第27話 魔王様、宿屋を決める

道中の村に寄りながら一週間かけてようやく連邦の首都ジュリマスに到着した。

人の多さは当然ガリンズ以上で、近づくにつれてタート嫌な顔をしていた。


「なぜ私がエルフのために…」


とても魔王様とは思えないような弱音を呟きつつ、人で溢れかえるジュリマス見ながら嫌そうなため息を漏らした。


「乗りかかった船とというか、まあ、成り行きだしは我慢してくれ」


「ハルトがそう言わなければ私はやめているところだ」


「タートには悪いと思うけど、エルフに恩を売っておけば何かと便利かもってさ」


「エルフに何ができるのか」


心底嫌そうに、人混みを避けれる方へと手を引っ張られる。いつもはこちらが引く側なので珍しいといえばそうだが、安宿を探すと言う目的がある以上あまり変なところへは行きたくない。


「タート…」


「安宿ならば人の多いところより、少ないところの方がある」


「え?そうなの?」


「城壁付近や汚れた地域、治安が悪い場所、どんな所だ」


安宿といえど宿の集まっているところに行けば、高い安いみたいな感じであるかと思ったけどそういうものではないのか、と驚きと共になぜタートが知っているか気になるところでもあった。


「馬珍しいな、タートに教えてもらうなんて」


「私を馬鹿にしているのか?多少なら人の街で暮らしはことはある」


「そう言う時もあったのか」


「ハルト、私を馬鹿にしているのか?」


そう言うつもりはなかったが、癇に障ったのか俺も手を握るタートの手に力が入る。


「そう言う意味じゃないよ、タートが自分のことを話すのが珍しいから」


「そうか?」


誤解が解けたのか手を握る力は弱くなった。今のタートならば、俺も手くらい軽く握り潰せるだろうから気をつけなければならない。そんなことをしないとは思っているけど。


「あそこが良さそうだ」


タートが指さした先にあったのは、少し寂れた酒場と一緒になった宿屋。大きさ的にはバンズの酒場と同じくらいだが、見た目は確実にこちらも方がボロい。


「大丈夫か?」


「カリュウが言った安宿ならこんなところだ」


足を止めずそのまま中に入るタートに引っ張られる。

中は少し古いというか趣があると言うかそんな感じで汚いと言う感じはしない。むしろ、外見に比べて綺麗に掃除され手入れされている感じがする。


「ガキが来るところじゃないよ」


バーカウンターの奥に座った女性がパイプを咥えながら言って来た。

自分の仕事はここまでと言わんばかりに立ち止まったタートに代わり、俺が一歩前に出る。


「すみません、宿を探していて」


「宿?あんた達が?」


怪訝な顔で言った女性は、俺とタートを上から下まで何度も見てると口から煙を吐き出しながら言う。


「ガキどもが遊びに来るところじゃないよ。帰りな」


パイプを持って手を出ていけと言わんばかりに振り、どこかぼんやりと窓から外を見ている。

そこまで言われたら帰るべきだと思ったが、タートがガンとして動かない。こう言う時の頑固さはどこから来ているのか本当に気になる。


「あの、お金ならあるんです。連れがどうしても泊まりたいらしいので…」


「…」


顔を動かさないで目だけでこちらを睨みように見て来た女性は、また口から煙を吐き出した。


「聞き分けのないガキどもだね、なら、金貨一枚、それで泊めてやるよ」


そんな金はないだろうと嘲るような笑いと共に言った女性は、もう一度手を振りさっさと出ていけというオーラを出している。

正直金貨一枚くらいならある。けど、ここまで断られたのに無理に泊まる理由があるのだろうか?他のいい宿がある気がするのだが…


「ハルト、払えるか?」


泊まる気満々のタートが尋ねてきた。


「あるけど、ここに泊まらなきゃない理由でもあるのか?」


女性に聞こえないようにタートの耳元で言うと、こちらの言っていることがわからないのか酒場の中をぐるりと見回してからこちらを見てくる。


「ない、だがここだと私の勘が言っている」


「そんな根拠もなしに…」


なんにせよ、袋の中に入っているお金はタートが稼いだようなもの。稼ぎ主が払えと言ってる以上払うしかないだろう。

カウンターに頬杖つきながら明後日の方向を向いている女性の前に金貨を差し出す。興味なさそうにこちらを見た女性は、フンと鼻で笑った後驚いた顔をしてもう一度金貨を見る。


