第22話 魔王様、エルフに出会う

「エルフなのか?」


「兄ちゃん、そうだよ…」


さっきまでの元気さがどこに行ったのか、カリュウは俺の影に隠れて小さな声で言った。


「地下牢に閉じ込められていた。あいつらの売り物だったんだろう」


「エルフ売り物?」


「酒場で聞かなかったか?こういうのを好む奴らがいると」


そうだ、トースが金持ちの遊びでエルフを、という話をしていたのを思い出す。

あの野盗達がエルフを捕まえてきて、ここで取引かどこかに連れていくということなのだろうか?


「あいつらはエルフを捕まえることはできないと思う。たぶん、ここは途中なんじゃないかな?」


「てことは、あいつらの売り物じゃなく預かっているかもってことか?」


「だと思う」


「ハルト、どうする?」


タートがいつも通り聞いて来るが答えが出しづらい。

野盗達を追い詰めるにはエルフ達を救い出すのが一番だが、その後どうするか?どう隠そうがエルフ達は目立ちすぎる。


「置いてくわけにはいかないよな?」


「兄ちゃん!なんとかしてあげれないの?」


カリュウが潤んだ目でこちらを見て来る。

タートもエルフと俺の顔を交互に見つつ、困った顔をしている。


「助けると言っても、どこに連れていけばいいんだ?ガリンズの街か?」


「エルフの村じゃダメ?」


「エルフの村なんてのがあるのか?」


「それは…エルフだって村くらいあるよ」


呆れた顔でこちらを見つつカリュウが言う。

エルフが存在するのは知っていたし、いるなら人と同じように村だとか街があるとは思っていたけど。


「一人なら、連れて歩いても問題ないか…」


「ほんと?」


パッと顔を輝かせてカリュウがこちらを見て来る。エルフは、多分普通くらいに食べるのであれば食料問題も起きないだろうし。

いまだ寝ているのか、意識を失っているのか分からないエルフ。

連れていくとなると、自分で歩いてもらうか、メェ子かリルリルに担いでもらうか。


「このエルフ、良くこんな状況で寝てられるよな」


「さっき、敵かと思って殴ってしまった」


タートが困った顔をしていた理由はそう言うことか。

本気ではなかったかもしれないが、それでも今のタートにあの杖で殴られたら相当痛いだろう。いや、痛いで済むだろうか?


「てことは、当分起きないかもしれないな。メェ子かリルリルに担いで貰うか?」


「わかった」


タートがメェ子かリルリルを呼び出している間、昏倒しているエルフを近づいてみる。本当に綺麗の一言しか出てこないくらい整った顔、陽の光にしたで輝くであろう金髪、スレンダーだが手や足が長くモデル体型。非の打ち所がないというのはこう言うことなのだろうか。

起きないだろうと顔を覗き込もうとした時、後ろから引っ張られた。


「兄ちゃん、何やってるの?」


「いや、綺麗だなと思って」


「そういうのは思ってても口にするべきじゃないと思うけど」


少し怒ったように言うカリュウ、その後ろではタートも怖い顔でこちらを見てきていた。


「他意はないけど…あっちじゃこう言う人に会ったことないからさ」


言い訳じみたことを言ってるなと思いながら、もう一度エルフを見ると、突然目が開く。見つめ合う形になった瞬間、悲鳴と共に突き飛ばされた。


「兄ちゃん!重い!」


「ごめん、カリュウ、大丈夫か?」


突き飛ばされた時、後ろにいたカリュウを巻き込んでしまったようでお尻の辺りを手で撫でつつ抗議の声をあげている。

突き飛ばしたエルフは、部屋の隅まで逃げてこちらを睨みつけている。なぜか今日は睨まれる日だな…


「あの、危害を加えるつもりはないよ」


「黙りない!汚らわしい!」


俺の言葉を拒絶するように言ってきたエルフは、より一層こちらを睨み目を細くした。


「あのぉ〜、兄ちゃんはあなたを助けたのです。悪い人ではないです」


「今度はハーフエルフ!汚らわしい!」


「うるさい奴だな、ここに置いていくか?」


不快そうな顔でエルフを見つつ言ったタート。

その意見に賛成してもいいかもしれないと思った時、エルフはタートを見て眉間に皺を寄せた。


「あなたは何者ですか?この二人とは違うような…」


「彼女はタート、魔王様だよ」


「魔王様?ほんとうですか!」


俺やカリュウに見せた反応とは全く正反対に反応を見せたエルフは、走ってタートのもとに行くと土下座、というか平伏というかをした。


「魔王様、私は囚われの身、どうかお助けください!」


今までの言葉が嘘のような言葉が出てきて驚いた。というか、エルフは魔王側の種族ということなのだろうか?

