第2話・なんだって?
「可愛い子猫ちゃん。僕で良かったらもらってあげようか?」
「──?」
「きみを僕が拾ってあげるよ」
「ふぇ?」
初めは気のせいかと思った。まさか自分の呟きに応える人がいるなんて、思ってもみなかったから。でも、そこには想像もしていなかった相手が立っていたのだ。
「だ、誰?」
にこやかな笑顔を浮かべ、こちらを見返してくる相手に心当たりは無かった。相手は息を飲むほど美しい男だった。張りのある低音の声と喉仏がなかったなら、女性と見間違えてしまいそうだ。その彼は魔法使いのような白いローブを着ていて背が高く、魅力的な黒水晶のような瞳をこちらに向けてきた。癖のない黒髪を背中に流した彼は背中に金色の羽を背負っていた。
ふと、痛い人なのかしら? コスプレ? と、思う。
綺麗な容姿だけにそういった趣味の持ち主なのかと思って、実に残念に思った。私はそういったことには全く関心がなかった。いい歳してそんなことにのめり込んで……と、どこかのおばちゃんみたいな言葉が頭に浮かんだが、それを口にしないだけの相手への気遣いぐらいはあるつもりだ。
「僕はディヴァイン・オルグイユ。きみはこんな所にどうして一人でいるの? 泣いていたのかい?」
「私は──陽子。恋も仕事も失って途方にくれていたのよ」
こちらに向かって身を屈めたディヴァインに泣いていたのかと聞かれ、初めて頬を伝わる滴の感触に気が付いた。それに触れようとする前に彼の指で拭われた。
「可哀相に……。泣くくらい辛い目にあったんだね?」
奇異な格好をした彼は、私に優しかった。私はようやく人に会えた嬉しさで聞いてみた。
「ディヴァイン・オルグイユさん。ここはどこなの?」
「オルでいいよ。僕もヨーコと呼ぶから。ここは僕の住む城だよ。きみはこの世界に迷い込んじゃったんだね。でも心配しないで。保護してあげる」
「はあ?」
オルは身なりに負けず劣らず、私の想像をはるかに超える答えを返してきた。なんだって? 城? 私が迷子? 保護?
頭の中が数秒で疑問符だらけになった。理解が及ばない私に向かって彼の両腕が伸びてきたと思ったら、ひょいっと持ち上げられた。
──あら。意外。
優男風に見えて彼はけっこう怪力の持ち主らしい。二十代平均女性の体重をやや超えがちの私を抱き上げたのだから。でもなぁ。これっておかしくない? 私の肩やお尻に彼の手が回っている。そのせいで私は、彼の腰を両股ではさむ形となった。
──普通、男性が女性を抱き上げるとしたら横抱きじゃないの?
不満を抱きながらも、コートの中にジーンズを穿いてて良かった。と、思った。これがもし、スカートだったなら、中身が見えてないかとヒヤヒヤした処だ。
オルが歩き出したので、慌てて彼の背に腕を回した。するとふわりとしたものに触れる。恐らく彼の背負う羽だろう。彼がどこに向かうのか気になってきた。
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