第17話・僕の恋人になってくれないかな?


「彼には泣かされてきたんだろう? もう彼のことなんて忘れてしまうが良いよ。きみは可愛い。他にもっといい男が現れるよ」

「そうかな? もう自分に自信がないの」

「昨晩、僕に抱きついておきながら?」

「それは言わないで」


──穴があったら入りたい。


 恥ずかし過ぎて俯く私の頭を、彼の手が撫でてくる。


「じゃあさ、僕と付き合う?」

「つ、つ、付き合うって?」


 思ってもみなかった言葉を掛けられて頬が引き攣る。


「僕はきみに一目で惹かれた。どうか僕の恋人になってくれないかな?」

「私を? あなたの恋人に?」

「嫌かい? 僕のことが嫌い?」

「嫌いじゃないけど……」


 私は突然の話に驚いた。彼はこの国の王さまだって言っていたし、望めば他に恋人くらいホイホイできそうなのにこの私と恋人になりたい? 本気なの?


「あの……ちょっと、考えさせてもらってもいい?」

「もちろん」


 ほほ笑む彼につられたように笑みをかえすと、目の前にフォークが差し出された。一口サイズに切り分けられたステーキ肉だ。


「うちの料理人が作ったものだからきっと美味しいよ。はい、あ~ん」


 そう言って有無を言わさず、私の口内に押し込まれる。それに驚きながらもステーキ肉の香ばしい香りと、柔らかな触感に誘われて噛み締めると口内にじわりと肉汁が溢れた。


「美味しい~」

「気に入ってくれたようだね?」

「うん。なんだか馴染みのある味だわ」

「それは良かった。いっぱい食べて」

「オルは?」

「僕は良いよ。美味しそうに食べるきみを見ているのが好きだから」

「そんなの私が寂しいわ。食事は一緒に食べたい。一人で食べてもつまらないもの」


 オルは、人間が食べるようなものを欲さなくとも生きていけるらしいけど、こうして一緒に食事をしているのだから少しは口にして欲しい。その思いで今度は自分から彼のまえに、一口大に切り分けたステーキ肉をフォークに差して突き出した。


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