第6話 私は軍師です!
木製の木箱のような小さな檻。そこに
牢屋というよりは、簡易な造りのケージのような檻だ。天井は低く立ち上がることは出来ない。広さも畳一畳もない程狭い。
見張りは兵士が1人だけ。その兵士は檻のそばに座り込みだらけている。
何とかしてここから逃げ出さなくては。宵はそれだけを考えていた。しかし、まずは両手を縛っている麻縄を解かなければならないが、近くに道具になりそうな物は落ちてない。どう考えても自分の力ではどうしようもない。
「あんたさ、何処から来たの?」
不意に見張りの兵士が話し掛けてきた。
「あ、えっと……私、ここに来るまでの記憶がなくて……何も覚えてないんです」
「そうなんだ。可哀想に。で、俺達に捕まっちまったってわけか。あんたいくつよ?」
見張りの兵士は相変わらず気だるそうに座り込んだまま質問を投げ掛けてくる。特別宵に興味があるようなわけでもなさそうだ。余程暇なのだろう。
「22です」
「本当か? 同い歳だ!」
宵の年齢を聞くと、見張りの兵士は一変、興味深そうに檻の中を覗き込んできた。そして、被っていた兜を脱いだ。
「俺は
「瀬崎……宵」
「セザキ……ヨイ? 変わった名前だね」
「宵って呼んでください。この後も話す事があれば……ですけど」
やはり日本人の名前はこの世界では珍しいらしい。一応名乗ったが、宵は見張りの兵士に名前など名乗って何の意味があるのか、と少し投げやりになっていた。
「宵か。宜しくな! ……って言っても、今ここでお喋りする相手くらいにしかならないけど」
「あ……はい。宜しくお願いします」
「君さ、よく見ると可愛い顔してるね。髪型と服装は珍しいけど似合ってるよ。……胸は……まあ……うん……けど俺は小さくても構わないよ」
真正面からのセクハラ発言にムッとしつつも、宵はこの状況に活路を見出していた。
「
「え? 何でそんな事聞くの?」
「ここに入れられる前に陣営の兵士達を見て来ましたが、皆疲れ切った様子で活気がありませんでした。
「よく見てるんだね。自分がどんな処遇になるか分からないって時に……」
「あ……いや、その……つい」
「いや、怒ってるんじゃないよ。感心してるんだ。君の言う通り、賊と戦っているが劣勢だ」
宵の睨んだ通り、
「
「は? な、何でそんな事?? さすがに捕虜に詳細な情報は教えられないよ。やっぱり君、敵の間者なの?」
「私は……あ、軍師志望の就活生です」
「軍師……? 就活生??」
「……えっと、つまり、仕官先を探してる
「待ってくれ。君は確か記憶がないって」
「確かに、あの森に何故いたのか、記憶はありません。自分が何処から来た人間なのかも。でも、自分の名前、そして、何をすべき人間だったのかは覚えていました。よく分かりませんが、こうして
「そんな事言われてもなぁ……俺の一存で決められるわけないし、そもそも女を使うなんて聞いた事ない。
「なら、上官を呼んで来てください。直接お話します」
ここで引き下がるわけにはいかない。宵は就活の面接の時には見せた事のないような必死さで冗談を挟む
「駄目だよ。上の人間がそんな話信じるわけないし、助かる為に言ってる嘘だとしか思えない。俺がそんな事報告に行ったら『捕虜の戯言に惑わされるような牢番はいらん!』って首を刎ねられる」
「そんな……戯言だなんて……酷い」
宵は俯いた。ただ、
元の世界の就活と同じように、この世界でも何も出来ないのか。瀬崎宵は何て無力な存在なのだ。
宵が絶望して牢の格子に頭を
「宵と言ったな。其方、今言ったことに嘘偽りはないな?」
その声は先程
「兵法の知識で我が軍を勝利に導く。嘘偽りはないな?」
「はい。勿論です」
宵が答えると
「
そうだ。この男は
「その女が名を名乗った時からだ」
「も、申し訳ございません! 捕虜と世間話など……!」
だが、その心配は杞憂に終わった。
「それは良い。お陰でこの者から情報が得られた。兵法を知っているとは心強い。丁度我が軍には兵法を知る者が一人もおらぬ。ただの武力自慢だけ。それ故に数で勝る賊軍如きに連敗している。宵よ、もし命を繋ぎたければ、我が軍をこの窮地から救ってみせよ」
これは奇跡か。面接すら受けさせてもらえなかった企業に、人事部長自らが宵の能力に興味を持ち試しに使ってくれると言うではないか。
「はい……! はい! 必ずや
宵は一先ずすぐには殺されなくなった事に一安心して息を吐く。
「ただし、其方は手枷を付けたまま献策してもらう。当たり前だ。まだ敵の間者という疑いは解けてはおらぬ」
「……え?」
予想外の対応に宵はまた顔を上げて
「そして、その策を
「……失敗……すれば?」
宵は唾を飲んだ。
「即刻斬首だ」
青ざめた宵の顔を、
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