第187話 徐檣の選択
空には綺麗な月が輝いている。
「よし、軍師殿のご命令だ。手筈通り門を開け、跳ね橋を下ろせ」
その様子を見た
そして、城壁に等間隔で設置されている松明を手に取り、それを頭上に掲げ、城外の暗闇に向けて左右にゆっくりと振った。
***
「動いた」
暗闇に騎兵隊を隠して息を潜めていた
「
「はっ! お任せください、兄上」
「この作戦の目的は
「御意!!」と、兵達が応える。
「よし! では声を出さず、静かに北門へ向かう! 私に続け!」
そう言って
その光景は、暗闇に馬の脚音だけしか聞こえない、何とも不気味なものであった。
♢
「
「
「守兵はどこにいる? まさかこんなに静かに会えるとは想像していなかった」
すると、
「北門の守兵は攻撃しません」
囁くような声で、
「攻撃しない?
「『軍師殿の命により敵を城内に誘い込み、私の合図で一斉攻撃せよ』。そう伝えてあります。もちろん、私が攻撃を命じる事はありません。守兵が私の攻撃を待っている間にことごとく斬り殺せば北門はすぐに制圧出来ます。軍師殿の命令と言えば彼らは疑う事なく従いますから」
「そうか。良くやってくれた。これで其方の救出と北門の制圧という任は同時に達成出来そうだ」
「兄上……」
「何だ、
黙って後ろに控えていた弟の
「その
「
「しかし、彼女は一度
「心配性だな、弟よ。
「いかにも。私は軍師に恨みを抱いています。私の功績を褒めずに罰だけ課そうとするのです。あまりに理不尽故、私は朧国に戻る事を選びました。
「なるほど。分かりました。然らば、兄上は
しかし、
「それは駄目です」
「何故だ、
「私が城内に戻らずに朧軍だけが入城すれば、守兵はたちまち全力で迎撃してくるでしょう」
「そうか、
「簡単な事、私も一度共に城内に戻ります。さすれば、私の攻撃の合図までは守兵は攻撃しません。それを利用し、こちらが有利な位置まで軍を進めるのです。
「良し! その策でいく!
「御意!」
♢
ぞろぞろと、静かに朧軍の騎兵隊が北門から入場して来た。その数およそ1千騎。先頭には鎧兜を着けていない普段着の
北門の守兵は城壁の上から弓を構え、
しかし、合図はなく、朧軍は次々と城内に入って来て、更に奥へ奥へと進んで行ってしまう。
そうこうしている内に、およそ1千騎の朧軍の騎兵隊は全て城内に入ってしまった。
闇夜に静寂。
点々と輝く松明の小さな火。
聞こえるのは馬蹄の音と防具の擦れる微かな金属音。そして兵馬の息遣いだけ。
と、その時、門楼の一点が突如として煌々と輝いた。
「閉門!!」
ついに合図があった。
しかし、その声は女の声であったが、
兵士の松明が集まり、一際
そこにいたのは、
***
「まさか……!」
背後の門は閉ざされた──正確には、完全には閉まっておらず、僅かに数名が通れる隙間が空いている。何故完全に門を閉ざさないのか、
退路はそこだけだ。
いつの間にか現れた閻兵が、地上からも、そして城壁の上からも弓を構え
「
「だから、軍師殿の策だと、言ったではありませんか」
悲しそうな顔で、
絶望で青ざめる
しかし、弟の
「降伏してください!! 無益な殺生はしたくありません!!」
門楼から女軍師・宵が叫んでいる。
「兄上!! 降伏などなりません!! こうなれば1人でも多くの閻兵を斬り殺すのみ!!」
「ああ……そうだ、だが、まず殺さねばならぬのは……あの女だ!!」
──が、即座に反応した
「
次の武器を取る余裕すらない
「……くっ……!!」
「兄上ーーー!!!」
兄の様子を見ていた
そしてすぐに数人の兵士達に取り押さえられてしまった。
「降伏すれば命は取りません!!」
再び軍師の声が戦場に響く。
すると、2人の指揮官を失った朧軍はたちまち武器を捨て馬から降りてその場に膝を突いた。
「おのれ……!!
取り押さえられ地面に這い蹲る
「……ごめんなさい……」
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