第7話『美人さんと真夜中ドライブ』
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「あなたが、ここら辺のストリートレーサーたちを総なめにしているっていうロディ=ピットマン?」
俺の前に現れたのはスーツを着こなす黒髪の美女だった。
走り屋、ストリートレーサーたちが目覚める夜のクリオタウン。そこで俺はスポーツタイプの赤いセダン車に寄りかかりながら炭酸水を飲んで喉を潤わせていた。
ゴフ……とゲップをして、俺はその美女さんに返事を返す。
「そうだけど、アンタは?」
「私はダイナ=オコナー。ちょっとあなたに依頼がしたくてね。報酬は弾むわ。どう? 話を聞いてみない?」
あまりにも胡散臭い。依頼だか何だか知らないけど、こんな美人さんをわざわざ差し向けるあたり狙っているとしか思えない。女に誘惑されて、ホイホイついていったらそこは悪い奴らの巣窟で、人としての道を外れさせるような――例えば人殺しとかやらされるに違いない。
突然の依頼、美人の仲介人、高報酬――話を聞いてはいけない三連コンボで俺の答えはもう決まったようなものだ。
「興味ないね、他を当たりなよ。俺ほどじゃなくても、腕の良いドライバーなんてそこら中に転がってる」
確かにここら辺では俺に敵う走り屋はいない。幾人も俺に挑戦しては敗れ、また挑戦しては敗れ、気が付けばトップレーサーに君臨していた。
だけど、変な仕事をさせたいのなら、わざわざ俺じゃなくても手ごろな奴はいくらでもいる。金が欲しいような奴に頼めば二つ返事で依頼を受けるだろうさ。
「いえ、アナタでなければダメなのよ」
その女はグイッと体を寄せて、耳元に口を近づける。
「ちょっと人の命が危なくて、助けてほしいの」
はぁ? 人の命が危ないから俺に助けを求める……? 意味分かんねぇよ。
胡散臭さが増し過ぎて鼻を摘みたくなるレベルだ。
「そんなに疑わなくてもいいじゃない。そうね、これを見ればアナタは動かざるを得ないはずよ」
彼女が取り出したのは写真だった。
目を凝らしてよく見てみると……そこに映っていたのは――。
「……ッ!?」
「ようやく事態を把握できたようね」
「……ちょっとドライブでもどうだい、お姉さん」
「えぇ、いいわよ。でも過激なのは止してね。静かな夜のドライブといきましょ」
そして俺はその女を車に乗せて、夜の街を走り出す。
ストリートレーサーが集まる場所から離れ、あまり交通量がない場所へ――っていっても向かっているのはナオシの野郎の仕事場。
なんだか最近、新しい仕事を始めたとかなんとか。あいつの事務所ならどんな話だってしても大丈夫だろ。もしかしたら、ナオシの協力も仰げるかもしれない。
「じゃあ改めて自己紹介するわ。私は
助手席に乗っているオコナーとかいう女は、身分を証明する手帳を見せながら言った。
「ILA!? マジかよ……」
「ええ、本気よ。早速だけど詳しい話に入るわね。アナタ、
それなら知ってる。
このストリートレースの世界にいれば嫌でも話は聞くくらい大きな組織だからな。
「クリオタウンの郊外を拠点としてるストリートレーサーのチームだよな? 何でもあまりよろしくない事も手を付けてるとかなんとか」
「そう。その
「……何の」
「ある荷物をドゥームタウンまで届けて欲しいとか。でも、その荷物を抱えたままドゥームタウンまで行く自信なんてない。なぜだと思う?」
ここクリオタウンからドゥームタウンまではだいたい六〇〇キロメートルくらいはある。
結構な距離だが、普通に車で走るなら一日かければ何の問題もなく着くような距離でしかない。だけど、運転技術があるような奴をわざわざ募集するくらいなんだから、きっとそれは時間指定だとか、警察が出てくるヤバい仕事に違いない。
「荷物って……なんだ? 薬か?」
「お察しの通り、積み荷は麻薬」
「その運び屋をやって欲しいのか?」
「ホント、察しが良くて助かるわ。アナタには
「なるほど。俺の車を追跡しながら、そのグレゴリーって奴が現れる場所を見つけ出して身柄を確保したいと」
「その通りよ。どう? やってくれる?」
その問いに、俺はすぐには答えなかった。
確かにこの女が見せてきた写真。それを見ちまったからには俺が動かないわけにはいかない。だけど、まずは下準備を整える。それからでも返答は遅くはないだろう。
「一回降りるぞ」
「ここは?」
「信頼できる友達のところだ」
そうここはどこまでもバカで善人で、とっても頼りになる俺の親友ナオシ=サカイが営む何でも屋『ジェネシス』だ。
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