第18話 魔王様、ハーフエルフと出会う

ガリンズの街がようやく見えてきた。

食料は底を尽きていた。

なんとかタートだけはひもじい思いをさせずに済んでいるが、俺はこの三日間で数キロは痩せたと思う。


「やっと着いたか」


退屈そうに欠伸をしながら言ったタート。


「そうだな、まずは食料を仕入れないとな」


「金は大丈夫なのか?」


「大丈夫も何も、今までお金は使ってないからね」


「なら問題ないな、ハルト、腹が減ったぞ」


もうボケ老人か何かの勢いで食事要求をされている気がする。


「中に入れば何かしらあるから」


そう言うと、少しだけタートの歩く速度が上がった気がする。そこまでお腹が空いていると言うことなのかもしれない。

俺自身も腹は減っているにでできれば急ぎたいところ。


ガリンズに街が見えてから2時間ほど入り口と思われる門に到着した。

門番が数名立っているが、とくに検査等もなく入れそうだ。止められたとしても、俺とタート、メェ子を見て疑う人はいないだろう。

中に入ると、ちょうど何かイベント中なのか入ってすぐの通りは人で埋め尽くされていた。


「人が多いな」


「そうだな、この人の多さは俺も嫌だな」


「別な道を行くか?」


「メインの通りじゃないところに行けばなんとかなるかな」


人の多さに驚きと嫌気がさしたので、真っ直ぐではなく左に外壁沿いを行くことにした。

このがりんずの街はそれなりの大きさで、街の周りを2〜3mほどの壁で囲われている。城塞都市というべきなのかもしれない。

要衝の地なのか、昔からあるだけなのかわからないが、雰囲気的に何かに備えてるような感じはしない。


「ここ辺りならいいかな」


門正面の通りから2本移動した通りは人通りがないわけではないが、比較的人が少なく静かな雰囲気だった。


「ハルト、腹が減った」


「わかったよ、どこか食べれるところを探すか」


と言いつつ通りに入ったはいいけど、どこに何があるのかさっぱり。

この通りはハズレだったかもしれないと思いかけたところで喧嘩らしき声が聞こえてきた。


「てめぇ、また偽物掴ませる気か!」


「違う!前も本物だし、今回も本物だ!」


「ふざけたこと言ってると警吏に突き出すぞ!」


男たちと、少年?少女?どちらとも判断がつかない子供が喧嘩をしているようだ。

聞こえてくる限り、子供の方が何かしたのだろうという感じ。


「ハルト、どうする?」


「あの子には申し訳ないけど、なんでもかんでも首を突っ込みわけにはいかないよ。それに、大人達は警吏に突き出すと言ってるからさ」


「わかった。が、あいつはたぶんハーフエルフだな」


「ハーフエルフ?」


俺が聞き返すとそんなことも知らないのか?という感じでタートが説明してくれた。

ハーフエルフとは、エルフと人間の混血で、人の社会にもエルフの社会にも居場所がほとんどないと。

なんとなくファンタジーで読むハーフエルフはもう少し人権があった気がするが、ここではあまりいい扱いがされていないようだ。

そのことを尋ねるとタートは、よくわからん、と返事が返ってきた。

ハーフエルフの存在は知っていても成り立ちまではという感じだ。


「頼むよ!これを買ってもらえなきゃ帰れないんだ!」


悲壮な叫びをあげるハーフエルフの子供。

だが、大人たちはもう相手をしていないのか誰一人返事を返さない。


「何を売ってるかわからないけど聞くだけ聞いてみる?」


「私はどうでもいい、ハルトが決めればいい」


タートは興味なさそうに答えてきた。

どうするべきか?お金はあるが有限だし、変な物を買わされても困る。重かったらメェ子に何をされるかわからないし。


「俺たちがどうこうする問題じゃないか」


「それがいいと思う、ハーフエルフにはあまり近づかない方がいい」


タート的にもハーフエルフにはいい印象を持っていなさそうだ。なら、余計関わってタートの機嫌を損ねるのは得策ではない。

今は食事できる場所を探すのが先決かもしれない。


