Jitoh-24:承前タイ!(あるいは、スケマ/告げし/ポゥリます)
いくら基本暇な学生の身分とは言え、四六時中をボッチャに埋められると段々嫌気がさしてくる。
……ということも無く、日々の無茶苦茶な鍛錬はきついはきついものの、それによって為される自分の身体の変化というものにまず驚かされ、そして充実感を覚え、さらにの先を目指したくなってきている。始めて数日は身体じゅうの筋繊維の隙間と隙間に重油を砂鉄に含ませたようなものをみっしり詰められたかのような重だるさだったが、ここ最近はそれが薄らいできていて逆に物足りなさを感じるくらいだ。「盤石の下半身」と野郎は言っていたが、風呂で見るとふくらはぎは中に樹脂製のプロテクターみたいなのを仕込んでいるのかと思わせるくらいにべこっとした質感と硬さになっとる。まあ横目で窺った洗い場の二席を占領せんばかりに股を開いて座るその毛むくじゃらの全身を鎧う「分厚く締まった」みたいな馬鹿筋肉には及ばないと思うが。ていうかコンディショナーの容器を握り潰す勢いで絞り出しているがその角刈りにそれは必要か?
そして。
「ナカイさんは『
朝四時から夜七時まで、平日の講義時間を除いてはみっしり入れられている練習スケジュールが終わった風呂上りには、一日の疲れを瞬時に癒す「宴」が待っているわけで。わざわざ
が、話題が俺に向くとは……天使があまり喋らん俺に向けて気を遣ってくれたのだろうものの、いやそれは嬉しいんだけれどね……
「母親がよ、右、義手使ってんだけどよ、ちっちゃい時からそれ見てて、ちょっと使いにくそうにしてる時とかあってよ、それで、じゃあ俺がいい奴作ってやろうかとか、あ、いや何だ、ガキの作文じゃねえんだけどよ、そんな、まあ短絡的だよな……」
きわめて平坦に軽く返そうとしたが、うまくいっただろうか。平常心を保とうと喋ろうとすると「よ」が多くなっちまうのは癖なんだがよ……
ふーんふーん、と隣の国富がそんなハミングするように自然に相槌を打ちながら、孝行息子やねぇ野菜も食べなはれ、と機嫌良く俺のどんぶり飯の上にオーロラソースのかかった生野菜をよそってくるんだが。斜め前の天使も向かって左横に目線を思い切り向けながらきゅうっとわざとらしくその艶やかな口角を上げつつ、ふんふんふんと咀嚼しながら頷いておるが。え何で聞いといて掘り下げては来ないの? そして湯上りの角刈り頭からいい香りを漂わせてる奴は俺の言葉は皆目その福耳に届いてないの? いまこの瞬間もズルズル音を立てて味噌汁を召し上がっているようだけどよぅ。
<二週間、基礎体力をつけたところで、明日からは『実戦』に備えた投擲練習を主としてやっていくこととする>
そんな中を鉄腕が面白くも何ともなさげな口調で唐突に告げて来るが。とは言えそこの「詳細」は聞いておかなきゃなんめえ。
「……『実戦』ていうのがどんなものかを知りてえ。出来れば映像とかであればありがたいんだけどよぉ」
「
<公的にもそうで無しに関わらず、記録の類いは無い。選手たちも残すことは出来ないし、あまり出回るということも無い。『好事家』……と前に言ったが、そういった者の特権となっているところがあるからな>
機械腕をまた器用に操って箸で飯を口に運びながらそう言うが、何度も思うけどそれほどまでのものなのかよぉ……と、
<ただ以前、参加者の何名かからは、その試合形式などを直接聞いたことはある>
あるのかよ情報。それを早くよ。
<曰く『氷上』、曰く『五芒星型の変則フィールド』、曰く『有刺電流鉄線爆破デスマッチ』……>
いやおぉ待て? ボッチャだよな?
<『何でもあり』の名に恥じないほどの
ぬう……荒唐無稽もここまで来ると大したもんだ。
「『篩落とし』とか言ってた『予選』もそんな感じなのかよ? 全く読めない?」
だろうとは思ったが念のため聞いておくことにする。と、えらい少食の鉄腕は早くも食後モードに入ったのか、天使に淹れてもらったほうじ茶をすすりながら、そうでもない、との言葉を返して来た。おお。
<いかな荒唐無稽が信条の『デフィニティ』でも、最低限そして願わくば最高峰の実力を持った者同士のぎりぎり限界の対局を御所望だ。ゆえに予選では純粋に『ボッチャ』に関する能力が問われることになるのは間違いないだろう。それをこれからきっちりと詰めていくという話だ>
なるほど。
<本戦では私も使ったような『
確かに基本が出来ていないと何事も……であるよな、やはりそれをこれでも問われるというわけか。例えばそれこそ、
<しかし基本は踏まえた上で、さらに高次の技術を要求されてくるだろう。あまりに安易なもの過ぎても差が付かない。それにこの『デフィニティ』は、今までの説明で大分臭っているとは思うが、悪い言い方をすれば『見世物』の側面が強い。予選からしてそれはそう。よって面白味の無いことはやってこないはずなんだ、おそらく>
であれば、どう事前対応しときゃあいいんだろうな。こいつだけをやっときゃOK、ってのが無い状況ってことだよな?
<基本をムラ無く、それが最も分がいい『対策』だ。そこにさらに……那加井リーダー、キサマはあの時も初体験とは思えないほど『球感』が鋭かった。そこは他の凡百が練習では埋めることの出来ない強力なアドバンテージだ。それはさらに研ぎ澄ませておきたい。それと……『見えて』るよな? 『盤上』が>
あれ、何か褒められとるんだろうか……いつの間にか役職も定着してるようだがそれより「盤上が見える」……どういうことだ?
「私もそれ感じました。無意識なのか分からないですけど、ナカイさんの投球って真上から俯瞰しているかのように、距離とか隙間とかが『見えて』いるようにされてる気がしたんですよね。それって羨ましい。絶対得がたいものだから」
俺にもほうじ茶を淹れてくれながら、天使からもそのような力の籠もった賞賛が。い、いやぁ当然のことをやってるまでだぜぇぃ?
<その辺は変にいじらない方がいいのかも知れんな。逆に狂ってしまったらコトであるし。……では投球の正確さ精密さ、それを伸ばしていくことにする。次にJJ氏だが……>
ここまでほぼ全く喋っておらんかった大柄が、ん? みたいな初めて気づきましたぞヅラでこちらをきょとん顔で見回してくるのにイラつくものの、まあコイツも下手にいじくらん方がいいんじゃねえの?
<『空中送球』に関しては言うことは無い。あとはさっきも言った通り『予選』対策だ。普通のボールを普通に転がすという練習をみっちりやってもらう>
だよな。まあ基本、基本ってわけだ。あとは出たとこ勝負……ま、そういうのは俺は割と嫌いじゃねえし、J乃山に関しては全く意に介さなそうだし大丈夫だろ。
やるべきことは何となく定まった。目標のためひたむきに努力するってのも、悪くないもんだ。部屋でだらっとしてる時でも何となくボールの軌道なんかを思い描くようになっている毎日……あと四週間、きっちりやり切って仕上げてやる。
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