第11話『ブレーキング・ドリフト』

 ロケランによって作られた道を、俺は進む。


 左右には無残にもぶっ壊されたパトカーの残骸。そして――あまり見たくないものもあったが、それには目瞑らせてもらう。だって、俺は、エリカの命を助ける方が今は大事だからだ!


 ブレーキングして減速し、クラッチを切ってシフトダウン。ステアリングを切りつつ再びブレーキをポンと踏んでやる。すると車が横を向く。景色が横に流れていくのを見ながら、俺はカウンターステアを当てつつアクセル操作をして車をコントロールしてやる。



 これがブレーキングドリフト。



 俺が車を安全にかっ飛ばす上で使っているテクニックの一つだ。


 車が滑ってコントロールできなくなるくらいなら、最初から滑らせてコントロールすればいいじゃない、と考えてこの“ドリフト走行”を作った。もしかしたら、すでに誰かの手によってこの走行方法は作られていたかもしれないが、俺の周りでは俺が最初にやった。


 みんな驚いていたよ。車が蟹のごとく横向きに駆け抜けていくんだから。



「一難去ってまた一難だな、ホント」



 横に大きな川が流れている川沿いの道路を走っている中、後ろでパトカーが何台もサイレンをうるさく鳴らしながら、俺たちを追跡をしてきやがる。そして空からは魔導士が俺を捕捉し続けているはずだ。だから、この包囲網をどうやって抜け出せばいいのか……考えろ。



「おい筋肉ハゲ、武器はロケラン以外に何がある?」


「まずロケットランチャーの残弾が残り二発。そしてハンドガン、スナイパーライフルに手榴弾が五個ほどある」


「なるほどな。とにかくそれはできるだけ温存だ。この街を抜けるにはそのロケランは必要不可欠だからな」



 俺は喋り終わると、再び両手でステアリングを握りしめ、アクセルを踏み込む。


 行く道、そしてまた行く道、どこに行っても警察がバリケードを使って封鎖してやがる。だが、すべてではない。まだ抜ける事ができる道はあるはずだ。



 これは時間との勝負。完全に包囲されてしまう前に、この街を抜け出せなければ俺らの負けだ。捕まってエリカの身柄は保証されなくなる。クソッ! ILAだか何だか知らないが、なんで警察に協力して警察に追われなきゃいけないんだよ!



 確かに民間組織と国際組織じゃ別物だし、グレゴリー確保の作戦を大っぴらにするわけにもいかないのは分かるが、ちょっとハード過ぎるっての!



「まずはあの魔導士をどうにかしなきゃ始まらんぞ。アイツらは空からずっと俺たちの事を追跡してる。処理しないと先回りされてこの街から出られない。おいスキンヘッド、スナイパーライフルでアイツらを落とす事は出来ないのか?」


「やってみよう」



 ただ低くて渋いその一言だけ。


 スキンヘッドの野郎はまたも後ろのバッグからスナイパーライフルを取り出してドアの窓から身を乗り出してスコープを覗く。



「ッチ! おい、曲がるぞ、掴まってろ!」



 目の前にはまたも警察の野郎が道を塞いでいた。後ろには無数のパトカーが突進してくる勢いで走っている。残る道は……一か所だけ。正しく言えば道じゃないけど、そこを通る他ないんじゃいボケェ!!


 左に曲がり、そして加速。シフトはそのままに、アクセルペダルを床まで踏み込む。その先にあるのは――人が落ちないようにするための柵。



「飛ぶぞ! 掴まれぇぇぇい!!」



 それを突き破り、車は宙に投げ出された。別に飛べるわけじゃない。落ちてるだけだ。


 これぞ掟破りの空中にある道だぜ。


 え? それっぽい言葉にして正当化するなって?


 そんなもん百も承知だっつーの!



「落ちろ……!」



 車が飛んでいる――もとい落ちている最中。隣からはまたも低くて渋い一言が聞こえた。


 何をしているのかと思えば、彼はスナイパーライフルを構えているじゃありませんか。こんな場所で撃つとかどういう頭してんだよ。


 だけど、よくよく考えてみると、スキンヘッドの行動は理にかなっていた。


 なぜなら、まず射線上に障害物がないこと、そして空中に車があるからこそ揺れる事はない。よって、今が魔導士を撃ち落とす最高のステージってワケだ。



 乾いた音が二回。



 そしてスキンヘッドはすばやく車内に戻り、対ショックの姿勢を取った。


 車は地面に叩き付けられるようにして着地。


 あまりの衝撃に一瞬前が見えなくなったが、シートベルトによってこの身がどこかに叩き付けられる事だけは免れた。



「はぁ、はぁ、はぁ……魔法使いは?」


「落ちたぞ、間違いない」


「そうか、空からの監視がなくなったところでズラかるとしましょ」



 俺は1速にシフトを落として再び加速する。俺を見失っているこのチャンスを生かずどうする。ただ、俺が乗っているこの車は目立ちすぎる。見た事もない形をしているから、目撃されればすぐにバレちまう。


 どうすればいい……?



「ピットマン、これから車を交換する」


「なんだって?」


「いままでこの車を使っていたのは目立たせることにあるんだ。だからこの車をデコイにして包囲網から脱するぞ」


「なるほど、そういうワケか」



 チラチラと周りを見つつ、俺はスキンヘッドの野郎にプランを聞く。



「で、具体的にはどうやって車を交換するんだ?」

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