「頼むから!頼むから、買ってくれよ!」


「うるせぇ!いい加減にしろ!」


食い下がるハーフエルフに痺れを切らしたのか、一人の男がハーフエルフの胸ぐらを掴みとこちらに向かって放り投げてきた。

こちらに飛んでくるハーフエルフを見ていたら、繋いでいた手をタートに引っ張られた。

次の瞬間、さっきまで俺のいた場所にハーフエルフが飛んできた。


「いてぇな!なにすんだ!」


投げ飛ばされたというのに威勢よく叫んだハーフエルフだったが、男たちは何も聞こえないかのように仕事をしている。


「大丈夫か?」


「こんなのなんともないけど」


服についた土を払いつつ立ち上がったハーフエルフの…どうやら少女と思われる子供は、擦りむいた腕や足を見つつ言った。

一枚の布に頭が通るだけの穴を開け、はだけないように紐で紐で縛っただけの服。これが普通なのか、それとも貧しい暮らしをしているのか。


「なんだよ?」


ジロジロ見ていたのがわかったのか、ハーフエルフの少女はこちらを睨みつけたが、次の瞬間パッと顔を輝かせると、


「兄ちゃん、あたしのこと見てただろ?どう?」


「どうとは?」


「そういう趣味なんだろ?ツレもそういうのだし」


ニヤニヤ笑いながらハーフエルフの少女は近づいてくるが、手が触れそうな距離まで来たところでタートが俺も前に立ち少女を止める。


「それ以上近づくな」


「なんだよ!あたしはこの兄ちゃんに話があるんだ」


一種即発、そんな雰囲気がタートとハーフエルフの少女の間で巻き起こっている。

ハーフエルフの少女が何を言いたいのかよくわからないが、とにかくタートには気に入らなかったのだろう。


「どこにいるんだ?」


「あっちだよ」


後ろでまた男たちの声が聞こえる。

振り返ると、さっきの男たちとは違う、木の棒と鉄製のヘルム、胸当てなどをつけた男が二人こちらに向かってくる。多分呼ばれた警吏かもしれない。


「やば!」


俺越しに警吏の姿を見たハーフエルフの少女は、脱兎にように凄まじい速さで走り去っていった。


「またか…お前ら、あいつの仲間か?」


ハーフエルフの少女に逃げられた警吏がこちらに向かってきつつ聞いてきた。


「いえ、今日初めて会いました」


「ほんとか?少し話を聞きたいんだが」


この流れはまずい、タートの身体検査をされたらどうなるかわからない。それに、タート警吏の言うことを黙って聞くかという問題もある。

逃げるわけにもいかず、捕まるわけにもいかない。どうしようもない状況…


「おいおい、警吏さんよ。旅人を虐めなさんな」


肩を叩かれ振り返ると髭面の大男がニコッと笑っていた。


「二人はうちの客なんだ。いいよな?」


「あんたの所の客か、次からは気をつけるように言っておいてくれ」


「今日着いたばかりだから何も知らないんだ。許してやってくれ、次来た時に奢ってやるからよ」


男はそう言うと、警吏達はきちんと奢れよ、と言い立ち去っていった。


「トラブルに巻き込まれるかもしれないと思っていたがいきなりか」


「あの、ありがとうございました」


「いや、いいんだ。俺の親戚が世話になったのはあんた達だろ?手紙が届いたから気をつけてはいたんだ」


「親戚?」


「ああ、タナモ村で酒場の主人が俺の親戚だ」


よく見ると似てなくもない。たぶん、酒場の主人が気を利かせてくれたのだろう。


「これ以上トラブルに巻き込まれると困るからさっさと俺の酒場に行こう」


「はい、よろしくお願いします」


「飯はあるか?」


「ああ、用意してある」


「ハルト、早く行くぞ」


俺の手を引いて歩き出したタートの腹が鳴ったのを俺は聞き逃さなかった。

なんにせよ、食事をする場所と目的地だった酒場にたどり着けるのはよかった。

酒場についてからゆっくりハーフエルフについて聞こうと決め、タートと共に男の後を追いかける。

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