「あ…あんた達、ほんきかい?」


「彼女がどうしてもと言うので」


「物好きもいたもんだ、こんな宿にね」


言いながら俺の掌に乗った金貨を取りマジマジと見た女性は、指で金貨を弾き空中でキャッチした。


「あたしはフーリンだ、まあこんな宿をやってるがそろそろ潮時だと思ってたんだ。あんた達が最後の客だ。好きに使ってくれ」


「俺はハルト、彼女はタートです。よろしくお願いします」


「はいはい、好きにやっとくれ」


そう言うと、フーリンは金貨をいろんな角度から眺めてはため息をついている。


「飯だ、飯をくれ」


いつの間にかカウンターの椅子に座っていたタートはフーリンに要求した。


「食事かい?適当に作ったのがあるけど、それでいいなら出したげるよ」


「構わん」


億劫そうに立ち上がったフーリンは、腕まくりをしながら奥へと消えていく。


「本当にここで大丈夫なのか?」


「そうだ、ここからいい匂いがした」


自信満々に言った後、タートのお腹がぐぅぅ〜となる。

最近はお金があっても食料が買えないことがあり、多少節制していたのが原因かもしれない。

こっちではお金があっても在庫がないと言うことは普通にありえるので今後気をつけないければ。


「今出せるのはこれくらいだよ」


深めの皿に守られていたのは、角煮みたいなサイズの肉の塊と何かのスープ。何やらスパイシーな香りがするが何で味付けされているかわからない。

何も言わずに出されたフォークで食べ始めるタート。

肉は見た目通り角煮のように煮込まれているようで、フォークで着ることにできそうなほどの柔らかさ。その肉をタートはフォークで突き刺しながら食べている。器用に落とさずにだ。


「よく食べるわね」


「育ち盛りなもので…」


「まだあるから好きなだけ食べさせてあげるよ」


フーリンはニヤッと笑って言った時、隣から空になった皿が突き出される。


「おかわりだ」


「もう食べたの?」


驚きながら皿を受け取ったフーリンは、皿を持ったまま奥へ行くとすぐに皿一杯に肉を乗せて戻ってきた。

そんなことを繰り返すこと10回、ようやくタートは満腹になったようで手に持っていたフォークをカウンターに置いた。


「よく食べたわね、もう少しでなくなるところだったわ」


「うまかった」


あくびをしながらタートが言う。

満腹になったら今度は眠気が襲ってきたのかもしれない。もう一度あくびをしたタートは、瞼も下がり始めている気がする。


「食べたら眠くなってきたのかい?部屋は二階だから、好きに使ってちょうだい」


皿を手に持ちながら言ったフーリンは、そのまま奥へと消えて行った。

すでにお眠モードのタートは自分で動く気はないようだ。仕方なき抱っこをして二階の部屋へと連れて行く。

食べ終わった後だからかもしれないが、少し重くなってきている気がする。それに気づかなかったが一回りほど大きくなっている気もする。決して太ったとかではなき、普通に成長した感じだ。

なんとなく嬉しさが込み上げてくるのは親心があるせいだろうか。

階段を登り、一番近い部屋に入る。

部屋の中は小綺麗に片付けられていてベットが二つあった。

一つにタートを寝かせ布団をかけてやる。

すでに寝息を立てているタート。

明日からはカリュウの帰りを待ちつつ、何か手がかりを探さなければならない。

そう思うと俺も眠くなってきた。

野宿が続いていて布団が恋しくなってきていたし、タートが寝たことだし今日は休もうと決めてベットに横になった。

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