第14話 魔王様、襲撃する

野盗のアジト襲撃までもう少し。

ようやく空が白み始めてきたところだ。

タートはメェ子を枕にぐっすりと寝ている。

もう少ししたら起こして準備を始めなければならない。


「うまくいくよな…」


負けるはずはないと信じているが、少なからず不安はある。

タートが怪我をする姿を想像できないが、もししたらどうなるのか?手当てはどうするのか?そういえば手当て道具を持っていないことにも気付く。今後は最低限の手当て道具くらいは用意しておかなければならないな。

色々考えていたら動き出す時間になっていた。

慌ててタートを起こす。


「ハルト、時間か?」


「もう時間だよ」


「わかった」


起きたタートは一つ大きく伸びをすると、枕にしていたメェ子をぽんぽんと叩く。

寝起きの一発とばかりに鳴き声をあげようとしたメェ子を止めようとするがどうすればいいのか慌てていると、気づいたタートがメェ子の口を鷲掴みにした。メェ…っとくぐもった鳴き声を一瞬だけあげた。


「メェ子、鳴くなよ」


鷲掴みにした手を離しつつ言ったタート。その脇でメェ子も立ち上がると体を震わせて時間を足で引っ掻いていた。

多少ストレスを感じてるのかもしれないが、タートには逆らえないのだろう。


「ハルト、案内してくれ」


「こっちだ」


歩き出そうとしたところでタートが俺の手を握ってくる。相変わらず手を繋ぐことは欠かさない。

薄暗い山道を歩くこと十数分、静まり返った野盗のアジトが見えてきた。


「ここか」


「ああ、当分の食費稼ぎを頑張りましょう」


「うむ、ハルトは私から離れるなよ」


そう言いながらアジトへ向かって歩き出したタートは、隣を歩くメェ子をまたぽんぽんと叩く。

鳴き声をあげそうになるのを堪えたメェ子は頭を上下身振り答えると、地面を足で引っ掻き頭を低く下げた。


「ハルト、始めるぞ」


タートの言葉を合図に、メェ子が潜戸に向けて突進する。

バキィッという音を立てて、潜戸は粉砕され、メェ子の姿もアジトの中へと消えていった。


「行くぞ!」


「お、おう!」


粉砕された潜戸に向けて走りだすタートを追いかける。一人になったら生き残れる自信は皆無だ。

アジトの中に入るとメェ子が暴れていた。野盗目掛けて突撃を繰り返しているようで、すでに三人が床に倒れ込んでいる。


「スラ美、お前も頼むぞ」


ぽんという音と共に現れたスラ美は、また少し大きくなったように見える。


「ハルト!」


入り口付近で状況把握に努めていたらタートに怒られた。混乱している状況は危険だと思ったんだけど…


「私のぞばを離れるな」


「わかってるよ、だけど、俺も仕事があるから」


俺の仕事は三人?が倒した野盗を縛り上げる事。倒したままでもいいかもしれないが、この後村人たちに引き渡さなければならない。効率よく、安全に引き渡すには縛り上げるにが有効だと村長に言われたのだ。


「それはわかっている。スラ美とメェ子が敵を倒す、私がハルトを守るのだろう?」


「その通りです」


事前に建てていた計画通りに俺が動いていないと思いタートは怒っていたのだとわかった。

タートのそばに移動し、倒れている野盗を一人ずつ縛り上げていく。縛りつつ、叫び声や悲鳴が上がる方を見ると、スラ美が三人の野盗を体内に取り込みもう一人取り込もうと追い込んでいるところだった。野盗を取り込んだ事で大きくなったスラ美が悲鳴を上げながら逃げる野盗を追い詰め、覆い被さるように取り込んでいく。取り込まれた野盗は、激しく抵抗するが徐々に苦しくなっていき、最後にはぐったりとして意識を失った。意識を失った野盗は、吐き出すようにスラ美の体から飛び出してくる。


