と日本酒が飲みたくなります。これも一種の霊障でしょうか。たぶん、違いますね。まだ仕事が残っているので自重します。
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