第16話 魔王様、また旅立つ
お祭り騒ぎの一夜が明けた。
飲めや踊れやの宴が開かれたとは思えない静かな酒場で、俺はタートと共に朝食を食べている。
タートは未だ食欲は旺盛で、両手にもも肉を持ち交互に食べると言う豪快な食べ方をしている。
「こっちの準備はもう少しでできるから待っていてくれな」
酒場の主人が、昨日の疲れも見せないパワフルさでテーブルにどんどん肉を積み重ねていく。
普通であれば一週間以上もっと持つかもしれない肉の量だが、今のタートの食欲では持って二、三日だと読んでいる。
それ以外にも問題なのは料金。
これだけ用意してもらったら少なくても銀貨数枚は必要なのだが、主人からは村の恩人からはもらえないと断られてしまった。払うお金は昨日野盗からいただいた分なので特に問題なかったのだが。
「ハルト、次はどこにいくんだ?」
モモ肉を貪り食いながら聞いてくるタート。
俺は村長からもらった地図を広げた。今更だが、この村の名前が「タナモ村」と言うのを知った。
「兄ちゃん、地図広げてなにしてんだ?」
テーブルに瓶詰めの野菜を積み重ねながら主人が聞いてきた。
「次の行き先です、当てのない旅ですので」
「そうなにか、なら、首都見物にでも行ったらどうだ?こんな村じゃ見れないものがいっぱいあるぞ」
「行ってみたい気持ちはあるんですが、タートが人混みが苦手なので」
「嬢ちゃんがか〜、それは仕方ないな」
そうかそうかと呟きながら顎髭をさすりつつ地図を見る主人。
タナモ村から首都方面に向けて指でなぞりつつ、首都南にある村で指が止まる。
「当てがないなら、この街に行ってみな。首都ほど大きくないが、そこそこの街だ。俺の親戚が酒場やってるから手紙を書いてやるよ」
そう言うと、こちらの返事を待たずに手紙書いてくるからよ、と言って奥へと消えていった。
行き先は決めてないからいいが、次に行く街はガリンズというようだ。連邦の首都から南、衛星都市でもないけどそんな規模の街なんかなという感じだ。
「決まったのか?」
「ああ、このガリンズという街に行ってみようと思う」
「どこだ?」
食べ終わった骨を皿に置いたタートが身を乗り出して地図を見てくる。
タナモ村から指でなぞりガリンズへの道を指し示すと、ふんと鼻を鳴らし席に戻った。
「私は満足だ。もう出るか?」
「まだ準備ができてないよ」
主人が用意してくれた食料をメェ子に持たせないといけない。まあ、準備と言えばそれだけかもしれないけど。
「なら、メェ子を呼ぶか」
そうタートが言うと、そこにいたはずのメェ子が木の床をかつかつを音を立てながら入ってくる。
随分と早い登場に驚きつつ、いつも通り天秤になるようにカゴを担がせバランスをとりつつ食料を積み込んでいく。
「なにか、空いてる感じがするんだ」
俺の積み込みを眺めているタートがボソリといった。
「空いてるってお腹がか?」
「違う!腹はもういっぱいだ。メェ子の時と近いんだが、呼んでもないにもいないんだ」
「メェ子と同じってことは、なにか召喚できそうってことか?」
「うん、同じ感じなんだが、呼んでも誰も来ない」
手をにぎにぎとしながら不満そうな顔でいうタート。
やはり昨日のレベルアップ音は確実にタート強くしているのだろう。が、今回はタートの特技である召喚で新たなものが呼べないと言う異常事態が起きている。何か問題が起きているのであれば、困ったことになりかねない。
「スラ美は呼べるのか?」
「それは問題ない。スラ美はいつも一緒だ」
「となると、俺と同じように何か儀式的なことをしなければならないとか?」
「ハルトの時のは違う。別な物を呼ぶのであって、スラ美やメェ子を呼ぶのとは全く違う」
「そういうものなのか」
全くわからない。
召喚でも種類があると言うことなのだろうか?
スラ美やメェ子は召喚獣的な扱いだとすると、俺はなんなのだろうか?
「まあ、いつか埋まると言うか、何か呼べるようになるんじゃないか?」
「そうだな」
「待たせたな」
タートと話が終わった瞬間に、でかい声と共に主人が戻ってきた。
俺の手に手紙を手渡してきて、
「親戚に渡せばよくしてくれるはずだ。俺からもよろしく言ってたと伝えといてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「礼なんていらねぇよ、こっちこそ礼を言っても言い切れないくらいのことをしてもらったんだからな」
ガハハハハッと笑いながら俺も肩を叩いた主人。
豪快で面倒見のいい性格なのだろう。そうでなければここまでしてくれないし、食料もこれだけ用意してくれないだろうから。
「準備ができたのでそろそろ行きます」
全ての食料をメェ子に積み終えることができた。カゴ二ついっぱいの食料、ほんと食料しか積んでいないが本当にいいのかと疑問に思ってしまう。
「そろそろかい」
「本当にお世話になりました」
頭を下げお礼を言うと、主人から無理やり頭を上げられた。
「礼はいらねぇって言っただろ。こんな世に中に人のために戦う奴がいることに俺は感動してるんだ」
そう言うと、村の外まで見送るぜと一緒に酒場を出ることになった。
宴のあとなのか色々と散乱している広場を抜けると、村長が待ち構えていた。
「行くのか?」
「はい、色々とお世話になりました」
「世話をかけたのは私たちの方なんだが…良ければ村にいてもいいんだが」
「ありがとうございます。旅が終わったら考えさせてもらいます」
「そうか…」
残念そうに呟いた村長は、主人と同じく村の外まで送るといい一緒に歩き出した。
なんとなく嬉しそうな顔をしているタートの横目に見つつ、次の街ガリンズを目指して歩き出した。
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