第15話 魔王様、感謝される

「本当に退治してしまうなんて…」


野盗のアジトに入った村長の第一声はこれだった。

普通に考えて子供二人が荒くれ者の野盗二十数人に勝てるとは思わないだろうから、驚くのも無理はないと思う。


「この娘達は…南の村の娘じゃないか?」


「はい、そうです。あの私たち…」


「すぐに使いのものを出して向かいに来てもらおう。無事でよかった」


「ありがとうございます」


助けた村娘達もどうやら自分たちの村に帰れそうでよかった。

村長の後ろでは、半信半疑でついてきていた村人達が忙しそうに野盗を荷車に積んでいる。野盗と言えど私刑にするわけにはいかないようで、きちんと国に突き出すと言うことで、俺が全員を縛り上げることになったのだ。

せっかく縛ったのに私刑で全員殺されては意味がないからな。


「ハルト、腹が減った」


メェ子を背もたれがわりにして座っていたタートが不満げに言ってくる。

村人達の忙しい佐藤って変わった俺とタートは退治するまでが仕事だったので暇をしていた。

が、勝手に帰るわけにもいかない。野盗退治の真の目的、路銀の確保がまだ済んでないのだ。


「嬢ちゃん、腹すかしてるんじゃないかと思って持ってきてたんだ」


いつの間にか現れた酒場の主人が布に包まれた何かをタートに手渡す。


「なんだ、これは?」


「もも肉の燻製だ、村に帰ればご馳走を用意するが、今はこれしかないから我慢してくれ」


主人が説明している間にタート包んでいたぬにを剥がし、もも肉の燻製に齧り付いていた。

これで少しは時間を稼げるだろう。


「村長、こっちの部屋に」


「そこがリーダーの部屋というわけか」


村長を案内し奥の部屋に向かう。

村長が予想した通り、そこはリーダーの部屋。

奪った物の全てが置いてあった。


「俺たちが欲しいのは銀貨と銅貨です。それ以外は、村長が好きなようにしてください」


「ほんとうにそれだけでいいのか?」


村長がそういうのも無理はない。リーダーの部屋には銀貨、銅貨でも何枚あるか分からないほどあったし、金貨も数十枚ではきかないくらいたくさんあった。それ以外にも、どこから奪ったかわからないような貴金属が山のようにあったからだ。


「いいんです、俺たちはあまり大きな街に行くつもりはないので。高価な物を持ってても監禁できないですし、金貨は街ぐらいでしか使えないでしょうから」


「確かにな」


村長が貴金属類を見ながら大きくうなづいた。

換金できれば貴金属の方が持ち歩きに便利だろうが、値段もわからなければ、価値もわからない。

間違って非常に高価な物をだったら、もしかすると大ごとになるかもしれない。換金できないどころか、泥棒か何かと思われて国に突き出されても困るし。


「もう仕分けは済んでいるのか?」


「ええ、こっちの袋に今持てるだけのものは詰めましたから」


「そうか…」


唸りつつ貴金属を見て回っていた村長が、一つの宝石を手に取って何やらじっと見ている。


「これは君たちが持っていったほうがいいかもしれない」


「なんですかこれは?」


村長から手渡されたのは真っ青なダイヤ。ブルーダイヤなんてあったかな?と思いつついろんな角度で見てみるが特段何かありそうな感じはしない。


「これは、何か曰く付きな物なんですか?」


「いや、私も見たことのない宝石でね。金になるかわからんし、それなら君たちが持ってた方がいいかもしれないと思ってね」


「そうですか」


曰く付きではないにしろ、何かしら嫌な感じはする物なんだなと解釈した。タートに持たせておけば何があっても大丈夫だろう。


「よし、こんなところだな」


あらかた貴金属類を見終えた村長は待っている村人達にリーダー部屋の貴金属や金貨などを持ち出すように指示し始めた。

あとは村長と村人達で片付けるだろう。

俺は待ちくたびれてるだろうタートが待つホールに向かう。そこには酒場の主人からもらった燻製モモ肉を食べ終えメェ子に寄りかかりながら寝ているタートの姿を発見した。


「タート、片付いたから帰るぞ」


体を揺すり起こそうとするが全く起きない。朝早かったから疲れてしまったのかもしれない。

どうすべきか悩んでいるとメェ子と目が合った。その目は仕方ない俺に乗せろと言っているような気がしたので、落ちないように気をつけつつタートをメェ子に跨らせた。


「大丈夫か?無理そうなら俺が背負うけど」


「メェェェェェ!」


気にするなと言わんばかりに立ち上がると、早く行くぞを俺を急かしてくる。

ぎんかをひゃくすうまい、どうかを数え切れないほど背負っているのに元気だなと思いつつ、メェ子と共に村へと帰路についた。



    ◆◆◆


村に帰り着くと、そこは祭り会場かと勘違いするほどの騒がしさだった。

どこにそれだけ人がいたのかというほど、広場となっているかさば前では踊る者、食事をする者、酒を飲む者達が大量にいた。

野盗が退治されたことがよほど嬉しかったんkだろう。

ただ、あまり騒がれても俺的にはうるさいだけだけど。

広場の人を避けながら江南とか酒場の中に入ると、そこも騒がしさに満ちていた。

昨日とは打って変わってどの席にも村人がいて酒や食事を楽しんでいる。


「飯か?」


酒場の中に立ち込める料理の匂いで目を覚ましたのか、タートが目をこすりつつメェから降りる。


「おぉ!!!英雄のお帰りだ!」


誰が叫んだかわからないが、その声と共に酒場にいた村人達が一斉にこちらを見てくる。


「「「ありがとう!」」」


口々に感謝の言葉をあくしゅ、肩を叩かれる、頭を撫でられるを延々と繰り返されるのではないかと思っていたとき、


「飯をよこせ!」


いい加減腹が減ったタートの叫びで酒場の中がシーンと静まり返った。


「お前ら、いい加減にしとけ。英雄様はお腹が空いてるんだとよ」


両手に大皿を持った主人が人垣をかき分けながら進んでくると、近くのテーブルの誰かの料理が乗った皿を退けつつ大皿を置いた。


「いっぱい食べてくれ。今日は俺の奢りだ」


言うより早くタートはテーブルにつき、大皿に乗っていた何かのもも肉を両手に食べはじめていた。

豪快に食べていくタートを見て村人達も歓声をあげる。


「お前はどうする?」


「俺はもう少し軽いのを」


「おう、わかったよ」


「おかわりをくれ!」


口いっぱいに肉を詰め込み、なおもおかわりを要求するタート。

食欲旺盛だが、今回の野盗退治で路銀は十分。この村で食料を買い貯めていけば次の村まではいけるはず。

主人が気を遣った程々に肉料理は、テーブルにに置いた瞬間タートに奪われた。

まあ、いいか。

まだ夜まで時間はあるし、お腹いっぱいになればタートは寝るはずだ。

それからゆっくりと食事を取ればいい。

リスのように口を膨らませながら食べるタートを眺めているうちに俺も眠くなってきた…

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