第8話『信頼できる親友』

「あなたの友達がここにいるの?」



 オコナーさんは怪訝な顔で俺を見てくるが、その言葉を無視して俺は階段を上がって事務所の入り口に立つ。


 ノックもせずに俺は無遠慮でズカズカとアイツの事務所に足を踏み入れた。



「おーい、ナオシ。いるかー?」



 俺の呼びかけに事務所の奥の方から「ちょっと待ってくれ」と声が聞こえてきた。その声が聞こえたその部屋は居住空間となっている――とはいても寝床とシャワーくらいしかないけどな。



「お、おまたせ……」



 すると額に汗をかきながらナオシは部屋から出てきた。それに続くようにして銀髪の小さな女の子が現れる。その衣服は……乱れていた。



「な、ナオシ……おめぇ……。おまわりさん、コイツです!」



 俺は後ろにいた女にそう言うと、彼女は困った顔をしながら俺たちを眺めていた。



「お前、突然可愛らしい女の子連れてきたと思ったらやっぱりそういう事がしたかっただけなのか。お前だけは、お前だけは親友だと思っていたのに……ロリコンだなんて失望したよ」


「ままま、待てぇぇぇい?? これは違う! 違うんです。いやね、ちょっとフェルトをからかったら腹パンされたというか……」


「からかったって……そうか、だからフェルトちゃんはナオシを殴って逃げようと――」


「違うから! フェルトにゴスロリ着させたらあまりにも似合っていたから……ね」


「なんでゴスロリ………………?」


「い、いやさ、フェルトが物欲しそうにこの服を見てたから買ってやっただけというかなんというか――ってか、お前がここに来るなんて珍しいじゃん。依頼か?」



 ふはは、コイツの困った顔が面白くてからかい甲斐があるってもんだ。


 さて、悪ふざけはこの辺にして真面目な話をしましょうか。



「そう、依頼だよ。報酬は弾むぜ。成功した暁にはちょっとばかし大金が入るらしいからさ」



 そして俺たちはテーブルを囲むようにしてソファに腰掛けた。



「まず、コイツの紹介からだな。オコナーさん、コイツはナオシ=サカイ。この街で何でも屋をやってる元ドロップアウトボーイだ」


「ドロップアウトは余計だ! まぁ、間違いじゃねぇけど。えと、改めまして、ナオシ=サカイです」


「こちらこそ、私は国際捜査機関ILAのダイナ=オコナーです」



 ナオシの野郎も、彼女がILAの人間だと知って心底驚いていた。


 そして二人は握手を交わし、話は本題に入っていく。



「で、どのような依頼ですか?」


「今回、ピットマンさんに依頼したのは近々行われる麻薬の移送を行ってもらいたいというものです。そして我々はその売買を行っているグレゴリーを確保したい。そういう話なんです」


「なるほど。で、ロディは俺に何をして欲しいんだ?」



 その質問を、俺は待っていたんだ。



「エリカを、助けて欲しい……!」



 エリカ=シェリンガムは近所に住んでいるまだまだ小さな女の子だ。整えられた金髪と、碧い瞳がとても綺麗で、みんなの人気者。


 俺はエリカにとって近所に住んでいる優しいお兄さんってところだろうか。俺に懐いていたし、ご両親がいないときは俺が面倒を見てた。そのくらいには仲がいいと思う。


 俺がマイカーの整備をしていると、決まって彼女は近づいてきて俺の作業黙って見てる。一息つきたいと思って工具を置いた瞬間に、エリカは笑顔でこう言うんだ。



――お車直ったら、ローにぃと一緒にドライブしたいな。



 だけど、まだそのエリカの望みを俺は叶えられていない。いつも俺が「暇ができたらな」って言って先延ばしにしてたからだ。



 そしたらこれだよ。



 女が見せてきた写真に写っていたのは、13thサーティンスの奴らに捕まっているエリカの姿。


 やつらはきっと、これを材料にして俺に危ない仕事をやらせようとしてる。今回の麻薬を運ぶ仕事は、俺にさせるのが一番確実だと踏んだんだ。


 やっかい事は他人に押し付けて、自分たちは甘い汁を啜るとか、まるで映画の中の悪党のようだな。



 だから、そんな悪党には正義の鉄槌を。


 最近のナオシとフェルトの活躍は少しだが耳に入ってくる。フェルトは自身を剣の姿に変え、そしてそれを操るナオシは鬼神のごとく敵を倒すとか。


 俺にできるのは車の運転くらいだから、悔しいがエリカを直接奴らの手から助けてやることはできない。



 だからこそのナオシだ。


 頼んだぜ、俺の一番の親友さんよぉ!

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