第17話『不安と期待と』
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「お待ちしておりました、ようこそ何でも屋ジェネシスへ!」
私を迎えてくれたのはなんとも頼りなさそうな男だった。
顔は整っているけどそれ止まり。特徴がないのが特徴と言わんばかりの姿格好。
ここは本当に何でもやってくれる何でも屋なんだろうかと不安にもなる。
「さぁさぁ、入って入って。今お茶入れますんでー」
事務所の中に入って、ソファに腰かける。
周りを見れば、多少はキレイにしているみたいだけど、ボロさは隠し切れない事務所だった。
お茶を入れているのはゴスロリを着た小さな銀髪少女……あ、かわいいなあの子。
そしてもう一人。お客が来てるというのに鼻くそをほじってマヌケ面をしている男がいた。
本当に大丈夫なのかな、ここ……。
「どうぞ」
「あ、おかまいなく~」
ゴスロリを着た女の子が私の前に紅茶を置いてくれた。
近くで見れば、かわいさがより増した気がする。綺麗に整えられた銀色の長髪と、かわいいゴスロリの服、ぱっちりとした目に小さな顔。この世のかわいいを凝縮したような目の前の女の子に、私は見とれてしまった。
なんでこんなかわいい子が、こんな野郎たちと一緒に何でも屋をしてるんだろう?
「まずは自己紹介といきましょう。俺がこの何でも屋ジェネシスの所長をしています。ナオシ=サカイです。そしてあの銀髪の女の子がフェルト。あの隅のイスに座っているのがロディ=ピットマンです」
「は、はい。私はリリアン=マクファーレンです」
「よろしくお願いしますマクファーレンさん。それで、依頼の内容は?」
「え? あ、はい。えっとぉ……単刀直入に言いますと」
「はい、何でしょう?」
「友達が、欲しいんです」
「ほう……」
やっぱり、こんな頼みごとなんて変だし、請け負ってくれないよね。
友達が欲しいとか小さい子供じゃないんだから。本当は誰かに頼る様な事じゃないのは分かってる。だけど、私ひとりではもうどうしていいか分からないの。
だから――。
「あのぅ……やっぱこんな依頼は受けませんよね。あはは……私帰りま――」
「誰がお断りすると言いました?」
私の言葉を遮る様にして、彼は――ナオシ=サカイという男は真剣な表情をしながら言う。
「俺たちは何でも屋。何でもするから何でも屋。どんな事であろうと、依頼された事は絶対に達成する。それが俺たちジェネシスです」
その言葉を吐くサカイさんは、先ほどまであった頼りない雰囲気がなくなっていた。
今、彼から感じるものは、すべてを任せても良い安心感。
「だから、安心して任せてください」
「はい……分かりました」
気が付けば、私は「はい」と返事をしていた。
深く考える事もなく、自然にその言葉が口から出てしまった。
「では、お話を聞きましょう」
そして私は話した。これまで私がどうやって人生を歩んできたのかを。
なぜ私がそこまで友達が欲しいのか。その気持ちをすべて吐き出す。
そのうちに、私は涙を流していた。
なぜかは分からない。だけど、急に胸が締め付けられて、苦しくなって、溢れ出てくる感情が押さえ付けれなくなってしまった。今までどれだけ必死に押さえつけていたのだろうと、私は泣きながら思う。
きっと、私は目を背けていただけなんだ。
辛い現実から逃避して、一人ぼっちでもいいと、この才能があるのだから、他人にはないものを私は持っているのだからと、自己を保っていたんだ。
「マクファーレンさん」
銀髪の女の子、たしか名前はフェルトって言ったっけ?
彼女は私の手を掴んで名前を呼びかけてきた。感情が籠ってない声と無表情なのに、なぜか温かみを感じた。手を握る彼女の手が、とっても温かったからなのかな?
「もう、大丈夫ですフェルトさん。平気、もう、平気だから」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を裾で拭い、サカイさんに向き直る。
すると彼は私の目をじっと見ながら言う。
「分かりました。ではどうするか、それが問題ですよね」
私は無言でうなずく。
そしてサカイさんが急に立ち上がって宣言した。
「お任せください。俺たちが、あなたを素敵な人物にしてさしあげます」
「へ?」
サカイさんは、一体何を言っているのだろう。
ビシィ! と拳を天高く掲げ、自信満々に、彼は言う。
「リリアン=マクファーレンのプロデュ―ス作戦、始動です!!」
思わず私は頭を抱えた。
ここに相談に来て本当に良かったのだろうかと、思わざるを得なかった。
だって、私の理解の範疇を越え過ぎていて、まったくついていけなかったのだから。
「…………はぁ」
何だか身内で騒いでいるお気楽サークルにしか見えなくて、でもさっきのサカイさんから感じた信頼感をどうしても忘れられなくて、とりあえずは彼らに任せてみようと、思ってしまうのでした。
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