第3話 今日という日に考えたこと
今日は十二月二十五日。そう、クリボッチの日になります。
この日だけは特別で人に後ろ指を指されず、好きなアイドルやアニメのキャラクターをスマホやらパソコンとかで画面に堂々と表示できます。手前にはショートケーキを置いて無用なロウソクをぶっ刺し、火を点けます。息で吹き消して、メリークリスマス、と口にして虚ろな笑顔をすれば完璧です。
今日の私はクリボッチです。ですが、そのように自分を追い込むようなことはしません。家の掃除をして、浴槽を磨いたあと、ゆっくりと入浴を楽しみます。寒い日なので温泉の元を入れましょう。
香しい匂いに包まれてお風呂に肩まで浸かっていますと、色々なことが頭に思い浮かびます。過去にあった出来事を最近の時事ネタと絡めれば小説になるのでは。ショートショートにするなら最低限の地の文で説明して、最後の落ちは切れ味のある一行がいい。
身体はリラックスできても頭が全く休まりません。私の場合、作品のアイデアはお風呂に入っている時と寝る直前に浮かぶことが多いです。
『第6回カクヨムWeb小説コンテスト』には短編部門があります。一作は過去の千文字の作品。あとは食器を洗っていた時に思い付いた一作で、会心の作とは作者としてもちょっと、と口籠ってしまいます。
そこで新たな短編を考えていました。なかなか思いつきません。少し前に開催していましたコンテストで『5分で読書、短編小説コンテスト』というものがありました。私は思いつくまま、六作品を投稿しました。今になって、ああ、あれが使えたら、と悔しい気持ちになります。
作者の中で六作品の出来は横並びの一線ではありません。やはり、これが上かな、というものはあります。読者の観点とかなり違うところに面白味があります。個人的には二人称で書いた『剣で語り、散る』が好きですね。読者の観点になりますと、『結婚を前提に付き合ってください』になるのでしょうか。あとは『それ』の別視点で書いた『それ!』が星の数では並んでいます。PVは吹けば消えそうな数ではありますが。
過去の作品を振り返りますと、自信作である程に他での評価は低いように思います。書き上がった作品はそれなりに自信はあるのですが、これは、という思い入れが強い作品は結果が伴いません。
私はかなり前にコンプティークの雑誌の付録に作品が掲載されたことがあります。自信作でした。でも、それは二作目でした。話の始まりとなる作品は次点になっていました。掲載の知らせのお電話を貰った時は嬉しかったのですが、微妙な気持ちになったことは今でも薄っすらと覚えています。
他の作者さんはどうなのでしょうか。ショートショートもかなり書きました。私のプロフィール欄を見て貰えればわかると思いますが、今は存在しない雑誌コバルトで『第四回ショートショートマスター』になりました。これも意外な作品が入賞したりして、首が捻挫するくらいに捻りました。
ここで一つ、わかったことがあります。自信作は設定がややこしくなりがちです。唯一無二を目指したせいで特殊な用語もばんばん出てきます。補足の説明が必要になり、本編が動き出すまでがやたらと長くなります。話が進んだとしても新味を出す為に詰め込んだ要素で、もたもたします。
そのように何もかもが遅く、びっしりと詰まった説明文を見た当時の私は思いました。なんて重厚で素晴らしい世界観なんだ、なんてことを。
目を開けたまま、夢を見ています。これがなかなか醒めません。起きているのですから。ピンクの甘い液体に脳みそがぷかぷか浮いている状態です。場合によっては泳いでどこかに遠出しています。戻ってきてー、と叫ぶ間もありません。
ですが、厳しい落選を突きつけられ、冷たい現実の寒風に晒されますと、びっくりするくらいに冷静になれます。それこそ、頭の中のブラックボックスに丁重に押し込まれて思い出すこともなくなります。
たまにブラックボックスを自らの手でこじ開けて反省材料にしています。これはダメ。絶対にダメ、と部屋の隅でブツブツ言いながら。
こんな私の最初の仕事はお風呂です。しっかりと磨き上げてゆっくり湯に浸かり、頭を酷使させることでしょう。それでは皆様、よいクリボッチをお迎えください。
私だけってことはないですよね?
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