そうであれば、タートに助けを求めるのは至極普通のことに思えるが。


「兄ちゃん!」


魔王とエルフの関係について考えていたら、またカリュウに服に裾を引っ張られた。


「どうかした?」


「タート様が困ってる」


「タートが?」


タートの服に縋り付き懇願しているエルフ。

それを鬱陶しそうに振り払おうとしているタート。

タートの困った顔はなかなか見れないよな、とか思っていたら、カリュウから白い目で見られていた。


「俺がタートの配下だといえば納得して話してくれるかな?」


「あたしがはなすよりは、兄ちゃんが話す方がいいと思う」


「俺もあのエルフ苦手なんだけどな…」


縋り付く振り払うを繰り返しているタートとエルフ。

ため息をつきつつ、タートとエルフの間に割って入る。


「何をするのですか!」


「悪いけど、ご主人様が困っているのは見過ごせないからな」


「ご主人様?魔王様がこんなにんげんを?」


「ハルトは私の配下だ、悪く言うことは許さない」


「ちなみにあたしは二番目の配下だけど」


「ハーフエルフが?よろしいのですか?こんな者たちで!」


「配下は私が決める。お前が文句を言うことじゃない」


タートに言われ、エルフは難しい顔をして考え込んでしまった。

エルフ的にタートに立ち位置というか扱いはどんな感じなのだろうか?

おいおい聞ければと思うけど、今はここをそれなりに早く引き上げたいところ。


「どうします?あなたは自由になったのでどこにでも行けます。エルフの里に帰るのも」


「わたくしに一人で歩いて帰れというのですか?」


俺を睨みつつ言ったエルフは、立ち上がり腕を組んで見下ろしてきた。


「魔王様の配下なら、わたくしを里まで送り届けなさい。それが魔王様の配下としての義務ではなくて?」


えぇぇぇぇ、なんでそうなるの?

というか、俺に対しては高飛車キャラになるのは勘弁してほしい。

さらに、魔王の配下の義務がなぜエルフを送り届けることなのか?それがいまいちわからない。


「送り届けるのはいいけど」


「なら、わたくしを乗せる輿はどこに?」


「ハルト、もう行こう」


「魔王様、わたくしにご慈悲を!」


俺には高飛車、タートには平身低頭なエルフ。もう何だかわからなくなってきた。


「あの?送り届けるにしてもどこに行けばいいかわからないと困るのですが…」


相変わらず俺の影に隠れつつカリュウが言うと、エルフはまた腕を組みこちらを見下ろしつつ、


「わたくしは深淵の森の里、里長モサオンの娘レキリス。あなた如きハーフエルフが話しかけていい相手ではないと知りなさい!」


里長の娘ということはお嬢様ということなのかもしれない。

後ろに隠れているカリュウが服の裾をぐいぐいと引っ張る。文句を言おうと振り返るとグイッと体ごと引っ張られ耳元で小さな声で話してきた。


「深淵の森はエルフの里の中でも一二を争う大きな里だよ。そこの里長の娘だから…面倒かも」


結論は面倒なのか。カリュウにありがとうと小さい声で言ってから、どう話を進めるべきか悩む。

未だにレキリスはタートに縋ろうとしては振り払われるを繰り返している。そろそろタートが本気で殴らないか心配になって来る。


「レキリスさん、里がどこにあるかわかりませんが、なんとかして送り届けますのでここを出ませんか?」


「仕方ないわね、タート様の配下の言葉だから聞いてあげるわ」


俺が話しかけた隙にタートがこちらに逃げて来る。

カリュウも俺の後ろに隠れているにで、完全に俺が矢面に立たされてる状況だ。高飛車な女性は苦手なのに…


「ついてきてください、案内します」


「はやくなさい、わたくしは早くここから出たいの」


ならさっさと話を聞いてくれよと心の中で思いながら入り口に向かう。

すでに金目の物の確保は済んでいるし、これからはレキリスを送り届けるために東に進むだけ。

願わくばレキリスが大食漢でないことを祈るばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る