第14話 どんよりした空を見て

 どんよりした空の下、お買い物に出かけました。同じ道を帰るのはつまらないと思い、別のルートを選びました。目にした民家に売家の看板。雑木林の前を通ると微かな腐葉土の匂いがしました。下草が自然の真ん中にいる気分にさせてくれます。

 人通りがほとんどない、その道には一台の自動販売機がありました。目にした途端、とある日のことを思い出しました。


 よく晴れた夏の一日でした。予定のない私はクロスバイクに乗ってひたすら車道を走ります。行き先は決めていません。自分の限界を試してみるつもりでペダルを踏み込みました。ボトルホルダーに入れた五百mlのスポーツドリンクはかなりの早さで無くなりました。

 遠くまできました。景色が一変して見るもの全てが新鮮な気分にしてくれます。クロスバイクから下りて、キョロキョロしながら周辺を見て回りました。時間を相当に使った為、帰りの心配をしないといけない時間帯になりました。

 ですが、すぐにクロスバイクに乗る気にはなれません。脚が疲労して動かないということではなく、もちろん握力も失っていません。小さなサドルが災いしました。お尻を摩りながら我慢して帰路につきました。

 出る時間が遅く、完全に夜になりました。用心で持ってきたLEDの懐中電灯に救われました。急いでペダルを踏んでいると喉の渇きを覚えます。

 水田の中を突っ切るような道にくると、カエルの鳴き声がサラウンドで聞こえます。極上の一時と思っている余裕はありません。喉がカラカラでした。

 そのような時に前方にぼんやりと明かりが見えます。路上のオアシス、自動販売機でした。正面でクロスバイクを止めて明かりに目を向けると、そこには思いもしない姿がありました。

 自動販売機は普通です。その明かりに引き寄せられたものが禍々しい印象を与えました。水田の中にあることが関係して、十匹以上のアマガエルが張り付いていました。押すボタンのところにもいました。狙いは蛾なのでしょうか。こちらは数え切れません。小さな埃のような物体から掌の大きさくらいの物まで、漏れなく光に魅了されていました。

 見て見ぬ振りをしたいところですが、喉の渇きには抗えませんでした。私は硬貨を入れてアマガエルの張り付くボタンを押しました。ガコンと出てきたペットボトルにおそるおそる手を伸ばします。素早く手に取ってキャップを開けてゴクゴクと喉を鳴らして飲みました。

 残りはボトルホルダーに収めて、また夜の道を走って無事に家に帰り着きました。


 程々に寂れた道にある自動販売機には何がくるのでしょうか。曇り空であっても夜ではありません。時間帯で言いますと昼前になります。気になりながらも私は素通りしました。

 自動販売機の夜の顔が、とても気になる一日になりました。

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