第37話 魔王様、国境付近の街に着く

小さな農村で多少食料を補充しつつ、南と思われる方向に進むこと一週間。

ようやく国境近くでそれなりの大きさの街に着いた。

町の名前はデリス。

国境の近いようで遠いので戦火に巻き込まれずそれなりに賑やかな街に見える。


「まずすることは?」


「宿探しだな、久しぶりにベットで寝たい」


「賛成!」


俺とカリュウはお互いの目を見てからうなづき合う。

途中の村でも休めるには休めたが、小さな農村ばかりで宿屋なんてない。貸してもらえたのは納屋。なんかこう言う世界を描いた小説で描かれていたが、まさか自分がそんな目にあうとは思っていなかった。

ただ、納屋で藁の布団という感じだが、それでも野宿よりはマシであり、ありがたかったのは間違いない。


「安いところがいいんだよね?」


「路銀の心配はないと言えばないけどな」


俺の懐に入ってる財布はかなりの重さで、そのほとんどはメェ子が背負っているカゴの中に入っている。

エルフ達からお礼にと食料以外に金品も貰ったからだ。ついでに、それなりの大きさの宝石も貰った。価値はわからないけど、換金できればそれなりのお金にはなるんじゃないかと思う。

というわけで、お金には今のところ困ってはいない。


「じゃあ、そこそこのところ探してみようか」


キョロキョロとしながら歩き出そうとしたカリュウだが、俺に手を引かれバランスを崩す。

当然怒った顔で睨んでくるが、原因は俺じゃない。


「ええっと、どうしたの?」


「タートがどこかいい宿屋を見つけたようだ」


「ど、どうやって?」


唖然としてるカリュウを見ずに、タートがこっちだといい歩き出した。

こうなってはついて行くしかない。

ジュリマスの時同様、自分好みの宿屋に向かっているのだろう。

向かう先は城壁沿いのあまり治安の良くない場所。

隣のカリュウがもう少しいところがあるんじゃない?と仕切りに言っているが、聞く耳を持たずタートはどんどんと進んでいく。

チラホラと柄の悪いのがいるようになってきた。


「ここだ」


タートに引っ張られたどり着いたのは、城壁沿いにしては小綺麗な宿屋兼酒場。

あくまで小綺麗なだけで、年季の入り方はかなりのもの。

カリュウが隣で唸っているが、タートが決めた以上逆らえはしないだろう。


「邪魔をするぞ」


宿決めのときだけは積極的なタートに引かれ中に入ると、中もそれなりに小綺麗に掃除されている感じがする。空きスペースには花瓶が置かれ、当然花も生けられている。窓につけられたカーテンも少し黄ばみはあるものの白といっても悪くない色。ただ、フリルがふんだんに使われているのだけは気になる。


「いらっしゃいませ〜」


タートの言葉に応えて出てきたのは小柄な女性。140センチメートル位だろうか、腰まである髪を首のあたりで一つに括り、頭の両脇には赤いリボンで結んでいる。さらに、着ている服もメイド服ではないが、フリルがふんだんに使われたゆるふわ系。城壁付近の酒場にいる雰囲気ではない。


「飯だ」


「お食事ですか?みなさんも?」


小首を傾げて聞いてくる少女は、タートを見て、次に俺とカリュウを見て聞いてくる。


「ああ、三人分だ」


「はい、わかりました。お好きな席へどうぞ」


困惑した顔から見事な営業スマイルを浮かべるとくるりと振り返りそのまま厨房駆けていく。

唖然としてる見ている俺とカリュウ。

タートはすでに席につき食事が待ち遠しいのか足をぶらつかせている。


「なんか、独特な人だったね」


「ああおうのは見慣れてないから困る」


「飯がう負けてばどうでもいい、気にすることじゃない」


「まあ、そうなんだと思いますけど…おいしいんでしょうか?」


「出てきてみなきゃわからん」


「そうですよねぇ…」


未だにタートに話す時は絵極力敬語というスタンスを崩さないカリュウは少し渋い顔をしている。

久しぶりに保存食ではない食事がどんなのか気になるのか。


「お待たせしました〜」


多分5分くらいだろうか。

お盆に三つの食器を乗せた少女は少し身長な足取りで戻ってきた。

ゆっくりとした動作でお盆をテーブルに置くと、俺たちの前に皿を置いて行く。

皿の中身は、白い液体。湯気があがっているので暖かいものだとわかるが、ぱっと見した感じはシチュー。

だけど、この世界にシチューなど存在するのだろうか?

