第3話・拾われました


「あの。オル。どこに行くの?」

「僕の城だよ。ここにずっといるつもりだった? 夜はかなり冷え込むから外にいるのはお薦めしないよ」


 オルは私を子猫か何かのように思っているようだ。彼の眼差しは優しかった。彼のような美青年に小動物のように大切に抱きこまれていると、自分が特別な存在に思えてくるから不思議だ。悪い気は全然しなかった。彼の衣服越しに伝わってくる体温が心地良い。その上、彼の肌からいい匂いがして離れがたかった。


 甘いムスクのような香り。その香りに頭の奥が痺れたように感じられて、意識が朦朧としてくる。私はオルに初めて会ったというのに警戒が薄れて、彼の胸元に額を押し当てて目蓋を閉じた。








「ヨーコ。降ろすよ」


 彼に運ばれている間に私は寝てしまっていたようだ。それでもベットに降ろされている気配は感じられた。頬に当たるふんわりとした感触。寝台はふわふわしていて眠気に襲われている私には抗う術がなかった。

 それでも夜中に自分を見つけて、ここまで運んでくれたオルにお礼だけは言いたいと思っていたから完全に寝入ってしまう前にと、離れようとしていた腕を引いた。


「ヨーコ?」

「ありがと。オル……」


 親切なオルにお礼を言い切ったら、安堵して目蓋が完全に下りきった。その私の頭を優しく彼の手が梳いてくる。


「ヨーコは可愛いな。そんなにも無防備な姿を晒して。後でどうなっても知らないよ?」


 そう言いながら、彼は甲斐甲斐しく自分の世話を焼いているようだ。コートが脱がされていく感覚がある。でも、すでに夢の中へと旅立った私は気が付かなかった。オルが寝入る私を見て「ようやく見つけた」と、小躍りしていたことを。



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