Jitoh-37:潮流タイ!(あるいは、駄目ん取れビアン/超えネッロ)
スポットライトが、遥か高みから俺らの輪郭を照らしている。準決勝。いよいよここまで来たかという思いと、ここまで来るために払った諸々への想いが、周囲をうごめきまとわりつく光る埃と同様、無秩序に脳内を漂っているようだが。
場は、何だ……ひとことで言うと「正方形」だ。目測の感じだが、いつものボッチャのコートの奥行、十二・五メートルよりやや長いくらいか。それが横に二つくっついたくらいの「真四角」。異様かつ威容なのは、その
――さあ、準決勝はこの広大な対局場で思う存分、
うん……実況の興奮ぶりは只事では無さそうな感じだが、いまいちルールも何も掴めねえぞ……? そして避けたかった「初見フィールド」で、ということになっちまった。鉄腕大丈夫かよ……
改めて見渡すと、約十五メートル四方。薄茶色の床面の材質は見た目ツルツルの樹脂だ。ただのたまわれてた通り、それを碁盤に区切っている「黒線」は本当に切れ目が入っているように見受けられる。「脱落」……ボール十個幅と見積もるとおよそ八十センチ正方形パネルが縦横十八枚づつ敷き詰められている……碁盤だな、十九路盤だな。なぜこういうところに並々ならぬこだわりがあるのかは分からねえが。
三分だけ、作戦タイムとやらが与えられた俺たちは、「盤」の左手側に区切られた白く色づけられた長方形の区画へ入ることを係の人間に促される。「盤」を挟んで向かいには黒く塗られた長方形が描かれており、つまり今回は敵味方向かい合っての「投げ合い」ということになるわけだ。今回は用意された球を使えということか、ラックにきっちりとジャックのような「白球」がぎっしりと鎮座している。見た感じ普通のボッチャボールな佇まいだが、白と黒……碁石に因るものだよな? なんでそんなにもこだわる?
「……細則はこのペラ一枚に書かれとる。細かくぎっしり分かりにくくな。ヒナ、特によお聞いてな? 一度しか読める暇無さそぉやし」
と、エビノ氏の乗る車椅子を押して来た国富が、そこに置かれていた簡素も簡素な丸椅子の上にこれまたぞんざいに置かれていた紙を手に取りそう告げる。なんか落ち着いてらっしゃいますね……Jの字は望外の声援に完全に舞い上がって周囲に投げキッスを飛ばしまくっているという昭和の錯乱状態だし、俺なんかはもうしくじれん感で気道の浅いところが微振動しているかのような感覚を先ほどから絶え間なく受け取ってたりするのだが、それよりも。
曰く、
・対局者六名が、<シュート>の合図から五秒以内に、各々の手球を場に投擲しなければならない。これを計「十ピリオド」行い、最終的に盤面に残った手球の多いチームの勝利とする。同数の場合はエクストラボールが各々のチームに与えられ、投擲を続ける。盤面のボール数に差がついた時点で試合は終了となる。
・盤面を構成する「マス」はボールの重量を感知し、ひとつ分の重量の増減を認識した瞬間、速やかに下降する。その上に乗っていたボール、およびその先その上に落ち込んだボールは全て「場外」扱いとなり、以降カウントされない。
・対局者は白黒に塗り分けられた「特殊スローイングボックス」内であれば、どこからでも投擲を可能とする。ただしこのボックスから身体および
……聞いて全部を理解できたわけじゃあねえが、相当にこちらに分が悪いルールなんじゃねえか狙ってやってねえよな……?
「合図から五秒以内に投擲」……鉄腕からエビノ氏への伝達の時間がほぼほぼ無えことになる。「パネル降下」……勾配具からの「転がし」しか手段を持たねえ二人にとってはどんどん投げられる場所が減っていくだけのことになっちまう。不利だろ。
であれば、俺とジトーでカバーするしかない。しかしその旨伝えようと車椅子に座る女神とその肩元の画面に声を掛けるものの、
<不要だ>
何かよぉ……あんまりこっちに妥協してくんなくなったよなぁぁぁあ……チームの力を合わせようぜ?
「ナカイくんごめんなさい。でも、ゴカセさんもそこで気を遣われたくない」
<……全力を尽くし、勝利を経てカネを得る……それだけを、それだけに全てを>
画面の中では、昨日の病室のベッドに仰臥したままの鉄腕のだいぶ憔悴したツラが映し出されてはいるが。俺も、その意が汲めねえわけじゃあねえ。じゃねえけどよ……
「ゴハハハハッ!! 心配は御無用ですぞォッ!! もとより考えも何も無いのですからのうッ!! 力いっぱい投げるのみッ!! エビノ殿にこの勇姿見せられぬことだけが残念ですがそれはそれッ!! ブンブン行きましょうざッ!!」
ああーこいつは本当にどうなんだ。分かってんのか分かってねえのか。まあどっちでもいいか。語尾も何だか分からんくなっとるがそれもまたどうでもいい。と、
「……フハハハハッ!! 特例で参加してきたと思えば『カネ』目当てとは。間違っては全然無いが、こうまで必死さを醸されるとこちらとしてはやりにくいなッ!! クハハハッ!! まあ何にそこまでカネが入り用かは知らんが、まとめて存分に屠ってやろうッ!!」
いや向こうにもおるで、空気読めないウォマンこと日向氏ェ……何でキミらはそんなにも肚からの裂帛声でカラみたがるのだい? 腰に両拳を当てふんぞり返るという、令和からこっちあまり見かけないポーズにてこちらを挑発なのか何なのか分からん感じで煽ってくるものの。
<キサマには……>
「……わかるまいっ」
既に気合い乗りまくりの鉄腕と天使の、静かな、それでいて強くしなやかそうな言葉が放たれてくるわけで。かくいう俺と言えば最近心中でシメる役しかキメられてない気もするが、いよぉぉぉぉぉし、やったるでへぇぇぇぇぇえいッ!!
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