第16話・もしかしてマサキのこと?


「僕も一緒に食べるよ」

「今回はオルの分もあるのね? 良かった。一人だけで食べると味気ないもの」


 オルは、人間が食べるような食事を取らなくても平気なのだと言っていたけれど、もしかしたら私が一人で食べるのをつまらないと思っていたのに気付いたのかな? だからもう一食分用意させていた? そう考えるとちょっと嬉しかった。

 お皿の上にステーキ肉が乗りカットされた、にんじんのグラッセにコーンのバター炒め、塩茹でされたブロッコリーが添えられていた。見覚えのある食事に首を傾げたくなる。この料理を作った人って私と同じ異世界人なのよね?


「どうした? ヨーコ? 食欲無いのかな?」

「ううん。美味しそう。いただきます」


 オルに促がされステーキ肉をナイフで切り分けたところで、あることを思い出した。雅貴に追い出された時のこと。あの晩に用意したステーキはどうなったのだろうと。

 頑張って用意した私は口にすることなく追い出され、二人はそれを仲良く食したに違いないのだ。


「ヨーコ? なにか考え事? 手が止まっているけど?」

「あ。ううん。何でもないの」

「何でもないことないでしょう? 僕に話せないこと? 何かあったんじゃないの?」


 オルは勘が良い。私は喉の渇きを覚えて、お皿に添えられていたワインを口にした。ワインは飲みやすくすぐに飲み干してしまった。

 アルコールが入った事で口が滑らかになってしまったのだろうか? 優しい彼につい甘えて何でも話してしまいたくなる。その彼は雅貴のことを知っていた。


「もしかしてマサキのこと?」

「どうしてあなたが彼の名前を知っているの?」

「……きみが昨晩、彼の名前を呼んでいたから」


 彼は顔を曇らせた。私も気まずい思いがした。昨晩、私は彼を雅貴だと思いこんでいたのだ。しかもよく考えてみると、私から抱きついたようにも思われる。彼は躊躇っていたような気もする。


「ごめんなさい」

「どうしてきみが謝るの?」

「なんとなく……?」


 自分の不満解消に、オルをつき合わせてしまった感じがして申し訳なく思う。オルは首を傾げた。それが妙に色っぽい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る