第24話『任務完了!』



「何でも屋だぁ? そんなオモチャみてぇな剣をぶら下げてよくここまでこれたもんだなぁ、正義の味方気取りの何でも屋さん? ぎゃははははははは!!」



 スキンヘッドのおっさんは汚らしい声で笑う。正直なところ耳障りでしかないからその笑い方はやめて欲しい。



「その汚い笑い声さ、今すぐ止めてくれないかな? 耳が腐る。それと、今すぐにでも降参してくれるとありがたいんだよね。さ、武装を解除しな」


「うるせぇぞクソガキ! やれぇ!!」



 俺の言葉なんて聞く気もなく一斉に銃弾を放ってきやがった。


 火薬の弾ける音が何度も聞こえるが、それが誰の体にも当たることなく地面に落ちる。


 そう――さっきやったように剣から発生している緑色に輝く粒子を利用して防壁を作り、銃弾を受け止めたのだ。



「まずは、そのうるせぇ拳銃をどうにかしないとな」



 何発も放たれる銃弾を粒子の防壁で防ぎながら、俺は接敵。


 前に出ていたスキンヘッドの取り巻きの一人の頭を持ち、もう一人の取り巻きの頭に打ち付けてやった。もちろんその二人はノックアウト。気を失ってその場に倒れた。


 そしてスキンヘッドは――。



「へへへ……中々やるじゃねぇか。だが正義の味方ごっこもこれで終わりだクソガキ。これ以上暴れたらコイツの命はねぇぞ!」



 あろうことかマリナ=エンライトの頭に拳銃を擦り当てていた。


 一番守らなければならない人物を一番危険な状態にさせてしまった。この失態は許されない。俺はこの失態をチャラにすべく、無傷でマリナ=エンライトを助け出さなくてはならない。



「まったく、おなじみ過ぎる行動に俺は呆れかえってるよ」



 まずは暴発を防ぐために、どうにかして銃口を別の方向に向けないとならない。



「なぁハゲたおっさん。分かった、俺は降参する。この剣も――」



 そう言って俺は剣を地面に落とし、フェルトには悪いがスキンヘッドの方へと蹴り飛ばした。



「捨てるから。だから、な? お嬢さんを離してやってくれ。そいつはお前らの貴重な交渉材料なんだろ? 殺すわけにはいかねぇよな?」



 マリナ=エンライトと言えば、ハイレシスの政治における中心人物ブライアン=エンライトの一人娘。彼女を人質に取れば、何らかの要求が出来ると思ったのだろう。


 だからこそ、彼女が乗ると分かっていたこの列車をジャックしたんだ。



「くそっ……分かったよ。妙な動きはするんじゃねぇぞ!」



 俺のその考えは当たっていたのか、銃口をこちらに向けてマリナ=エンライトをその場に投げ捨てた。


 かかった……!!


 俺が剣を捨てた事でアイツは安心しきった。これで俺は攻撃する手段を失ったのだと、勝手な憶測で銃口をこっちに向けるという行動に移してしまった。それが奴の敗因。


 俺の回りに未だ残っている緑色の粒子を長細い形に形成する。それはまるで杭のようなカタチを模していた。



「フェルト、照準のアシストまかせたぜ。拳銃を狙え」


『了解。拳銃をターゲットに固定。いつでもどうぞ』



 小さな声でフェルトに指示をすると、相変わらず可愛げもない平坦な声で、事務的に話してきやがった。


 しかし、俺もそれに助けられてきてるから文句も言えない。


 とにかく、準備が整ったのなら、躊躇する必要なんて何もない。



「つらぬけ……!!」



 緑色の杭は真っ直ぐに――いや、吸い込まれる様にしてスキンヘッドの持っている銃を貫いた。



「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」



 ちょっと杭が長すぎて拳銃どころか奴の手まで貫いてしまったけども、悪事を働いた罰だと思って気にしないことにした。俺には関係ないもんね、仕方がないね。



「うるせぇぞハゲ。ちょいと眠ってろ!」



 ゴン! と鈍い音が響いたかと思えば、スキンヘッドの大男はその場に倒れた。


 俺は蹴り飛ばした剣を拾い、フェルトに話しかける。



「フェルト、他に敵は?」


『……いないようです。お疲れ様でした、ナオシさん』


「おう、お疲れさん」



 人質にされていたマリナ=エンライトの猿ぐつわと取ってやると、彼女は涙目になりながら叫ぶようにして言った。



「あ、あの! ありがとう、ございました! とっても、怖かった、です。うう……」


「もう安心していいですよ」



 俺は縛り付けられた手足の縄を切りながら会話を続ける。



「列車のジャック犯は全員倒してしまいましたから」


「あなた一人で、ですか?」


「まぁ、一人ではないですけど。この剣……めんどくさいな。フェルト、戻ってくれ」


『分かりました』



 剣が白く光ると、それは一人の女の子を形成する。


 そこに現れたのはゴスロリを着た銀髪のちっこい女の子。さすがにこれには驚いたのかエンライトさんは目を丸くしていた。



「不思議な……剣をお持ちなんですね」


「いや、剣よりはこっちの姿がメインかな? 剣になれる不思議な女の子です。ほら、自己紹介なさい!」


「フェルトです。よろしくお願いします」


「フェルトさんですか……こちらこそよろしくね」



 さて、マリナ=エンライトを助けたし、ジャック犯はすべて倒したし、つまりは乗客全員を救い出した。よし、ミッションコンプリート!


 と、安心しきっていたその時だった。

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