第7話・僕から見れば子供だよ


「キスさせて」

「あ、や……!」


 今度は頬に触れるだけのキスをされた。


「いやあ。昨晩のきみは可愛いかった。側にいてくれなんて可愛いことをいうから危うく自制が効かなくなるところだった」

「……昨晩? うそ。あれは雅貴じゃなくてあなたが?」

「そう。僕だよ」

「あれって夢じゃなかったの……?」


 雅貴だと思ったのはオルだった?


「ごめんなさい。迷惑をかけてしまったみたいね」

「迷惑だなんて思ってないよ。僕は役得だったし」


 きみのような可愛い子と一緒にベッドで寝れたしね。なんてオルはウインクしてきた。私としては自分の知らないうちの事とは言え、オルが寝込みを襲うような男でなくて良かったと安堵のため息を漏らした。


「さあ、着替えようか?」


 オルはそんな私のことなどお構いなしで、クローゼットの中から一枚のローブを引き出してきた。彼のものらしい。


「ごめん、まだきみの服を用意出来てないから、しばらくこれで我慢してくれるかな?」

「大丈夫よ。ありがとう」


 手渡されたローブに手間取っていると、すっぽりと頭から被せられた。


「こうして着るんだよ。きみは何を着ても可愛いね」

「オル」


 オルの笑顔が眩しく感じられて俯くと、オルはドレッサーから櫛を持ってきて髪を梳いてくれた。


「自分でやれるわ」

「きみの髪は艶々して櫛の通りがいいね。僕にやらせて」


 オルは楽しそうに私のこめかみの周辺の髪を編みこんでピンで留めると、最後に白い花弁がうっすらピンクに色づいた小花を髪に挿してくれた。どこかで嗅いだことのあるような香りだ。


「これってジャスミン?」

「うん。ここではヤスミンと呼んでいるよ。きみにとてもよく似あう」

「ありがとう」

「お返しはキスがいいな」


 長身の彼は、身を屈めて自分の頬を人差し指で指して来る。なんだか照れくさい。彼が花のような顔を寄せていつまでも待っているので、仕方なく唇を押し当てると、満足そうな素振りを見せて彼は私を抱き上げた。


「お腹空いただろう? 食堂に案内するよ」

「私、歩けるわ。オル、離して」

「迷子になるよ」

「私、子供じゃないわ」

「僕から見ればまだまだ子供だよ」


 オルに子供扱いされているようで面白くない。彼の過保護な腕から逃れて自分で歩こうとしたのに離してくれない。小柄なせいで幼く思えるのか強く抱き込まれてしまった。上手く逃れそうにない。オルにまた不本意ながらも縦抱きにされての移動になった。

 それにしても重くないのかしら? 私の体重は二十代女性の平均体重をちょっと超えている。それを何事もないような顔をして運ぶオルの気が知れなかった。

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