第34話 魔王様、体調不良になる
サキウスとユリアスの都市への出稼ぎ計画をタートに相談した結果は想定通りだった。
好きにすれば良い、とベットの上で寝ながら一言だけ言うと寝返りを打って俺に背を向けた。
想定通りといえば想定通りだが、となると2人の両親を説得するのは俺の仕事になる。
「まあ、兄ちゃんがなんとかするだけだよね」
他人事のように言ったカリュウは嬉しそうに笑っている。
言い返す気力も湧かないのでそのまま一階の2人に伝えると、2人とも難しい顔をしてしまった。
「それはどういうことなんですか?」
「まあ、好きにやればという感じかな」
「好きにやれば良いって…無責任な!」
俺の言葉にテーブルを両手で叩いて抗議をするユリアス。
気持ちはわからなくもないが、タートに色々してもらうのはあまり期待してはいけないのだけど。
「なんとか、魔王の言葉ということで俺が説得してみるけど」
「あんたでお父様が説得できる?」
「そては努力するつもりだけど、駄目な時はダメかもな」
「そんな〜…」
ガックリと肩を落として項垂れるサキウスに少し罪悪感が湧くが、俺のできる範囲程度しかできることはないのが現実。なにか言霊的な言葉を話す力があればいいけど、当然そんな力はない。
サキウスを慰めるユリアスに睨まれつつ、フーリンに旅立ちの準備も進捗具合を確認しにいく。
「あの2人が手伝ってくれたからほとんど終わってるよ。明日には出発なんでしょう?」
「ええ、早くあの2人を里に届けないと何が起きるかわからないので」
「色々大変だろうけど、あたしはあんたがなんとかするって信じてるよ。今回だってなんだかんだでやり遂げたわけだしね」
「俺がしたのは道筋を作ったというか…あんまり何もできてないという感じはあるんですけど」
「それでもあんたの行動が結果につながったんだから胸を張りなさい!誰にでもできることじゃないよ」
「ありがとうございます、できる範囲で頑張ってみます」
「本当に頼むよ、あの2人がいるとうちの売り上げ倍増どころじゃないんだから」
ゲスい笑いをしつつ厨房へと消えていったフーリン。
腹の中を明かすだけ良い人なのかもしれないなと思いつつ、2階の2人に出発は明日になることを報告にいく。
「でもさぁ〜、里まで行くと軽く一週間かかるわけじゃん。迎えにきてもらうとかできないの?」
椅子に座り頭の後ろで手を組みつつ不満を言うカリュウ。
「それはそうだけど、誰が出迎えを呼びに行くんだよ」
「そっか〜、誰かが行かなければならないんだよね〜」
「ならば、カリュウが行けば良いだろ」
ベットの上で起き上がったタートが、眠たそうな目をカリュウに向けながら言う。その次には喉が渇いたとこちらに手を差し出してきた。コップに水差しから水を入れて手渡すと一気に飲み干して空になったコップを返してくる。
「走っていくの?荷物持って走るのはな」
タートが本気で言ってるか判断できないながらも、少し焦っているのかカリュウが早口で反論してくる。
眠たそうな目をこすりつつ、擦った手を俺も方に向けてくる。と、俺の足元にリルリルが現れた。
「カリュウならリルリルに乗っても問題ない」
物言わぬリルリルだが、重量制限はあるのかもしれない。そんなリルりるを眺めていると、ふと気になることが。
「なんか、リルリル大きくなってないか?」
「そうなの?」
半信半疑なカリュウがリルリルに近寄ろうとして、ピタッと足を止める。
「うん、なんか大ききなってる」
「そうだよな」
前までならゴールデンレトリバーの成犬くらいの大きさだったが、今はその一回り大きいくらい。普通の犬の座り方をして、椅子に座った俺の顔と同じ高さにリルリルの顔があるのだからもしかすると一回りでは済まないかもしれない。
「リルリルも成長するのかもしれないな」
「そういうもんなのか?」
「でも、ほんと大きくなってる。あたしが乗っても大丈夫くらい」
「じゃあ、カリュウ、深淵の森まで出迎えを呼びにいくのは任せた」
「兄ちゃん、最近人使い荒いよ」
カリュウはブーブーと文句を言いつつ、数少ない私物をまとつつ準備にかかる。
タートはなにやらリルリルの頭を撫でつつ、お互い何か言っているのかうなづきあっている。
「リルリルにはいくところは伝えた」
「タート様、ありがと。なんとか早く仕事を終えれるように頑張るよ」
フーリンからもらったと思われるリュックを背中に背負い、力ない笑いを浮かべながらカリュウがリルリルにまたがる。
「カリュウ、気をつけてな」
「はいはい、行ってきます!」
少しヤケクソ気味に言ったカリュウだったが、言い終えるより早くリルリル走り出した。
玄関ではなく窓から飛び出したリルリルの背中でカリュウが小さき悲鳴を上げた気がするが、一瞬で目視ができないくらいのところまで行ってしまったので確認のしようがない。
「じゃあ、明日の朝に俺たちも出発だな」
「わかった」
「起こしに来るから」
「うん」
少しだけ言葉が好きな目な気がするが、まだ疲れが取れていないのかもしれないのでそっとしておこうと決め部屋を出る。
