第185話 上官と部下、父と娘
「待て!
鎧兜を脱ぎ捨てて、ズカズカと城下街を1人歩いて行く
「放してよ!」
宵に叱られて怒り狂っている
日は傾いているが、まだまだ街には人の往来がある中で、民衆からの視線が2人に集まる。
「何処へ行くつもりだ」
「何処でもいいでしょ! もうどうせ私は出撃出来ないんだから!」
「何を子供みたいな事を言ってる。軍令を破ったのはお前だ。
「
「
「私は間違っていない! 人として仲間を助けた事は正しい筈だ!! 私を悪者みたいに言うなよ!!」
周りの通行人達は何事かと足を止め、いつの間にか人集りが出来始めていた。
「なるほどな。やはりお前は軍人には向いていない。お前の考え方ならば、民を脅かす山賊と変わらん。仲間想いなのは確かにいい事だが、交戦を好み、自分の思い通りにならなければ激昂し周りを罵倒する。そんな奴は、軍から出て行くといい」
徐檣の態度に動じる事なく、淡々と話を進める楽衛の放った言葉に、徐檣の大きな瞳が潤んだ。
「言ったな……!
「勝手にしろ、お前だけが強くても何の意味も無い。すぐに我々が鎮圧してお前の首を斬る事になる」
「お前達じゃ無理だ!」
「ただ、良く考えろよ。その選択でお前の父、
そして、馬乗りのまま、躊躇う事なく
それを目撃した通行人からは悲鳴が上がる。
「お前が父上の何を知ってるんだよ! 気安く私に父上の事を語るな! 何も知らないくせに!!」
絶叫しながら再び
「俺にも娘がいるんだ」
不意に発した
「まだ8つだが、素直で可愛い子だ。将来は父上みたいに軍人になるんだと言っている」
「……」
困惑した表情の
「娘は強くなる事を求めた。だから俺は武を教えた。だが、俺は娘を死と隣り合わせの軍人にさせるつもりはない」
「……なら、何故、武を教えたの?」
「自分を守る為、そして、大切な者を守る為だ。自らの武を鼻にかけ、怒りに任せ他人を傷付ける為ではない」
そしてそのまま
「ごめん……ごめんなさい」
声を震わせながら
人集りは次第に散っていった。
***
「あの女、また騒ぎを起こしているのか。
「いいか?
「は、はあ……」
「もし
「え……いや、しかし、
「構わん。軍師殿の不安分子となるものを排除するだけだ」
「ですが、我々如きの力ではあの女は殺せません」
「遠くから矢を射掛れば、いくら猛獣と言えど殺せよう。敵に戦力を与えるのを未然に防ぐのだ」
兵士は「御意」と言うとすぐに走って行った。
***
光の差さない薄暗い牢獄の中で、
後ろ手に木製の枷が嵌められたままで両手の自由はない。
排泄しやすいようにと、
格子の外の牢番の男の足元には排泄物を受ける為の年季の入った汚い木桶があり、そこに股を拭う布が掛けられている。
朝と夜二度の食事と排泄の時だけ牢番が牢の中に入って来てその世話をされる。両手が使えない光世は牢番に全てを託すしかない。
見ず知らずの異性に下の世話をされるのは耐え難い苦痛である。
拘束されてから5日が過ぎた。
光世の耳には何一つ外の情報は入って来ない。
ただ「喋りなさい」と優しく言うだけだ。
もちろん、光世は何も喋らないので、
いつまで続くのか、先の見えない囚人生活に絶望しかけていたそんな時だった。
「光世ちゃん、久しぶり〜」
随分と久しぶりに聞いた気がする女の声。
光世は閉じかけていた目をゆっくりと開いた。
「……
牢の外にいた女は、眩しい笑顔を向ける
「私よ私、
「
「意外と元気そうで良かったわ」
「元気なものですか。知らない男に下の世話をされるとは思いませんでしたよ」
そう言った光世は、いつもの牢番がいなくなっている事にようやく気付いた。
「あれ? もしかして、
しかし、
その反応が光世の一縷の望みを打ち砕いた。
「あら? 何か勘違いをしているようね、光世ちゃん」
「え?」
「私は貴女の味方ではないのよ?」
「私はね、貴女が
「そんな事言って……
「貴女と
「え……」
流石に詳細な数字まで当てられるともう言い逃れは出来ないだろう。他の者にはバレていなかったのに、何故この女だけはここまで把握しているのか。
光世は口をつぐみ俯いた。
「
光世は顔を上げられなかった。
終わった。ただ絶望した。
閻帝国の
無論、光世の命もない。
「なるほど、つまり
光世は大きな溜息をつき
すると、
「あら? 光世ちゃん、違うわよ? 私は貴女の味方ではないけど、敵でもないわよ?」
意外な返答に光世は顔を上げて
「どういう……」
「そうねー、それじゃあ少し私の想いをお話しましょうか」
そう言うと
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