第13話『いまの俺にできること』
ふざけんじゃねぇぞ。もしかすると、エリカがあの汚らしい野郎に穢されるかもしれない。そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺の足は気づかない内に動き出していた。
いま俺にできることはなんだ?
俺は車の運転しかできない弱者だ。だけど、それが取り柄でもある。
だったら、だったら、だったら! 俺はそれをするしかねぇだろう? 幸い、車は銃弾の嵐に巻き込まれてないんだから。
「ナオシ! 車に乗るから、俺を守ってくれ!」
「なんだって!?」
「いいから、頼んだぞ親友!」
「あぁ、任せとけよ!!」
俺はナオシと共に必死に走り、トレーラーの中にある車に乗り込み、キーを回してエンジンをかける。
車がトレーラーから飛び出す。当然、奴らは俺のこの車を止めるために何人かが車を撃ってくるが、ナオシの奴が不思議パワーを使って俺の事を守ってくれるから安心だ。
クルーザーはすでに運転を再開して、川を下り始めている。
だが、速度はこっちの方が上だ。追いつくのは容易なんだが、問題はどうやってアイツの船に乗り込むかだが……そんなの、方法は一つしかねぇだろう。
「きっと、ナオシが隣に乗ってたら降ろせとかうるせぇんだろうな」
何度かアイツを隣に乗せたことがあったけど、泣き叫びながらゲロ吐いてたっけ。
後処理大変だったけど、面白かったから一度くらいは許してやったよ。二回目はさすがにキレたがな。
ま、今は俺一人だから好き勝手やれる。
覚悟しろよグレゴリー。今からお前を捕まえてやる。
「もっとだ。もっと! もっと速く!」
シフトは5速。アクセルを床まで踏み込み、エンジンはレッドゾーン間際まで回ってる。最高速が出てる。減速なんかするもんか。俺は、アイツを、必ず捕まえる!
「飛べぇ!」
おそらく川遊び用の飛び降り台だったのだろう。
それに躊躇なく乗り上げ、車を飛ばす。綺麗な放物線を描きながら、吸いこまれる様にしてクルーザーへ飛び込んだ。
次に襲ってきたのはとんでもない衝撃。エアバッグが作動して死に至るような衝撃を受ける事はなかったが、それでもとんでもない痛みが体中に走った。
俺は悲鳴をあげる体に鞭を打つかのごとく、シートベルトを外して立ち上がる。助手席の足元に落ちていたあのスキンヘッドのモノらしき拳銃を手に取り、クルーザーの中へ侵入する。
次に目に飛び込んできたのはこの現状に驚くばかりで身動きが取れなくなっているグレゴリーらしき男とエリカだった。
「こっちに来いエリカッ!」
俺の顔を見るなり表情が明るくするエリカは、今にもすっ転びそうな勢いでこちらに駆けてくる。
俺の胸に飛び込んできたエリカに、俺は優しくこう言ってやった。
「すぐ終わるから、とりあえず目と耳をふさいでろ。いいな?」
無言で頷き、両手で耳を塞ぐエリカ。
そして俺はガクガク震えているデブで汚らしいおっさんに拳銃を向ける。
「俺は、お前を、許すつもりはない」
パンパン、と二回引き金を引いて音を鳴らす。
その銃弾はグレゴリーの太ももを貫き、身動きが取れない状態にしてやった。
ただ叫び声をあげるグレゴリー。
「くそぉ、くそぉ……」
今にも泣き出しそうなグレゴリーを見て、俺は本気で嫌悪感を抱いた。普段は金だなんだと威張り散らし、人の上に立ち下の者を操る。
そんな奴の、こんなにも情けない姿を見る羽目になるとは思わなかった。
「…………ふ」
あ? なんだその笑みは。
喚き散らしていたさっきまでと一転して、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべやがった。
「ッ……!?」
唐突に後ろから気配がする。
しかし、こういうのは振り向いたときにはもう遅いものだ。完全に失念していた。このクルーザーに乗っているのは何もグレゴリーひとりなわけがないだろう。
それでも俺は振り向くしかない。それしか俺にできることは残っていないんだ。
「詰めが甘いんだよ」
そんな言葉が聞こえた。正直肝が冷えるくらいにビビったが、すぐに冷静さを取り戻した。
なぜならその声は、敵のものではない。聞き慣れた、男の声だったからだ。
緑色の輝く綺麗な塵を撒き散らすその男は、ナオシ=サカイ。俺の最高の親友だ。
「ホント、最高だよ、お前は」
ナオシが来てくれたからには、もう奴らが反撃するチャンスがないことを意味する。当然のように、ナオシの野郎が剣の力を使ってこのクルーザーを制圧したことにより、この事件は幕を閉じた。
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