「メェェェェェ!」


五人ほど縛り上げたところで、二階の方からメェ子の鳴き声が聞こえた。

鳴き声と同時に、ニ階から野盗が一人、二人とも降ってくる。どうやら、部屋の中にいる野盗を追い立て、一階へと突き落としているようだ。

スラ美は一階、メェ子は二階と役割分担されているようだ。


「お前らこれをやったのか?」


十二人目を縛り上げている途中で頭上から声がした。

縛りつつ顔を上げると、そこには髭面の男、野盗のリーダーと取り巻きと思われる野盗三人の姿があった。


「そうだが、お前が頭なのか?」


「嬢ちゃん、こいつらは俺の部下なんだ」


「知っている、だからなんだ?」


「知ってるならどうなるかわかるよな!」


右手に持っていた棍棒を大きく振り上げたリーダーは、タート目掛けて振り下ろす。俺には何もできないが思わず手を伸ばそうとした時、タートが左手で棍棒を受け止めた。多少の衝撃はあったのか少しだけ足が動いた程度で、何事もなくタートは立っていた。


「お…お前…なんなんだ…?」


当然力自慢何だろう、その力自慢の一撃を防がれてリーダーだけでなく取り巻きも狼狽始めている。


「私はお前を退治するのが仕事だ」


「ちょ!ちょっと待ってくれ!」


大きな声をあげたリーダーは、タートに掴まれた棍棒を放し逃げようとする。

タートは、掴んだ棍棒を見ると。首を傾げ、棍棒を角度を変えつつ見ると、手首だけで棍棒をリーダー目掛けて投げた。投げたと言っても男性が全力でボールを投げるくらいの速度がありそうで、逃げようとするリーダーの背中に当たるとくの字に体が曲がったように見えた。


テテテテテッテッテ〜ン


またどこからともなく聞こえるレベルアップ音。久しぶりに聞いたが、その音と共にタートが身震いをして振り返り睨みつけてくる。


「ハルト、なにかしたか?」


「いや、なにも」


「そうか」


不満そうに首を傾げたタートは小さく唸った後、残ったリーダーの取り巻き三人を見た。

震えて助けを乞う野盗三人は、右からメェ子が、左からスラ美が、真ん中はたがかなり手加減して頭を殴りつけ片付けた。


「これで全員かな?」


「上には誰もいないそうだ」


右にスラ美、左にメェ子を従えたタートが当たりを見回しながら言う。

となるとここからは俺の仕事。リーダーをはじめ残りの野盗達を急いで縛り上げていく。


「スラ美は戻ってくれ、メェ子は誰か起きないか見ていてくれ」


「メェェェェェ!」


スラ美はスゥッ消えていき、メェ子は看守が如く一階を歩き回っている。


「タート、悪いが部屋の中を探しておいてくれないか?金目のものとか。それと、女性が捕まっていたみたいだから、その救出も」


「わかった」


残っている野盗は後七人ほど、急げばすぐ終わりそうだ。

一階をぐるぐる回っているメェ子に早くしろと言われてるような気がしつつ、後一人となった時女性の悲鳴が聞こえてきた。


「ハルト、こいつらのことか?」


奥の部屋から出てきたタートは、十代から二十代くらいと思われる女性四人を引き連れて出てきた。


「あ…あの!なんでもしますので命だけは!」


俺の姿を見ると全員が土下座をし必死に命乞いを始める。

まあ、タートより年が上そうな俺がリーダーぽく見えるのは仕方のないことだろう。


「俺たちは皆さんを助けにきたんです。もう時期村も人たちも来ますので、もといた村に送ってもらえるように頼みますね」


「助けに…村に帰れるんですか?」


「今にハルトの話を聞いていなかったのか?お前達は助けられたんだぞ」


村娘達を不思議そうな顔で見ながら言ったタートと俺の顔を交互に見た村娘達は、四人で抱き合い嬉し涙を流している。

俺はようやく最後の一人を縛り上げることができた。これで俺たちに仕事は終わり。


「タート、どうだった?」


「あの部屋にあったぞ」


指さされた部屋は、他よりも扱いが良さそうな感じがする。もしかすると、リーダーの部屋なのかもしれない。

外に合図を送った後に物色しよう。

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