第23話『何でも屋のナオシ』
俺はサンルーフからこの身を出し、車の上に立つ。
ガタガタと揺れてもバランスを崩さないのは、このジェネレーターから吐き出される粒子のおかげだ。この粒子は本当に様々な事に使うことが出来る。
車の
現在位置は列車の最後部。人質が何両目にいるのかも分からないこの状況では、後ろから順々に前へと進んでいくのが一番手っ取り早い。
そして俺が列車の中へ入ると、乗客が悲鳴をあげた。
まぁ、剣のような凶器を持った野郎がいきなり現れたらそりゃ驚きますよね。
「大丈夫、助けに来たんだ。俺は何でも屋のジェネシスです。お困りの際はぜひ俺たちに相談を!」
俺が味方だって教えるのと同時に、俺たち何でも屋『ジェネシス』の宣伝も忘れない。
人質となっている人たちに俺の雄姿を見せることによって信頼感を得る。そしていつかは依頼が絶えない大きな会社にしてみせるさ。
それにしても後ろの方には列車を乗っ取った奴らはいない。
ということは、全部の客車を見張るまで人数はいないって事かもしれないな。
ところで犯人の目的は何なんだろうか。政治家の娘さんを人質に取るくらいなんだから反政府の奴らなのか、それとも愉快犯で、たまたまそこに政治家の娘がいただけなのか。
まぁ、どっちだっていいさ。俺は娘さんとこの乗客たちを助けて犯人を捕まえるだけだ。
『ナオシさん、そこから先の車両に火器を持った人物がいます。気を付けてください』
突然、俺の頭の中に直接フェルトの声が響く。
これは剣となったフェルトと意志疎通を取るための手段。魔法の『念話』の類だとは思うけど、原理は全然わからない。
とにかく、今はこの先にいる犯人の事を考えるだけだ。
緑色に透き通った剣を強く握りしめる。
「いくぞ。ワン、ツー、スリー……!!」
そして勢いよく次の車両の中に入り、乗客に警告する。
「みなさん、伏せてください!!」
大慌てで身を伏せる人や突然の事に唖然としてしまう人がいる中、俺はジャック犯の拳銃を切り裂き、頭を蹴り飛ばしてのしてやる。
だがしかし、ここにはジャック犯がもう一人いた。
いきなりの事でもう一人のジャック犯の動きが止まっていたが、仲間が一人やられたことに激昂して銃を構えてくる。
これはマズい。
こんなところで銃を撃たれたら俺は良いが、乗客にまで危険が及んでしまう。
怪我人が出たとなれば、俺たちジェネシスの評価はガタ落ちだ。今回の任務は死傷者ゼロで達成されると言っても過言ではない。
初めてもらったビジネスチャンスを、失う訳にはいかないんだ。
「フェルト!」
『はい』
車両内に銃声が響き渡る。放たれた銃弾がどこに向かって行くのか凝視した。
俺はフェルトの力を借りて、人を越えた動体視力を得て銃弾の軌跡をたどり、その先に剣が発生させる粒子を使って防壁を作る事によって受け止めてやった。
一発の銃弾は、誰にも当たることなくその場にポロリと落ちる。
これがジェネレーターが生み出す粒子の使い方の、その一端だ。
何が起こったのか理解できないジャック犯は、もう一発撃ってやろうと構えるが、時すでに遅し。俺はこの剣が届く距離に来ている。
拳銃を切り裂き、剣の柄で思いっきり後頭部を死なない程度に殴る事で気絶させた。
これでこの車両は解放された。
「フェルト、この先、何人いるか分かるか?」
『五人の反応があります。一人、こちらに向かってきているようです』
「さっきの銃声に反応しちまったか」
ガラリと車両のトビラが開かれ、
「おい、さっきの銃声は――」
「オラァ!」
顔をのぞかせた瞬間に、腹にパンチをかましてやって気絶させてやった。
「わりぃな、見せ場を与えてやれなくて」
さて、これまでマリナとかいう娘さんがいなかったということは、この先――先頭の座席車にいるらしい。
一番前にある座席車はお金持ちが乗るのか、高級感のある車両だった。
きっとあの中にジャック犯のリーダーと、娘さんがいるはずだ。
「いくぞフェルト」
『はい、ナオシさん』
今いる車両から次の車両へと飛び移り、その中に突入した。
その中には、銃を持った奴らが三人。そして写真で見せてもらったマリナ=エンライトの顔もあった。手足が縛られ、タオルで猿ぐつわをされている。
「おいおい、なんだよお前は」
スキンヘッドの大男が下品な濁声で聞いてきた。
だからここで俺は、高らかに宣言してやった。
「俺かい? 俺は何でも屋ジェネシスのナオシ。そこのエンライトさんを助けるためにここに来た!」
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