第25話 魔王様、くつろぐ

「改めて、娘を助けていただき心から感謝いたします」


レキオンの家に案内されて通されたのは応接スペースなのか、それなりの広さにフカフカの毛皮のソファーがある部屋だった。

タートとカリュウはふかふか感が気に入ったのか、気持ちよさそうに目を閉じている。


「いえ、レキリスさんを助けたのは本当に偶然で」


「その偶然をお聞きしたいのですが」


「はい、わかりました」


レキオンに求められるままに、俺が攫われ助けた際にレキリスをついでに助けた話をする。


「では、その時娘は一人だったのですね?」


「ええ、助けた時には一人でした」


「娘と一緒に拐われた里の娘がいるのですが」


「俺たちが見つけたのはレキリスさんだけで」


「おかしいですね」


腕を組み難しい顔をするレキオン。少し悩んだ後にここだけに話だが、と続けた。


「レキリスと一緒に拐われた娘の家族がその後にいなくなっているのです」


「いなくなった?里の方なんですよね?」


「それが、拐われる少し前に違う里から逃げてきた家族だったのです」


里から里に逃げると言うことが普通にあるのかどうなのかわからないが、その家族が何か知っている可能性は少なくない。


「何か言い残したり、そう言うのはなんですか?」


「世話になった者に 娘を探しに行くと言い残して入るそうなのですが」


「後、里同士で何か確認とかできないのですか?」


「残念ながら里同士あまり仲が良くないのです。交流は個人レベルでそれ以上は」


陰謀論、偶然説や色々考えられるが、深淵の森だけでは判断がつかない。ましてや、いなくなった家族が何者だったのかも気になる。


「お父様、こちらですか?」


レキオンが返事をするより早くレキリスが部屋に入って来る。着替えてきたのか純白のワンピースのような服に過度にならない範囲での貴金属を身につけている。


「セキュさんは大丈夫でしたか?」


「ええ、少し衰弱していますが、少し休めば大丈夫だろうと」


レキオンの隣に座ったレキリスは、ふぅと息をついてかた頭を下げてきた。


「道中の数々の無礼と助けていただいた御恩、わたくしは忘れません。セキュも助かりました。わたくしは、タート様のお望みであればできる範囲でお答えします」


「レキリス…」


隣に座るレキオンが驚くほど、レキリスは丁寧な言葉で言った。あくまでタートにだけというのは気になるが。


「色々あったのだな。わたしの娘がそう言うのだ、わたしもできる限りに手助けをしよう」


「お言葉は嬉しいのですが、現状困っているのは食料くらいで」


「わかりました。出発までに用意させましょう。それと今日はここでお休みください。タート様やお連れの方はもう休まれているようですので」


そう言われて両脇を見ると、タートもカリュウも寝息を立てていた。疲れとふかふかなソファーにやられたのだろうけど、話の途中に寝ないで欲しいなとは思う。


「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」


「では、わたし達は色々準備がありますので失礼させていただきます」


そう言い、レキオンとレキリスは頭を下げ部屋を出ていった。

あまり歓迎されないかなと思っていたけど、レキリスがいたおかげで悪い扱いはされなかったようだ。

二人が部屋を出て行ったら急に眠気が襲いかかってきた。どうやら、俺もふかふかなソファーにやられたようだ。

ガリンズの街以来の柔らかい寝床には勝てそうになかった。





「タート様、起きていらっしゃいますか?」


今日の目覚ましは扉を叩く音だった。

声の主がレキオンだと言うにはわかるが、窓の外はようやく明るくなりかけているところ。エルフの朝は早いのかもしれない。


「レキオンさん、なにかありましたか?」


俺の返事で部屋の中に入ってきたレキオンは、少し困惑しているような顔をしていた。


「昨日、ハルトさんに言われた件を確認していたのですが、いなくなった家族が来る前に別な家族が違う里へ出て行ったようなのです」


「順番的には、別な里に行った家族がいて、その後にレキリスと一緒に拐われた娘の家族がきたと言うことですか?」


「ええ、そうです。先に出て行った家族がどこに行ったかはわかりませんが、調べてみる必要があると思い昨日のうちに二つの里へ使いのものを出しました」


話がややこしくなってきている気がする。