スプーンですくって飲んでみると、とろみはなくほんとのスープ。味はすこす甘みがあるが、シチューというより白いスープが正解のようだ。

おいしいのかどうか判断がつかないが、タートとカリュウは美味しいのかガツガツと食べて、いや飲んでいる。


「おかわりだ」


「おかわり」


ほぼ同時に食べ終えた2人が皿を少女に突き出す。


「はい、おかわりですね」


少女はニコニコして皿を受け取りお盆に乗せると振り返り厨房に向かおうとするが、それをタートが呼び止める。


「後、何か肉をくれ」


「お肉ですか?」


「あ、あたしはパン!パンが欲しい!」


「パンですか?わかりました〜」


パタパタという効果音が似合いそうな感じで走り去る少女。いい加減名前を聞くべきだろうか?


「おいしいのか?」


「まあまあだな」


「それなりかな」


異口同音の答えに、なんでお変わりまでしてるのにこんな評価なんだろうと疑問に思う。

たしかに、この白いスープはお世辞にもおいしいとは言い難いけど、まずいというわけでもない。角切りというのか素材の形を生かした切り方と、同じようにサイコロ状に切られた肉。まあ、火が通ってるし食べれないことはない。


「お待たせしました〜」


戻ってきた少女は2人にスープの入った皿を渡すと、パンが山盛りになったバケットをテーブル中央に置いた。


「肉料理は少し待ってください。今準備してますので〜」


少女の言葉を聞くより早く、タートカリュウはパンに手を伸ばし凄まじい勢いで食べて行く。

タートは大食なのは知っていたが、カリュウまでとは。今までの旅生活で無理をしていたのか、元から食べるのか。

バケットのパンがほぼなくなり、タートは出てきた何かの肉を薄切りにして焼いたモノをもうすこしで食べ終えそうなところ。


「いかかでしたか?」


「うん、まあまあかなー」


椅子の上で体をに伸ばしながらカリュウが偉そうに言う。

タートは口いっぱいに肉を頬張っているので応えようとしているがうまくいっていない。


「美味しかったですよ」


「良かったです!」


「後、泊まるところも探してるんだけど、ここは泊まれる?」


「はい、泊まれますよ」


「では、お願いします」


「お部屋は何部屋にされます?」


小首を傾げた眉間に皺を寄せつつ、俺たち三人をみる少女。


「2部屋で」


「兄ちゃん、その割り振りってどう言う割り振りなの?」


「タートとカリュウが一緒の方がいいだろ?」


「いやいやいやいや、兄ちゃんとタート様が一緒の方がいいでしょ!」


「ん?どういう意味だ?」


「あの…それは…その方がいいかなと〜」


「一緒でいいだろ」


「できますか?」


「はい、少し大きめの部屋がありますので三人でも大丈夫ですよ〜」


複雑な顔をしているカリュウ放っておいて、まずは支払いが先だ。この世界に来てわかったことは、何事も基本前払いということ。少女に尋ねると、出した料理と部屋のことを計算しているのか中をみつつ指で数えている。


「明日の朝も食べられますよね?でしたら、一泊で銀貨4枚です」


ぼられているわけではないが安い額でもない。ただ、今日のこの2人の食べっぷりをみるとそれくらい請求したい気持ちにはなるだろう。


「もしかすると、一日ではなく何日か滞在するかもしれないんですが」


「でしたら、その都度お支払いいただければ大丈夫です」


「わかりました」


そう言いつつ、最後に名前は?と尋ねるとミイですと笑顔で答えて奥へと戻っていった。

今日は久しぶりにベットで寝られるから、今から動いて情報収集などしたくない。お腹もいっぱいだし、今日はもう休もうと決めた。

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