第15話・家令は妖精猫のケット・シー


「そんなに驚くことか? わしは四千年以上生きておる。この世界では一番の年寄りじゃな。でもそのわしにも驚く事があったようじゃ。こやつは滅多に自分のお気に入りをつくらない。こやつがこんなにもそなたに執着するとはな」


 さらに驚くことがあった。このエントの年齢は四千年を超えているだなんて。驚愕する私の耳もとでオルが言う。


「ヨーコ。そろそろ城に戻ろう。日が暮れる」


 気がつけば、森が夕焼け色に染まっていた。


「イチリン達はこのままお帰り。僕たちは城に戻る」

「もうこんな時間か。楽しい時間はあっという間じゃな。ヨーコ。また訪ねておいで」

「はい」


 オルはイチリン達に言うと、彼らに背を向けて歩き出した。私は縦抱きにされたオルの背から、私達を見送るエントやイチリンとニリンに手を振った。







 城に帰ってきて食堂へ向かうと、入り口で私たちの帰りを出迎える者がいた。どんぐり眼の二足歩行した三毛猫だ。燕尾服を着ているのに足元は革靴ではなく、不思議なことにブーツを履いている。そして腰からは鍵の束を下げていた。背の高さは小柄な私や、イチリン達よりも低かった。


「お帰りなさいませ。オルグイユさま」

「紹介するよ、ヨーコ。彼がミケロットだ。彼は妖精猫のケット・シーなんだ。彼にはこの城の家令を任せている。ミケロット、彼女はヨーコ。宜しく頼むよ」

「今朝は突然、人間が好むような食事を。と、イチリン達から聞いて驚きましたよ。いつの間にお客さまが? と、思いましたが、なるほどこちらの御方でしたか」


 鼻先をくんくんさせてミケロットが言う。その仕草が可愛い。私はオルに抱かれたまま挨拶をした。


「あなたが家令のミケロットさんね? ヨーコです。しばらくこちらにご厄介になります。どうぞよろしくお願いします」

「はい。ヨーコさま。何かご要望がありましたら遠慮なく何でもおっしゃって下さいね」

「ありがとう」

「ではこの老いぼれめは、お先に失礼するとしましょうかね。そこの気持ちに余裕のない主さまに八つ当たりなどされては堪りませんから。後はお若いおふたりでごゆっくりどうぞ」


 そう言ってミケロットは礼儀正しく一礼すると退出して行った。その背をいつまでも目で追っていると、それがオルには面白くなかったらしい。不機嫌そうな声音で問われた。


「ミケロットが気になる?」

「ええ。あの姿が堪らないなと思って。可愛いわよね」

「可愛い? 彼は二千歳のお爺さんだよ」

「そうなの? 長生きなのねぇ」


 年齢を聞かされても見た目の可愛さは変わらなかった。あの燕尾服から出ている尻尾が気になるし、長靴の中はどうなっているのか気になる。肉球とかもし良かったら見せてもらいたいものだと思っていると、オルに「料理が冷めるよ」と、声かけられた。

 彼は料理の前に私を座らせると、その隣の席に着いた。そこには二人分、食事が用意されていた。

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