第8話・きみの為に作らせたんだよ


 オルの住むお城は、一言で言えば荘厳だった。住む城は天井から壁、床に至るまですべて真っ白な曇りの一点も見られない大理石で出来ている。興味深く魅入る私を縦抱きにしたまま、オルは真っ白な平らな石の床の上をスタスタ歩き、食堂にたどり着いた。

 食堂の中は広間のように広く美味しそうな匂いが充満していた。空腹を忘れていたお腹が、その匂いに反応して思わず音を立てそうになる。食堂の中央の細長いテーブルの端へとオルは近付いて、そこで私を下ろした。そこには食事が用意されていた。


「きみの為に作らせたんだよ」


 そう言ってオルが椅子を引いてくれる。それにお礼を言って座ると、彼は私の左隣の席に収まった。

 目の前に置かれたお皿の中身は、目玉焼きにボイルされたウインナーソーセージが二本。葉物野菜が添えられていて、クロワッサンとチキンスープが用意されていた。 

 これは私がいた世界と変わりない朝食。いや、元彼氏の雅貴が付き合い初めの頃に、休日の朝に必ず用意してくれていた定番のメニューに似ていた。


「どうして……?」

「食べないの?」


 驚く私に聞き返してくるオル。笑顔の彼に促がされて口をつけたチキンスープや、適度に焼かれた目玉焼きにボイルされたウインナーは、食べ慣れた味と遜色のないものだった。ここで私は気が付いた。


「オルの分はないの?」

「僕はそういった物を口にしなくとも生きていけるからね。きみがいるから平気なんだ」


 全然、私の問いに答えにならない返事が返って来た。彼は人間の食べるような食物を食べなくとも平気だとか? 謎が深まる。私とは初対面のはずなのに、どうしてこれらを私が好んで食べると分かったのだろう?


「僕に遠慮しないで食べて。これはきみの為に調理人に命じて用意させたものだから」

「調理人?」

「ああ。彼も異世界人で元は保護していた。だけど、ある罪を犯した為に罰として、元の世界には帰さずにこの城で働かせているのさ」


 自分の他にも異世界人がいると聞いて興味を持ちかけたのに、その相手が罪を犯したと聞かされては距離を置いた方がいいかもと思った。


「今度紹介するよ。彼はクロウと言うんだ」

「そう。ここでは何人の人が暮らしているの?」


 この城にはイチリン達の他にも何人か使用人がいるはず。これからお世話になるのだから挨拶ぐらいはしておきたいと思ったら意外なことを言われた。


「僕とクロウ以外には、この城では誰も暮らしてないよ。あとは通いの家令のミケロットがいるけど」

「家令のミケロットさん? えっ? イチリン達は違うの?」

「ああ。彼女達も森から通って来てくれているんだ」


 怪訝な顔をした私に、オルが言った。

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