第9話 閃いたものの

 忙しい時期を抜け出した私はぼんやりと窓の外を眺めていました。頭の中で近所の桜の様子を想像します。橋を渡った先の桜並木は五分咲き、それとも七分咲き? 近くの公園の周囲に植えられた桜は満開で、もう散り始めている?

 そわそわが止まらなくなり、軽やかに椅子から立ち上がりました。その瞬間を待っていたかのように小説の一場面が閃きました。喜びよりも戸惑いが多くて溜息が漏れます。

 創作の方法は作者の数に比例して、いろいろとあるのではないでしょうか。私の場合はオチの部分が閃きます。それに相応しい舞台を用意している過程で人物が次々と浮かんできます。展開に考えを巡らし、大まかな内容が完成します。

 今回は例外で舞台の一場面が頭に鮮明に浮かびました。


 どこか揺らぐ街並み。丸い気泡のような物が揺れながらゆっくりと上昇します。人々は普段着で道を歩き、急ぎの人は三十メートルを跳躍して移動しました。そこは空中渋滞をよく起こすところで、二十メートル以下の跳躍制限が掛けられていました。すぐに特別飛行監視課、通称、特飛課が現れて違反切符を切りました。


 なんでしょうか、これは。未来の話なのでしょうか。海の中を想像させる要素が含まれています。人々は人魚? よくわからない世界がいきなり私の頭に溢れ出しました。オチがない状態なので話の着地点がまるでわかりません。短編と長編、どちらに向いた話なのでしょうか。

 このような一画面の閃きは対処に困ります。小説の形態にするには多くの時間を割く必要があります。そこまでする価値のある作品になるのでしょうか。頭を抱えて暗い深海まで潜ってしまいそうです。

 そのような時に助けになるのがPBWです。細かい部分は省きますが、マスターである私が舞台を作り、面白そうと感じた人達がその舞台を楽しみます。

 舞台は完成していますが、話の内容は未完成です。参加した人達のアクション、またはプレイングの行動で、ようやく話として完成します。マスターとプレイヤーが一丸となって物語を作り上げるところに面白さがあります。

 今回、頭に浮かんだ内容は舞台なので、まさにPBW向きと言えます。

 早速、マスターとしてシナリオを書き上げると思いますよね。でも、今は桜の方が気になるので。


 それでは、いってきます。満開の桜が私を待っていると信じて。

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