Jitoh-25:要約タイ!(あるいは、あら!ふぃぃね/断てば尺斬りの巻っき)
厳しくも充実したと思われる六週間が、するりといった感じで身体を抜けていった。そんな感覚。抜けていった後に、確実に変化を遂げた肉体と、精神と、あと何かを残しながら。
ゴカ<キサマらはクソだッ!! クソには人権も感情も宿ってはいない!! 笑ったり泣いたり、
ジト「目標ヲ ターゲットニ合ワセテ
ゴカ<人生はクソだ……そのクソをわざわざオレがッ!! キサマらのゆるガバケツマ○コに注入してやっているのがこの修行だ……クソをどうにかしたいのなら、キサマらの体内で逆消化、『昇華』しッ!! 『ダルい』『疲れた』くらいのクソ言葉を吐き出すしか能の無いその口から!! 周りの人間がありがたがるくらいの艶めく果実として吐き出してみせろァッ!!>
ナカ「朝の
ゴカ<手を動かせ足を繰り出せッ!! つらいか? だがスプートニクに乗って宇宙に飛ばされたライカ犬の事を思えば、キサマらの不幸なぞちっぽけなクソだッ!!>
ナカ「フアハハハ!! 見ろ!! 俺がクソゴミのようだッ!!」
ジト「試合終了したら、そこは流石に諦めよう」
エビ「私は私であるために一生懸命。他の人に合わせるためにじゃないんです」
ジト「エビノさん……
ナカ「いえ、
ゴカ<オレは救いの無い馬鹿だが馬鹿と罵っていいのは馬鹿なオレだけだッ!! 他の誰であろうともオレを馬鹿にはさせないッ!!>
クニ「私はどこまでいっても私。『私らしく』なんて曖昧なものじゃないし」
ゴカ<ベートヴェンが作曲を諦めたか? ヘレンケラーが活動を躊躇ったか? オレも前だけを見る>
エビ「賢しげにわずかな不運を見せびらかすよ? それも私」
クニ「あなた無しで青春できないわけじゃないけど、あなたと青春してみたいの」
ジト「喜怒哀楽に振り切れそうになった時は、おっぱいのことを考えるといいよ。おっぱいのことを考えている時は、もう片いっぽうのおっぱいのことを考えるといい」
ナカ「容疑者は男性、百九十センチ、髪は角刈り、筋肉モリモリマッチョマンのド変態だ」
ゴカ<オレらの見た目は変えられない。変えられるのはオレらを見る周りの奴らの目だ>
エビ「障害があったら乗り越えればいい。道を選ぶっていうのは、必ずしも平穏無難な道を選ぶってことじゃないんだぞっ、と」
ジト「投げやりなのとやり投げなのは字面がひどく似ているだけなんだ!!」
ナカ「天使の尻ぬぐいなんて、下天民にとって名誉以外の何ものでもない」
クニ「人を好きになる事は恥ずかしいことじゃない? 恥ずかしいよ、いまも顔熱いもん」
ナカ「あの青年は人の幸せを羨み、人の不幸をほくそ笑むことの出来る角刈りだ……成功者たりえる資格を既に持ち合わせている……ッ!!」
ジト「飛ばねえ球は、ただの球だ……」
何か名言っぽいようなそうでもないような台詞群たちが流星のように……いや、本当にあったことかどうかも定かではないが、そのような捏造を多分に含んだかのようなフラッシュバックが走馬燈のように疲労が抜けきらなかった俺の大脳のほんの上空辺りを巡り巡る……だいぶ俺は疲弊しているのだろう。明日がいよいよ本番だっつうのに、大丈夫かな……本番前の最後の晩餐を終えて解散後、独り寮の屋上に出ていた俺は手すりに背中を寄っかからせながら、そして割と星々が望める夜空を軽く見上げながら、さっきから規則正しい深呼吸を続けてみたりしている。煙草は特訓が始まってから二日で喫わなくなった。いや喫えなくなった。ぶら下げて来た炭酸水を煽ると、この一か月余りの諸々のことが頭をよぎって来る。
――開催場所が決まった。「台場シーゼアーカジノ」地下三階、「パルコシェニコの間」というところで十三時集合、十四時開始だそうだ。
二週間くらい前か? 鉄腕から突然そう詳細な開催場所時間が告げられた。無論メガロポリスTOKYOのど真ん中の台場であるからといって、奥多摩在住の都民であるところの俺には臆するところなど何も無かったが、「地下」ってとこが気になった。何やら怪しげ感が増して来たじゃねえか……「三千万」ってとこから怪しさは覚悟しておくべきって認識はあったが、それでも用心するに越したことはねえよな……それよりも気になってたことがあったから、晩飯が終わって他の面子がはけた後に野郎を捕まえて手狭な談話室(いまどき珍しいが本寮には四つほどある)のひとつに押し込み少しサシで話をしたっけ……
――前に「カネで助かる命」がどう、って言ってたよな。不躾なこと聞くけどよぉ、それって……誰の話だ?
改まってこんなことを聞いてしまう時点で、俺には割とその後の答えが予期できていたのかも知れねえ。そして鉄腕が「前にも言ったが、それは自分だ」というような答えを言ってくれるのを、心の隅で期待していた。が、
――私とエビノ氏は、物心つく前から同じ病棟で一緒だった。筋萎縮系の、まあ珍しい症例であることも一緒だ。
何となく分かってきてはいた。この二人の関係性というものも、微妙な親密さというやつも。が、またも自分が止められなくなった俺は、その後もチェックリストに並んだ確認事項みたいなのにただただ印を付けるかのように詮無い質問を続けていってしまうだけだった。
「……!!」
そんな思考を遮るように、キキ、と建て付けの悪いガラス扉がこちらに音を立てて開いてくるのだが。左腕を突っ張るようにしてから器用に車椅子を操ってこちらにゆっくりと向かってきたのは、その、いま考えていたエビノ氏であったわけで。
「……」
いつも通りの控えめな、天使の微笑。それは薄暗闇の中でも光を発しているかのように見えて。俺の些末な思考はそこで途切れてしまう。
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