もし、先に出て行った家族の目的がレキリス誘拐に絡んだ家族と同じだとすると、別な里でも同じことが起きてる可能性がある。

そうなると…


「ハルトさん、なにかわかりますか?」


「邪推の範囲を出ませんが、出て行った家族が別な里でレキリスと同じような立場の人を攫う手伝いをしている可能性があります」


「そんな!では、レキリスと同じように拐われた者がもう一人いるかもしれないと」


「確かエルフの里は三つあると聞いたのですが?」


「ええ、大きな里は三つあります」


「となると、レキリスさんを入れて三人が拐われた可能性があります」


「全てに里で同じようなことが?」


嘱託なんとかと言うやつだった気がする。他人にお願いをして、何かをしてもらうのを。俺の予想が正しければ…


「憶測推測の域をでませんが、深淵の森に恨みがある者が隣の里に恨みを持つ者に依頼されてレキリスにような立場の人を攫う手伝いをする。隣の里の者はまた別な里に行き、同じように攫う手伝いをする。最後に別な里の者が深淵の森でレキリスさんを攫う手伝いをするというか感じに、全く関係のない人達が同じ目的のもとに動いた可能性があるんです」


「そんなことが…」


「俺も信じられませんが、移住する人はそんなに多くないんじゃないですか?」


「ええ、年に一家族いるかどうかです」


「そんな珍しいのに、短い期間で二家族が動いているのはおかしくありませんか?」


俺の言葉に腕を組んで考え込んでしまったレキオン。

隣では目を覚ましらしいカリュウが難しい話の最中なのを察してなのか、薄目を開けつつこちらを見て来ていた。


「朝からうるさい奴らだな」


カリュウとは違い、タートは目を覚ますと不機嫌そうにこちらを見ながら言う。

何も俺が原因でうるさくしていたわけでもないんだけど。


「申し訳ありません、タート様」


面倒くさそうな視線をレキオンに向けてから、タートは目を擦る。


「ハルト、腹が減ったぞ」


「朝食がまだでしたね、すぐに用意をさせます」


考えていたレキオンが、ぱっと立ち上がり部屋を出ていく。思考を止めるいいタイミングだったようだ。


「面倒なことになっているのか?」


「みたいだな」


「危なくないならいいけど」


話に加わって来たカリュウは、俺の膝の上に頭を乗せて見上げて来る。


「俺の予想通りなら…危なくなるかもしれないけど、誰が糸を引いてるか次第かな」


「どうするかはハルトに任せる」


大きなあくびをしながら言ったタートは、もう一度目を閉じてソファーに深く寄りかかた。


「糸を引いてるもがだれか予想はつくの?」


「つくわけないだろ」


「そうだよね〜」


「けど、こんな面倒なことをするのはそれなりに権力とかを持った人だろうな」


「それって絶対面倒くさいじゃん」


「間違いなくな」


嫌そうな顔をしたカリュウは、俺の膝を枕にしてもう一眠りするつもりなのか目を閉じて横向きになった。


「ハルト、私がなんとかできる範囲でなんとかしろよ」


タートが俺に寄りかかりながら言う。

願わくば魔王様がなんともできないことは起きてほしくないけど。


「お待たせしました、今朝食をお持ちしますので」


レキオンが戻ると共に室内にハーブのいい匂いが充満する。

寝ていたタートは目を見開くとテーブルに並べられた何かのモモ肉を早速食べている。

カリュウも起き出し、あたしもおかな空いてたんだよね、と言いながらパンのような円盤状の焼かれた物を食べ始めた。


「今里の者達で会議をしているのですが、他の里に出した使いが戻らなければ話が先に進みそうにありません。出来てば、タート様方には使いが戻るまで里にいていただけませんか?」


俺が決めていいのか分からないので、タートを見るが話を聞いてすらいないのかもも肉を食べ続けている。カリュウは円盤状のパンのような物にジャムらしき物をつけて食べながら至福の時と言わんばかりに笑顔で食べている。


「行く当てがあるわけでもないので、食事さえ出していただければ」


「それはもう!娘の恩人でもありますし、今回のことももしお願いできれば助かりますので」


やはりそう来るよな、と思いながら、俺も朝食を食べることにした。

早く食べないと二人に食べ尽くされそうでもあったから。

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