第7話 水がこんなに美味しいなんて
「なるほど。それでその女を牢から連れ出したというわけか」
手を麻縄で縛られたままの宵はその猜疑心満載の視線に耐え切れず下を向く。
「左様でございます。どの道我々にはもう後はない。背後にある2本の川、
「ははははは! 良かろう! 宵とやら。貴様に一度だけ機会をやろう。得体の知れぬ小娘が、敵の間者でない事を俺に示すがいい」
突然笑い出した
「
♢
5分もしないうちに、4人の鎧兜で武装した男達が部屋に入って来た。
「おやおや、間者の妖術師の女が何故ここに?」
部屋の真ん中に李聞と佇んでいる宵の顔を見るやいなや、4人の鎧兜達に紛れて文官風の着物を着た中年の男が小馬鹿にしたように言った。この男は、ここに初めて連れて来られた時にも居たような気がする。
「これよりこの者が我が軍が賊共に勝つ秘策を話すとの事です、
「何と! ははは、それは面白い冗談だ」
どうやら、
「
「ほほう。“兵法”だと? そのような戯言を信用なさるのか? 兵法は数百年前に廃れた学問。この国でそれを知る者は土の下で眠る先人達くらいだろう。そんな小娘が兵法を知っているはずがない」
「聴くだけなら何ともありますまい。まったく道理の通らぬ事を話せば斬る。いくら兵法を知らぬ我々でも、我が軍を陥れようとしていればその時点で気付きましょう」
「なるほど。一理ありますな」
話を纏めた
「よし。宵。策を練るのに何が必要だ? 言ってみろ。必要なものは全て用意させよう」
「あ、えっと……」
緊張のあまり頭が回っていない。刀を持った男達が睨み付ける部屋の真ん中で今から必勝の策を献策しなければならない。少しでも間違った事を言ったら首を斬られる。こんな状況で何が言えると言うのか。
「落ち着きなさい。おい、
隣の李聞が宵の様子を見て指示を出した。
すぐに入口の外に控えていた鍾桂が、どこからともなく盃いっぱいに入った水を持って来てくれた。
「あ、ありがとう」
麻縄で両手を縛られたままの手に
飲み終わった盃を鍾桂へと返す。
「頑張って」
ポツリと小さな声で
その言葉が、今恐怖の真っ只中にいる宵に勇気を与えてくれた。1人きりだと思っていたが、味方してくれる心強いその言葉。宵は深呼吸した。
「では、まずこの周辺の地図を見せてください」
宵は意を決して声を出した。
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