明日から半分に短縮しても三日から四日の旅になる。
俺も早めに寝て英気を養わないと。
翌朝、フーリンの用意してくれた保存食をメェ子に積み込む。
昨日のリルリルではないが、メェ子も少し大きくなっているというか、毛が伸びたという感じがする。毛並みも良くなっているような気もするし、少し角も長くなっている気がする。もしかすると、統領のところで聞いたレベルアップ音はタートのレベルが上がった音なのかもしれない。
謎のレベルアップ音。
なんなのか早めに究明したいけど、なる時とならない時に差がよくわからないから困る。
「サキウスちゃん、ユリアスちゃん、絶対!絶対帰ってくるんだよ!」
「フーリンさん!私!私、絶対帰ってきます!」
荷造りをする俺の後ろで、サキウスとフーリンが今生の別れと言わんばかりに涙を流しながら抱き合っている。その傍では、2人に背を向けつつ目元の涙を払うユリアスの姿も。そんなユリアスと目が合い睨まれるまでが最近のユリアスとも一連の流れという感じだ。
「そろそろ行くぞ」
今生の別に水を差すようにタートが言う。
呆れたように鼻を鳴らしたタートが歩き出すが、よろけ転びそうになる。
ギリギリのところで助けたがタートが本調子ではないのがすぐにわかる。
「大丈夫か?出発を明日にして休むか?」
「気にするな、少しふらついただけだ」
いつもはしまっている杖をつきながら、俺の左手と手を繋ぎなんとかバランスを取るタート。
いつも以上に俺の手を掴む手に力が入っている。
「タート様、大丈夫ですか?私とも手を繋ぎますか?」
「いらん」
タートはサキウスの申し出を一言で断るとフラつきつつも歩き出す。
後ろで少しだけ残念そうにしているサキウスをユリアスが慰めているのを肩越しに見えた。
連邦の首都ジュリマスを離れて二日、タートの体調は悪くなる一方で、ついには歩けなくなりメェ子の背中に乗ることになった。
原因不明の体調不良にサキウスとユリアスが心配そうに介護するが、タートの調子が戻ることはなかった。
なぜか俺の手を握っていると少しだけ体調が良くなるらしく移動中も寝てる時もずっと繋いでいたが、現状維持がせいぜいで回復する見込みはなさそうだった。
全員がタートを心配する中、三日目の昼頃リルリルに跨ったカリュウが合流した。
リルリルも背中で酔ったのか、青い顔をしたカリュウがエルフの出迎えの場所に案内すると街道を逸れて南へ向かって歩き出した。
カリュウはカリュウで違う理由でふらついていたが、リルリルかメェ子の背中に乗るかどうか聞いたが即答で断ってきた。
よほどリルリルの背中の乗り心地が悪かったのだろう。
俺の右手と手を繋ぎたまにえづいているのを除けば、タートよりかは健康そうな感じだ。
「もう少し南の、街から離れた場所で待ってるよ」
街道を道なりに抜けばそこそこ大きな街があるが、エルフが極力人の街に近づかないように暮らしていることを考えるとわからないでもない合流場所だ。
あと少しだよと力なく言カリュウ。
後ろを歩くサキウスとユリアスが少しだけ落ち着きがなくなっているような気がする。
小さな丘を越えると、少し窪地にあったところに百人くらいのエルフの集団がいた。
「兄ちゃん、あそこだよ」
自分の仕事は終わったと言わんばかりに倒れ込みそうになるカリュウを片手でさせつつ、エルフの集団との合流を急ぐ。
エルフ側でもこちらに気付いたのか、誰かを呼ぶ声がしてりしてざわざわとし出している。
「お父様だ…」
後ろでボソッとユリアスが言う声が聞こえた。
いつもの元気がないのはわからないでもない。
「きちんと謝らないと…」
「そうだね…」
「レキリスの時は何も問題なかったから大丈夫じゃないかな?」
「深淵とうちは少し違うから」
「わたしのところは近いかも」
余計暗くなるユリアスと逆に元気が出てきたサキウス。
やはり里でも方針というかやり方というか、そういうもが違うのだろう。
「タート様!ハルトさん!」
深淵の里の里長レキオンが俺たちを出迎えるように前に出てきた。
「あたしも頑張ったんだけど…」
名前を呼んでもらえなかったカリュウが頬を膨らませているが、今はかける言葉が見当たらない。
「天命の泉と祈祷の丘の娘も一緒のようで」
どこか嬉しそうな、けど意地悪いような笑顔で言ったレキオンは、後ろに立ち2人の男を紹介してきた。
「こちらが天命の泉の里長サリウスと祈祷の丘の里長ユヌオンです」
「この度は娘を助けていただきなんとお礼を言って良いものやら」
「魔王であるタート様を煩わせてしまうとは…」
2人とも憔悴しているように見えるのは、どちらも可愛い娘が攫われていたからだろう。
何故か俺の後ろに隠れたままのサキウスとユリアス。
サキウスは何も言わないが、ユリアス早く言いなさいよと耳打ちしてくる。
もしかすると、一番やk使いな仕事を押し付けられたのは俺なのかもしれない。
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